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この気何の気気になる気

「堪忍じゃあ、警察は呼ばんでくれえ。」


大の大人が鼻水垂らして許しを請うなんて、なんて情けないのかしら。

間違えたわ。大の大人じゃないからこうなのね。


「警察を呼ばなかったらあなたはどうするのかしら。このまま何事もなかったって喜び勇んで帰るのかしら。」


「そりゃあ…わかった、金を払おう。示談金ってやつだ。」


「お金で解決しようなんてなんか気に障るわね。私のことを何だと思ってるのかしら。なら、今すぐ五千万円持ってきなさい。」


「五千万やてっ!?」


「せ、せんぱいっ。それはいくら何でも吹っ掛けすぎですよ。」


「なんで?私たち一人一千万ずつの慰謝料に、この辺り一帯の煙草の吸殻とか清掃するのに二千万ぐらいあれば十分じゃないかしら。」


「今すぐ五千万は無理じゃあ…。」


「なら軽々しくお金を払うなんて言い出さないことね。まさか子供の小遣い程度の額で誤魔化そうとしてたなんてことは…ないわよね。」


青ざめた顔で鼻水を飛ばしながら首を横に振るオジサンはとても汚いわ。


「じゃあ、こうしましょ。オジサンはこれから体が動く限り毎日近所のごみを拾って綺麗にするのよ。そうね90リットルのポリ袋ひとつで許してあげるわ。その結果を毎日自分のSNSにアップするのよ。」


「毎日?雨でもか?」


「当り前じゃない。私も鬼じゃないからさすがに台風とか大雨警報で命の危険を感じる時は許してあげるけど、それ以外は毎日よ。」


何かしら。

くりりんが鬼の方が可愛げがあるとでも言いたそうな目を私に向けているけど気のせいよね。


「ゴミ拾いか…なら」


「人にやらせたり、お金の力で何とかしようなんて気をおこしたらただじゃおかないわよ。」


「ひぃっ。わ、わかっとるがな。」


全然、分かってなかったわね。

私の下僕になった時点で、私の庭を汚した責任はどうあっても取らせるつもりだったのだから、これぐらいで済んだことを感謝してほしいわ。

私の庭ってどういうことかって?

もはや大阪を平定するのは確定事項な私にとっては遍くこの一帯は私の庭に等しいということよ。

自分の庭にゴミを捨てられて嬉しい人はいないでしょ。

少なくとも、私たち若い世代にとってはこのオジサンより長くこの地上で暮らしていくはずだから、これ以上好き勝手に汚されてたまるもんですかってことよ。

何年か前にスウェーデンの同世代ぐらいの女の子が地球温暖化の危機を訴えていたけど、大人たちは本当に私たちの生きる未来をなんとかしてくれるつもりはあるかしら。

話す場だけ与えて、満足したでしょってのは勘弁してほしいわね。

多くの人が自分の生きている今だけしか見ていないとしたら、人類の生活環境はどんどん生き苦しくなっていくことでしょうね。

話はちょっと違うけど、温暖化が進んだことでこれまで作付けが困難だった地域でも〇〇ができるようになりましたって喜びの声だけを伝えるのも納得がいかないわ。

その裏で、これまで作れていたものや獲れていたものが安定して得られなくなりつつあることの方を危惧しなきゃいけないんじゃないかしら。

環境が変化したことに対応していくのはもちろん必要なことではあるけれど、そもそも環境を悪化させないことにもっと注力してほしいと思うのは私の我儘じゃないわよね。

美味しいお米をちゃんと将来も作り続けられるようにしてくれないと、この私が絶対に許さないんだからね。


この後、このオジサンはちゃんと言いつけを守って来る日も来る日もゴミを拾い続けたようだわ。

オジサンのSNSの内容がこれまでの鼻につく旨いもの食べました系のどうでもいい食レポが鳴りを潜めて、ゴミ拾いの結果が上がり続けると世間のオジサンに対するこれまでの評価も一変して一世を風靡したのはまた別のお話よ。


「ちゃんと真面目にゴミ拾いするのよ。」


「へい、ほな失礼します。」


コンビニで温かい飲み物を買ってもらってオジサンと別れたわ。


「自分も買ってもらってよかったんっスかね?」


このガタイのいいのが五条ごじょう 承太郎じょうたろう

オジサンを引き連れて件のアパートの前にあるコンビニに来たところで問題なく会うことができたわ。

ひと悶着あったから少し待たせたみたいだけど全く気にしていないみたいね。


「何も問題ないわ。」


「そっスか。で、あねさんはこれからどうするんっスか?」


誰が姐さんよ。

一体何のロールプレイなのかしら。

問題のアパートは外から見る限りは特に何も感じないわね。

地上二階建てのアパートは静寂に満ちているわ。


「それじゃあ怪物がどんなものか見に行きましょうか。」


「マジっスか。作戦とかはないんっスか?」


「見に行くだけだから作戦も何もないわよ。強いて言うなら、怪物が襲ってきて私が対処できないようなら瑠奈が守りを固めて、くりりんが動きを妨害して敷地の外まで退避する。誰か怪我したら承太郎が治す。それだけね。」


「それだと姐さんが怪物を全部叩きのめして終わりって未来しか想像できないっス。」


どんな想像力を駆使するとその結論にたどり着くのかしら。


「ひぃっ。でもそれがいいっス。」


何がいいのかわからないけど私と視線を合わせた承太郎が震えているわ。


「せ、先輩、気が溢れてますよ。落ち着いてください。」


気っていつから見えるものになったのかしら。

あぁ、くりりんはZ世代だからZ戦士の素質があるのね。

そういうことにしておきましょ。


最終的に隊列は承太郎を先頭に、瑠奈、くりりん、私ということでアパートに侵入することになったわ。

承太郎が「姐さんたちは自分が先頭に立って守るっス」って絶対に譲らなかったのよ。

その気概は認めてあげるけど、言ったからにはちゃんと結果を出すのよ。


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