変態
「多分、今解決したわ。もう大丈夫よ。」
「どゆこと?」
「初期設定で外出できないようになってたみたいね。今、ナビ子に変更させたからもう外に出られると思うわ。」
「未知の存在を自在に操るなんてさすがだな。なんにしても今のことも相手と交渉するのに使えそうな情報ではあるな。他にも設定について調べてみて何か判ったら知らせるよ。」
「ちゃんとできたらご褒美上げるから頑張るのよ。」
「べ、別に褒美が欲しくて頑張るわけじゃないんだからな。」
変な強がりをする謙也は微笑ましいな。
見送りがてら外の空気を吸いに行くと、ちょうど私に会いに来た別の人間と出会う。
「謙也、早いな。もう済ませたんか。」
「はやい男はいやーん、やねん。」
「そ、その言い方だと俺が早いみたいじゃないか。」
この二人は清明寮寮長の糺昇と新稲寮寮長の下根大桜。
聞いての通りの関西人ね。
「違うんか?」
「違うっ!」
「でもな、遅い男も嫌われんねん。気ぃつけなあかんで。」
「なんで男だけ早い遅いが問題になるんやろな。俺にはようわからん。」
「お子様にはまだ早かったか。」
「あなたたち、朝から賑やかだわね。話を聞きに来たんじゃないのかしら。」
「伊代、すまんすまん。怒ったらいややねん。でも、相変わらずのその見下すような目つきもそそるけどな。」
「そうそう、蔑むような目が変態さんからも人気らしいからな。って、俺は純粋に怖いだけやからやめてくれ。」
「なら、ちゃっちゃと私の軍門に降りなさい。敵対を望むのなら徹底的に戦ってあげるわよ。」
「浅草と敵対するなんて滅相もない。勘弁してくれ。敵認定されるくらいなら冤罪で捕まった方が全然マシって思えるわ。降参でも何でもするから頼むわ、ほんま。」
「右に同じやね。のぞみの博多行ぐらいの勢いで下るわ。」
『敵拠点を制圧したのでポイントを獲得しました。』
「なら、後はあなたたちの才覚に任せるわ。私に頼るところは頼ってくれていいけど基本好きにしてくれていいわ。」
それと、ナビ子は分かってるわよね。
『配下拠点の設定を当拠点と同様に設定しました。』
よーしよし。
偉いわね、大変よくできました。
「そんで、俺が出てくるときに寮生が外出られんゆうて騒いどってん。どうにかできんか。」
「うちもや。伊代のことやから既になんか掴んどるんちゃうんか。」
「つい今さっき対処させてもらったわよ。詳しくはハチから聞いてね。それから一両日の行動方針も擦り合わせるといいわ。」
「マジか。やっぱ浅草こえーわ。」
「ふーん、秋田と経験済みだったってわけね。」
「下根っ。言い方っ。とりあえず俺、朝飯まだなんだけどお前らは?」
「もう喰った。」
「うちも。秋田は朝ごはん食べるより早くご主人様に会いたかったんやね。かわいいなあ。」
「…行くぞ。」
「ハチ、任せたわね。」
太陽を含めた四人に任せておけば、これでここら辺の学生寮は抑えられたも同然だわね。
さて、この後どうしようかしらと考えていると声がかかる。
「イヨ、チョットイイカイ。」
この見るからにヒップホップダンサーのような恰好の碧眼金髪美女は確かフランスからの留学生のAudrey Clouzotだ。
まさか語感の通りに夜通し踊り明かして朝帰りしたというわけではないだろうが、妙に深刻な表情をしている。
「どうしたのかしら。」
「…異文化交流ノ相手ガ変態ダッタ。チガウ、変態シタ。」
「どういうことかしら。」
詳しく聞くとこういうことだった。
昨晩、バーで知り合った男子学生と気が合い、ラブホで一晩過ごしたとのこと。
そのことを異文化交流と言うのは…まあいいことにするわ。
朝になり、お互い名残惜しくて男のアパートで延長戦をすることにしたのだとか。
フフッ、余りある情熱ね。
アパートに入る前に、男を待たせて向かいのコンビニに買い物をしに行ったらしいのよ。
そうよね、女の子には男に見せたくないものがいろいろあるものね。
買い物を済ませて戻ったら、話しかけても男が返事をしなくなってたらしいの。
突然蹲ったと思ったら肌の見えているあらゆるところから獣のような体毛が見る見るうちに生えてきたのだとか。
それでも男を心配して近づこうとしたのだが、こちらを見上げた男の顔が人間とはかけ離れていたのを目にするとその場にへたり込んでしまったらしい。
男は彼女に襲い掛かろうとするが、なぜか触れることはできずに暫くすると諦めて建物の中に入っていったそうだ。
その後、気を取り直して立ち上がれるようになると男を追いかけることはせずに寮へと戻ってきたところでルームメイトからダンジョンのことを聞いて私に話した方がいいと判断したようだ。
「ちなみに男の顔はどんな風に変化していたのかしら。」
「く〇モンノ出来損ナイ…。」
それはちょっと見てみたいかも。
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