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二階

数分後、私たちは明かりもなしに暗闇へと続く階段を下りていたわ。

先頭を行くのはもちろん私で、くりりん、承太郎、瑠奈の順に後ろをついてくるわ。

ゆっくりと一段一段慎重に歩を進めていくと、入口からは階段の下を見通すことはできなかったけど、実際には真っ暗というわけではなくぼんやりと周囲が判る程度には視界が確保できているわ。

明かりらしい明かりはないのだけどそれなりの距離だけ見えてるなんとも不思議な空間ね。

そろそろ階段を下りきるようで、段がなくなるのが見えるわ。

一番下まで下りたところで私はいくつかの存在を感知したので左手を二度素早く前後に振って合図したわ。


「太陽拳!」


合図に反応したくりりんがスキルを使用すると同時に獣が呻くような音と床を転げ回るような音がいくつか発生したわ。

すっかりお馴染みになった光景が目の前に展開されると、私は床を蹴って駆け出し次々と怪物を封印していったわ。

ちなみに今回の杖は上で拾ってきた木の枝よ。


「あ、真っ暗ってわけじゃないんですね。よっと。」


くりりんは残りの二段を飛び降りると辺りを不思議そうに見回してるわ。

続いて承太郎と瑠奈も平らなところまで下りてくると、同じように見回してるわ。

今初めて見ましたって感じだけど、実際その通りなのよね。

どういうことかというと、てっきり真っ暗だと思ってたから最初の数段で階段の段差を掴んだら後は目をつぶらせていたのよね。

そうして私からの合図を待って太陽拳を使えば暗闇にいた相手はこれまで以上にダメージを受けてのたうち回るけど、こちらは目をつぶっているから基本的にはノーダメージで光が消えた後で目を開ければ暗闇にも少しは対応できるんじゃないかって作戦を実行したわけよ。

え?前提がおかしいって?

私がどうやって合図を出すつもりだったのかっていうなら見てた通りで、私がちゃんと見てたもの何の問題もないじゃない。

ああ、最初は暗視みたいな能力を使って何とかするつもりだったのよ。

でも、階段を下り始めて気づいたように周囲は見えているみたいだし、実際に暗視を使ってみても先まで見通すことができなかったのよね。

そんなだから暗視はやめて索敵系に能力を変更してみたわけなんだけど、階段を下りてる間は何も反応しなかったのに下りきった途端に反応があったからちょっとだけ驚いたわ。

もしかしたら階段と平らな部分はいろいろと「別」なのかもしれないわね。

合図を出す方法については紐か何かで私と皆をそれぞれつなごうとしたんだけれどそこら辺に見当たらなかったから私の髪の毛を何本か結んで代用しようとしたんだけれど却下されてしまったわ。

そうよね、他人の髪の毛ってちょっと気持ち悪いものねと思ったけど、なんか違う理由だったみたいだわ。

結局、瑠奈がツインテールを結んでいたリボンを提供して、それを縦に割いて結ぶことで長さを確保したわ。

もちろん用が済めば承太郎の修復で直せるからって算段があったから採用した案よ。


一通り封印して呻き声が聞こえなくなるとみんなのいる階段の所に戻ったわ。


「なんか不思議な空間ですね。自分の周りの数メートルだけはっきり見えてて、その先は見えないけど、自分が移動すると見えてる範囲も一緒に移動するみたいです。」


「自分自身が明かりみたい、なの?」


フフッ。自分の光を持てるなんて、戦車のレクイエムによる攻撃を受けてるみたいね。

それにしても索敵にはもう何も反応がないのだけど、クマアパートやサイアパートみたいに制圧したことにならないのはなぜかしら。

ダンジョンの状況が変わったから何かルールも変わったのかと思ったのだけど、どうやらそうではなかったようだわ。


「姐さん、こっちにまだ下に続く階段があるっス。」


先がまだあるってことね。

ここにあった建物は確か三階建てだったと思うから、ということはこの地下の空間も三階層の構造なのかもしれないわね。

だとすると、ここは一階に相当するのかしら、それとも三階なのかしら。


階の数え方といえば、イギリスやオーストラリアとかでは日本でいう一階をgroundグラウンド floorフロア、二階をfirstファースト floorフロア、三階をsecondセカンド floorフロアだけど、アメリカではground floorを使っているところは少なくて一階がfirst floorなのよね。

英語じゃないフランスやドイツ、スペインとかの欧州のほとんどでもイギリスと同じように二階を「一番目の床」として表現するところが多いわ。

そんなだから留学生が講義室の場所を確認したけど、お互いの祖国の習慣の違いでうまく伝わらなかったってことが往々にして起こるみたいね。

ちょっと前の「たぬき」と「きつね」の由来に近いかもしれないわ。


そもそもどうしてこんな事が起きるのか調べてみたことがあったんだけど、今となっては「そうだから」ってことで由来がはっきりしていないみたい。

諸説と私の考えを交えて言わせてもらうならこういうことだと思うの。

イギリスを始めとする欧州諸国は古くは外から家屋に入っても人工的な床がなくて地面だったから、そのまま外と同じ高さのところをgroundって表現するようになったんじゃないかしら。

そうすると必然的に階段を上がったところの最初に作った床が「一番目の床」になるわけで、first floorになるのも当然ということになるわ。

時代が進むとgroundにも床を作るようになったけど、言い方はそのまま残っていったって考えれば割とすんなり納得できたのよね。

一方のアメリカは17世紀に移民してきた多くはイングランド人だったらしいけど、新天地に夢を求めて来た人の中には、それまでの風習を気にしない人が多くいたんじゃないかしら。

併せて、既に建物の地上階の全てに床を作るようになっていたからgroundって表現しなくなってfirst floorから始まるようになったっていうのはどうかしら。


これをややこしくしてるのが「日本語の「二階」をどう翻訳しますか」問題ね。

ここまでの話をすっ飛ばして、イギリスとかで階なのにfirst(一番目の) floorっておかしくない?って言われればそりゃおかしいわよね。翻訳の意味を理解していないのだもの。

これ以上は長くなるから端折っちゃうけど、興味のある人は「二階建て」の翻訳も調べてみるといいわ。


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