出没注意
結局、無事な住人は一人もいなくて最後であろう熊男を封じた時にナビ子の声が響いたわ。
『敵陣を制圧したのでポイントを獲得しました。』
あら、そういうことになるのね。
『現時点でダンジョン内の全ての怪物を無力化したため、制圧完了と看做されました。』
全ての怪物、ねぇ。
なんか引っかかるんだけど。
でも、こんなところを制圧して何になるのかしら。
『本拠点のダンジョンマスターに就任しました。設定を変更する場合はメニューから実施してください。』
そんなことまでやらされるなんて聞いてないわ。
そう思ったけど、ひとつ気になったのですぐ試してみることにしたわ。
床に落ちているカードめがけて竹ぼうきを振り下ろす。
「封印解除!」
思った通りに封印した時とは逆に光の渦がカードから溢れ出し熊男の姿を形作り始めるわ。
「ご乱心なの。」
「はわわ。」
「んなっ!?」
三者三様だが驚きを隠せないようだ。
そりゃそうよね。
説明もしないでこんなことされたら私だったらどつきまわしてるかもね。
でも一から全部説明してると回りくどいし、見てもらった方が早いかなって思ったのよ。
なので一応注意だけはしておく。
「大丈夫なはずだけど、念のため瑠奈はフィールド全開してくりりんと承太郎を守っててちょうだい。」
言い終えたころには熊男が封印前と同じ姿で立っているわ。
私のすぐ目の前に。
「熊のピンチなの。」
「危ないですから早くもう一回封印してください~。」
「血ぃ見てないっスから物足りなくってやっちゃうんっスね。」
反応がおかしいと思うのが含まれているのだけれど気のせいかしら。
まあ大丈夫だから、見てなさいって。
「おすわり。」
熊男が大人しく私の言うとおりに床に座るのを見て、三人は目を丸くしたわ。
「ありえないの。」
「なんで怪物手懐けているんですかっ!非常識にもほどがありますっ!」
「さすが姐さんっス。」
つまりこういうことよ。
私がここのダンジョンマスターになったのなら、ここにいた怪物も私の下僕になったはずよね。
ということは、須奈乃たちが私に攻撃的なことをできなかったように怪物たちも私に手出しできないはずなのよ。
誤算は人間に戻らなかったことね。
これはそのうち別の方法を考えることにしましょ。
ということで、ここを支配下においたことなどを説明して三人を納得させたわ。
「それで先輩は熊男たちをどうするんですか。まさか売り飛ばしは…しないですよね。」
「クマ園するの?」
「熊肉食うんっスね。」
どれもしないから。
とりあえず何人か封印解除して様子を見ることにしたわ。
もしかしたら時間が経てば元通りの人間に戻るかもしれないしね。
ただし、行動の制限はさせてもらうわ。
ナビ子、良きに計らいなさい。
『本拠点は現状の設定を維持します。』
よーしよし。いい子ね。
現状維持ということは思ってた通り外出不可の設定だったみたいね。
仕方ないわよね、このままコンビニとか行って熊が出たなんて騒がれても困るものね。
熊と言えば、大阪では2006年から2013年の間は出没情報はなかったんだけど、2014年からは毎年出没情報が寄せられているそうよ。
目撃されたほとんどは大阪府北部の山中や山あいの地域だったみたいだけど、だんだん住宅地に近づいてきてるって話だわ。
全国的にも同様で、以前は全くの手つかずの山と人が管理していた里山に切れ目があって、熊としてもその境界を越えて活動することは稀だったみたいなんだけど、近年は里山を管理する人が減ったり、人が減った山村自体が放棄されたりといったことで境界が曖昧になってしまったこともその一因があるみたいね。
山中に行ってゴミをそのまま放置してくる人がいることも問題視されているわ。
熊にしてみれば、山中をずっと移動していたつもりが突然人里に行きついてしまったり、活動範囲にあった新しい食べ物を探し求めて辿り着いたら人間の作物だったんだよってことで傍迷惑な話なのかもね。
そんな熊が人間の活動範囲に現れたときに「人に被害が出る前に駆除しろ」「なぜ殺すんだ」とか対応をああだこうだ言う前にうまく共存できる方法をどうにか探してほしいものだわ。
人間が全ての土地を管理する権利があるわけでも、管理できる能力を有しているわけでもないのだから。
何にしてもどこでも好き勝手にゴミを捨てる人は論外ね。
私の目の前でそんなことしたら絶対に許さないんだから。
ああ、熊男の処遇の話だったわね。
人間と同じで一日ぐらいならご飯食べられなくても問題ないわよね。
一応、部屋にあった容器に水を入れておいて直ぐに口にできるようにはしておいてあげたわ。
熊男は声帯が変化してしまったのか喋れなくなっていたけど、こちらの言葉は理解できているようだったわ。
なので、また様子を見に来るから大人しくしてるのよと念押ししておいたわ。
「知らない人が見たらリアルな着ぐるみに入ってる人を言い含めてるみたいだね、瑠奈ちゃん。」
「私には猛獣を手懐けてる調教師にしか見えないよ、凜ちゃん。」
「自分も調教して欲しいっス。」
なんか言ってるけどお昼時を少し過ぎたので私たちはランチすることにしたわ。
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