無視できない虫
このアパートの他の部屋をすべて封印して回ったけど、結論から言うと全て犀だったわ。
こうなると建物ごとにどんな変化になるのか決められていると考えるのが妥当かもしれないわね。
住人はすべて犀人間になっててクマアパートと同様に最後の一人を封印したところでナビ子の声が響いたわ。
『敵陣を制圧したのでポイントを獲得しました。』
ふうん。
ここでクマアパートで覚えた違和感の正体が判明したわ。
確かにこのアパートの住人は全員犀人間になってて、私がそれをすべて封印して誰も抵抗できない状態に等しくしたかもしれない。
でも、思い出してほしいの。
東伊豆の廃病院に出た怪物のことを。
あの怪物が廃病院に棲みついていた何か、多分犬が変化したものであることは十中八九間違いないと思うの。
何が言いたいかというと、ダンジョン内に棲息している生物はもれなくダンジョンの支配を受けると思い込んでいたの。
でも、そうじゃなかったの。
私たちの寮もそうだし、クマアパートもサイアパートもだけど、一匹の虫もいないはずがないのよ。
アリとかクモとかGとか何らかの虫がいて普通なのよ。
実際に途中の部屋でも見かけたけど、今も目の前にGがいるのよね。
でもこのGは怪物化もしてなくて、倒すべき頭数にも入っていないこの事実。
ダンジョンはこいつらを支配下にしないのか、できないのか、どちらなのかしらね。
「先輩、どうかしたん…ひぇっ。」
「人類の敵なの。悪即斬なの。」
Gを見て思いに耽っていると私の視線の先にあるものに気づいてくりりんは飛びずさり、瑠奈はそこら辺にあった新聞紙を手に取って丸めると距離を詰めたわ。
嬉々としてGを追いかけて叩き潰そうとするその姿は地獄絵図で鬼が亡者を追い回すのを彷彿とさせるわ。とても微笑ましいわね。
余談だけれど、Gを叩き潰すのは菌や卵を撒き散らす恐れがあるから推奨されないそうよ。
殺虫剤を使って弱らせたらしっかり封印してサヨナラするのがいいそうよ。
瀕死に見えても最後の力で産卵するかもしれないから、決して放置せずきっちり処分するのよ。
そういえば、男子寮でGが大量発生して大騒ぎになったことがあったそうよ。
調べてみたら使えそうだからと拾ってきた粗大ごみのスピーカーの中に大量のGの卵があって結構な数が孵化してたみたいで駆除が大変だったらしいわ。
ちなみに、ごみとはいえ捨てられているものを勝手に持ち去ると罪に問われる可能性があるから気を付けるのよ。
自治体によって異なったりするけど、特に古紙や古布、空き缶・空き瓶などの資源ごみの持ち去りは処罰の対象になっているところが多いわ。
近年、粗大ごみは普通に捨てられなくて、行政に依頼して手数料を払って回収してもらう所が増えてるから、そういうのも持ち去ると業務妨害として問題になるケースもあるわ。
他にも、マンションとかのゴミ集積場に勝手に入り込んで物色すると不法侵入にもなるからやっちゃだめよ。
「逃げられたの。地獄の果てまで追い詰めるの。」
目が血走ってる瑠奈もいいわね。
意外と好戦的な一面も見られて嬉しいわ。
「瑠奈ちゃん、もうやめよーよー。反撃されたら怖すぎるよー。」
ダンジョンが虫を支配下にしないのか、できないかについては今のところ判断材料がないのだけど、人間はもちろん廃病院の怪物という前例があるから犬の類は支配下対象よね。
生物というなら植物もあるけど、寮にある樹木もそうだけどここの敷地内の草木も特に変わったところはないから植物は対象外のようね。
樹木は人間よりよほど大きいしダンジョンが認識できないってことはないでしょうから、生物の大きさを見ているわけではないのかしらね。
単純に実績から絞るなら、哺乳類って線が順当そうね。
Gは昆虫だけど、確か蜘蛛は昆虫じゃないわよね。
そこら辺を一緒に分類するのって節足動物って言うんだったかしら。
節足動物に対するなら、もしかしたら脊椎動物っていうのが妥当なのかもしれないわね。
そうするとネズミの棲みついているところには要注意ね。
「虫喰い」に身体を溶かす毒針を打ち込まれないように用心しなくちゃね。フフッ。
「五条くんも隠れてないで瑠奈ちゃん止めてよー。」
「自分は虫全般苦手っス。なんで見ちゃった以上、無理っス。」
承太郎のそれは隠れてるつもりだったのね。
大きい身体が全然隠れきれてないわよ。
後は人間が変化するパターンも何か考えられるかしら。
今のところ熊と犀だけど、こっちも脊椎動物限定なのかもしれないわね。
廃病院の怪物が犬の変化したものだとすると、三つ首だったからあれだけ随分ファンタジーよね。謎過ぎるわ。
こっちはサンプルが少な過ぎるから今はこの辺にしておこうかしらね。
思考を止めると、犀人間の何体か封印を解除してクマアパートと同じように大人しくしてるように言いつけておいたわ。
早く人間に戻れるといいわね。
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