見分けがつかない
一応この階層を一通り調べてみたけど、無機質で不思議な空間ということ以外何もわからなかったわ。
ちなみにここで私が封印して回った怪物は八体で、後頭部にかけてたてがみもあって馬っぽかったわ。
どういう法則で変態するものが決まっているかは謎だけれど、建物ごとにほぼ一定なのも謎ね。
っていうのは、クマにしてもサイにしても、そして今回のウマもそうだけど、ほぼほぼ一緒なのよね。
もちろん人間の時に着ていたものはそのままだから、人それぞれでお洒落なものや、まさに部屋着ですってのもあれば、裸族かお風呂上りだったのか何も身に着けてないのまで様々だったわよ。
違わないのは毛色とかよ。
馬自体に全然詳しくはないのだけど競馬で大きなレース、例えば年末にやってるような有馬記念とかをテレビでみたことがあるけど、茶色や黒っぽいのもいればグレーに白っぽいのまでいろんなウマがいるじゃない。
馬好きの誰かが説明してくれたけど、栗毛とか鹿毛、芦毛って言うんだっけ。
あまり興味がもてなくてどれがどんな特徴だったかは忘れたけれど、青毛だけは全身真っ黒なのになんで青なのよって思ったから覚えてるわ。
なのに、ここにいたのはどれも同じような茶色なのよね。なんか変じゃない。
顔つきも元の人間の顔は千差万別のはずなのに、怪物になった後がほぼ同じに見えるのも変よね。
欧米人がアジア系人種の顔の見分けがつかないように、あまり馴染みがない他の人種の顔って見分けがつかないのはありがちな話ではあるけど、そういうのとは多分違うのよね。
ちなみに大人数のグループアイドルで誰が誰だか判らないっていうのも似たような理屈らしいから、年寄り扱いされないように普段から若い世代と交流するといいそうよ。
要は、識別できるだけの情報量の蓄えがあるかどうかってことね。
なんて言ったらいいのかしら。
まるで一枚の写真をコピーした感じって言ったら判ってもらえるかしら。
とにかく個体差をほとんど感じないのよね。
だから何だって言われればそれまでだけど、違うべきものが違わないって違和感ありまくりじゃない。
みんなは気にならないのかしら。
ということで、聞いてみたわ。
「言われてみれば変ですね。」
「全然、気にしてなかったの。」
「さすが姐さんっス。目の付け所が違うっス。」
「それでどうして一緒なんだと思う?」
「わざわざ違うようにするのがめんどくさかったから?」
「ゲームだと同じモンスターは同じビジュアルが当たり前っス。」
「コピーしたからなの。」
「全部、言い得て妙、かもしれないわね。」
「どういうことですか。」
「そのままよ。ダンジョンが何かひとつのものを怪物のモデルとして決定してすべての住人に適用した、ということよ。」
「マジっスか。」
多分そういうことよ。
じゃないと、ここまで違いがないのは不自然だわ。
「だとすると、どうやってモデルを決めたんですかね。」
そう、問題はそれよね。
「多数決なの。」
「私が思ったのは逆ね。」
「誰か一人の要望ってことですか。」
「要望っていうのとは違うと思うけど、誰かの記憶から適当なモデルを抽出した、みたいなことじゃないかしら。」
ナビ子が私の中にいるように、ダンジョンが人の知識や記憶を利用するなんて朝飯前な気がするわ。
そうよ、そういうことなんだわ。
恐らく、ダンジョンを支配する何かは住人を支配下に置くために適当な怪物に変化させようと誰かの記憶からそのモデルを探したんだわ。
だとすると、あのファンタジーな三つ首の怪物も説明がつくんじゃないかしら。
あの侵入者がそういう嗜好に偏っていたとか、ね。
「もし、姐さんの記憶から抽出してたらとんでもないことになりそうっス。」
「確かに。先輩のスキルみたいに変幻自在だったりして。」
「無敵の妖怪なの。悪霊退散なの。」
なんで妖怪だの悪霊だのとんでも扱いされるのかしら。
でも、それでひとつの可能性に気づいたわ。
スキルも同じなのかもってことに。
私たちの寮とかだと怪物に変態させることができなくて、その代わりにスキルを発現させてしまったんじゃないかしら。
スキルの場合は適正もあって、それぞれの記憶から抽出するしかなかったとするとどうかしら。
「そうですね。子供の頃はよく目眩を起こして倒れることが多かったですね。」
「人見知りなの。特にぐいぐい来る人は苦手なの。」
「自分は、壊れたおもちゃとか直すの得意だったっス。」
自分のスキルに思い当たる節があるか聞いてみたのだけれど、やっぱりいい線いってそうね。
須奈乃の「音痴」も、太陽の「胃痛」もこの線から外れないものね。
誰かしら。私のスキルが「自己中」や「我儘」、「勝手」じゃないのがおかしいって言ってるのは。
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