思いがけない再会
ということでやってきたのは小さな二階建てアパートの前。
先頭の承太郎に端の部屋の呼び鈴を押させると、すぐに中から反応があったわ。
「えらい早かったやないかい。ほな早速シャワー…って男っ!?しかもデカっ!さっきの兄ちゃん…と、ねーちゃんらやないかい。」
ドアを開けて出てきたのは先刻思いがけず下僕にしたタヌキオジサンだったわ。
私たち、特に私を見て挙動不審なのが一目瞭然ね。
「あら、さっきのオジサンじゃない。で、シャワーがどうしたのかしら。」
「え、あ~、その〜、あれや。そや、シャワーが壊れて修理頼んでたんや。その修理する人が来たんかと勘違いしたんや。」
嘘が下手ね。突っ込む気にもならないわ。
まあいいわ。このオジサンに無駄な時間かけてられないもの。
「承太郎、ついでだから直してあげなさい。」
「了解っス。お邪魔するっス。」
そう言うと承太郎はオジサンの横をすり抜けて部屋に上がり込んだわ。
「あ?なんで兄ちゃんがシャワーの修理できんねん。ちょっ、待たんかい。」
「承太郎、いいから適当に目に付くところ全部直してあげなさい。オジサンは私と少しだけお話ししましょ。」
「は、はいぃ…。」
「まず、オジサンはこのアパートの管理人かなんかなのかしら。」
「土地建物の所有者や。一応、管理人もしてるで。」
なるほど、やっぱり建物に責任者のような存在がいると怪物化しないで済むようね。
「ほかの部屋の人たちはどうしてるのかしら。」
「それが、今朝出かけようとして出られへん言うて今も全員部屋にいると思うで。」
そう、初期設定も変わらないのね。
「管理人として怠慢ね。何か手は尽くしたのかしら。」
さっき意図せず傘下に加えた際に設定はナビ子に変更させているからもう外出できるはずなんだけど気付いてないみたいだわ。
「ワシに何ができるっちゅうねん。とりあえず自分だけは外に出られたから周りの様子を見に行ってはみたけどなんもわからんし、挙句の果てにねーちゃんらにはこっぴどい目に遭わされるし…いや、すまん。アレは自分の所為やな。せめてもと思て、飲み物やら食べ物やら買って来て渡したぐらいや。」
それで、コンビニで結構な量のものを買ってたのね。
ちょっとはいいところあるじゃない。
その調子でゴミ拾いも頑張るのよ。
「姐さん、とりあえず目に付くところは片っ端から直したっス。」
「よろしい。それじゃあ私たちは行くわ。ゴミ拾いのこと忘れてないわよね。」
「…心配せんでもちゃんとする。」
反省の色は見て取れるから大丈夫そうね。
「それと、この後に来る女の子には優しくするのよ。じゃあね。」
「な!?何をっ!?」
くりりんと瑠奈は何のことか分かってないようだったけどそれでいいのよ。
世の中には知らなくていいこともあるのよ。
昨年、寮生の子が悪質なスカウトに引っかかって大変だったのよね。
興味本位でついて行っちゃったら危うくそのまま働かされそうになっちゃったらしいのよ。
それもキャバクラとかソフトな方じゃなくて肌のふれあいのある風俗だったから怖くて逃げようとしたけど「家族に連絡するぞ」とかいろいろ脅されてどうしていいか分からなくなっちゃったのね。
どうにか隙をついて私に連絡してきたから助けられて良かったわ。
どうやって助けたかって?それは想像に任せるわ。
これだけは言っておくと、そのスカウトの男は間違いなく大阪近辺にはいないわ。フフッ。
風俗で働くこと自体を否定するつもりは一切ないけど、それはあくまで自分の意思で働いている場合ね。
強制されたり騙されたりして働いているなら速やかに然るべきところに相談することをお勧めするわ。
女の子のカラダをお金に換えることしか考えていない愚か者には、この私が然るべき制裁をしてあげるから覚悟しなさい。
「ああ、一番大事なことを忘れていたわ。住人たちにもう自由に出入りできるようになってるって早く教えてあげるといいわ。」
「ほんまかっ!?なんでや。」
「私がそう望んだからよ。言っとくけど嘘でも冗談でもないからね。」
「…まさかのねーちゃんの仕業やったんか!?」
「閉じ込めたのは私じゃないわよ。でも、解放してあげたのは私だから精々恩に着なさい。じゃあね。」
傘下にした時もだけどオジサンにダンジョンのことを話して、事情を理解させる必要性は今のところ感じなかったから、事実だけ伝えて今度こそタヌキオジサンのアパートを後にしたわ。
去り際にふと目に入った建物の銘板を見て苦笑しちゃったのは内緒よ。
だって「メゾン田貫」だったんだもの。
「まさかの再会だったの。」
そうね、占ってくれるババアのところで死んだじいちゃんに再会した時ほどの驚きも喜びも感じなかったけどね。
なんかハズレくじを引いたみたいになったけど、住人にとっては外出できることが分かってよかったということにしておきましょ。
次は当たりだといいわね。
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