闘う準備はできているか
このアパートは建物の真ん中に入口があって、すぐ内階段があるのが見えるわ。
内廊下がその左右にあるみたいだけど、ここからでは見通せないわね。
「承太郎、行きまーっス。」
白いMSのパイロットじゃあるまいし、大きい声出してどうすんのよ。
廊下に怪物がいたら襲ってくださいって言ってるようなもんじゃない。
案の定、私には廊下の先は見えないけど、足音が近づいて来るのが聞こえるわ。
「くりりんっ!右よっ!」
私の指示に遅れることなく反応したくりりんの目くらましが遺憾なくその能力を発揮すると、獣が呻くような音と何かが転げ回るような音が聞こえるわ。
「瑠奈、フィールド全開!上と左は私が見てるから右だけ注意して!」
「りょ!」
「姐さんっ!自分は…。」
「承太郎はそこのホウキ取って!」
階段の脇に置いてあった掃除用の竹ぼうきを承太郎から受け取ると武器代わりに構えて、階段の上と左側の廊下を注意深く探ってみたけど新たに何かが出てくることはなかったわ。
安全を確保しつつ改めて床をのたうち回っているものを見ると、熊のように見えなくもない怪物がそこにいたわ。
それが男物の服をはちきれんばかりの状態で身にまとっているのが何ともシュールね。
特にスニーカーを履いているのがそれに輪をかけているわ。
でも、そのおかげで足音が聞こえたのは幸いだったわね。
そんなシュールさはあるけど、とてもく〇モンの出来損ないと呼べるような可愛げがあるものじゃあないわ。
オードリーが見たときは変態がまだ進み切っていなかったからかもしれないわね。
ところで怪物もスキルを持っているのかしら。
承太郎の声に反応して無造作に近づいてきたところを見る限りは遠隔攻撃を持ってなさそうだし、慎重さにも欠けるようだけど、個体差があるかもしれないし結論はまだ出せないわね。
「瑠奈、どれぐらい全開の状態を維持できるのかしら。」
「特に辛さも感じてないですし、今のところは全然大丈夫なのです。攻撃されたら判んないですけど。」
「そう。承太郎はアレとタイマンやって勝てそうかしら。」
「…柔道のルールに則ってくれたらイケるかもっスけど、あの爪や牙を見る限りかなりヤバいっス。」
「そうね、問答無用で襲い掛かろうとしてたようだからスポーツマンシップを期待するのは無理そうね。」
というところで怪物が状態を回復しつつあるようで、のたうち回るのをやめて後ろ足で立ち上がろうとする。
あら、四足歩行じゃないのね。
あくまで人間の骨格の上に熊っぽい要素が付け加えられたということかしら。
「瑠奈、一回だけ怪物の攻撃に耐えてちょうだい。後は何とかするわ。」
「が、頑張るますっ。」
フフッ。ぴーなつが好きな子みたいになってるわよ。
熊男は立ち上がって改めて私たちを認識すると突進してきたわ。
何かの能力を使う様子もないし、どうやら肉弾戦しかできないみたいね。
人としての知性は残ってないのかしら。
残ってても格闘経験があるような人ってそんなに多くはないだろうし、子供同士の喧嘩の経験だと体当たりしたり掴みかかるぐらいしかできないのかもしれないわね。
熊男が両腕を大きく広げて先頭の承太郎に掴みかかろうとするけど、その手前で瑠奈のフィールドに阻まれてあっさりとはじき返されると後ろに転がってしまったわ。
「瑠奈、大丈夫?」
「大丈夫ますっ。」
結構余裕がある、でいいのよね。
じゃあ私もちょっと試してみようかしら。
本当は電気炊飯器があればそっちの方が良かったんだけど、大魔王封じのお札もないから次善の策ね。
一気に駆け出して再び立ち上がろうとする熊男の頭を目掛けて竹ぼうきを思いっきり振り下ろしながら叫んだわ。
「固着っ!!」
イメージはカードを集める魔法少女ね。
竹ぼうきは思い描いたように熊男の頭に命中する寸前の空間を叩くと光の渦を収束させたわ。
だけどその先は思い描いた通りではなくて、光の渦が熊男を吸い上げるように巻き込むと見る見るうちに熊男の姿は見えなくなり、竹ぼうきの先に半透明な一枚のカードが出現して床に音を立てずに落ちたわ。
「カード、ですね。」
カードを拾い上げた私に向かって瑠奈がボソッと呟いたわ。
「そうね、カードだわ。」
「先輩、お願いだから私をカードにしないでくださいね。」
瑠奈が承太郎を盾にして私から隠れたわ。
ついでにくりりんも。
「しないわよ。」
「姐さん、すげえっス。何したんっスか。」
「人間を怪物化させた何かだけを封印?みたいなことをできればいいと思ったんだけど、存在丸ごと封印しちゃったみたいね。」
カードをしげしげと見てみるが本家のものはもちろん「いよカード」のような名称もなければ月と太陽の紋様も見当たらないわ。
なんか残念だわ。
「先輩、その「いよカ」どうするんですか。」
関西圏で使える交通系ICカードみたいに言わないでほしいんだけど。
あ、たまってるポイントをチャージ…できたりしないわよね。
何卒、評価・ブックマークよろしくお願いします♪




