しつけの基本
「あんた、どっちかというと嬉しそうね。別のお仕置きを考えなくちゃダメみたいね。」
「おっぱい揉むのだけは絶対にやめてくださいね。」
「まんじゅうこわい、みたいに騙そうとしてるのならお生憎さま。引っ掛からないわよ。っていうか、それで揉んでもらえると思ってるのがひくわね。」
「ちっ。それで先輩は侵略者にどう対抗するつもりなんですか。」
「私の主義には反するけど、今は守るしかないと思っているわ。」
「しょうがないですよね。相手の居場所も正体も分からないんじゃさすがの伊代先輩でもどうしようもないですもんね。」
「だけど今のうちだけよ。相手のことが分かれば例え世界の果てだろうが何処へ逃げようとも必ず追い詰めて思い知らせてやるわ。搾り取れるだけの代償も払わせてやるんだから。」
「さすが先輩です。人知を超えた存在にも代償を払わせてやるという意気込みに微塵も冗談が感じられないのが惚れ惚れします。」
「それに、ただ安穏と守りを固めるだけじゃないわよ。昨日も言った通り先ずはちゃちゃっと大阪を平らげるわよ。」
そして私は気付いてしまっている。
私が言っている「敵」とナビ子が言っていた「敵」が違うことを。
昨夜、太陽を降した時にナビ子は確かに「敵拠点を制圧した」と言ったのだ。
そんな私の思考を遮るように声がかかる。
「りょーちょー。変なの来たから面談室に通してあるよー。」
「変なの?」
誰だろう、こんな朝早い時間から。
面談室に行ってみると知った顔だった。
「よう、来てやったぞ。」
この強がり感の思いっきり強いちょっと変わった格好の男の名前は秋田謙也。
どう変わっているかは私の口から説明するのは可愛そうなので解釈は任せるわ。
刀根山寮の寮長をしている、一応頼られるはずの人間ではある。
「よく来たわね。ハチ、お手。」
私が右手を差し出すと、反射的に謙也が左手を重ねてくる。
「よーしよし。」
私より少しだけ背の高い謙也の頭を撫でてやる。
「くぅ。頼むからそれ止めてくれないかな。男として、いや人間として大事なものが損なわれていくんだよな。」
「おかわり。」
私の左手に謙也の右手が重なる。
状況から察せられるように、謙也は私の忠実な犬だ。
「よーしよし。」
止めてくれと言ったくせにちょっと顔を赤らめて嬉しさ半分、恥ずかしさ半分ぐらいなのがご愛敬だ。
ただし、私に撫でられるのが好きなのか、ちょっとした屈辱感を味わうのが好きな変態さんなのかちゃんと聞いたことはない。
人の嗜好はそれぞれ自由なので、私の関知するところではないという話だ。
「ところで、太陽から聞いたけど世界征服するって本当なの?」
「は?何でそんな話になってるのか分からないんだけど。全国制覇までは言ったけど、世界征服するなんてまだ言ってないわよ。」
「はは、まだ言ってないだけでするつもりはあるんだ。さすが伊代だね。」
「太陽はその何気ない一歩目に呆気なく踏みつぶされたわ。ハチ、あんたは二歩目よ。ちゃっちゃと服従しなさい。」
「はいはい、かしこまりました。」
『敵拠点を制圧したのでポイントを獲得しました。』
なんてお手軽なんだろう。
ナビ子、本当にお前はそれでいいのか。
「ところで、ハチにはナビ子はいるの?」
「あー、それも太陽から聞いたけど。異世界転生テンプレアニメとかでありがちなあれね。昨日、空耳っぽいのが聞こえたような気はしたけどよくわかんね。伊代のナビ子はそんなによくしゃべるのか?」
「ほぼ、無口ね。無駄吠えしないからまあいいけど。」
「無駄吠えって…犬扱いしてる?」
「勝手に人の頭ん中に居座ってるんだから躾もちゃんとしていかないとね。」
「そっか、それで二歩目に踏みつぶされた俺としてはこれからどうすればいいんだ。」
「そうね、太陽と同じでいいんじゃないかしら。知り合いに片っ端からコンタクトしてダンマスを見つけて傘下に加えていくのよ。ステータスを見ればダンマスが誰かは分かるみたいだから寮長とかを直接知らなくてもどうとでもなるわよね。自分で傘下に入れられないようなら私の前にどうにかして引き摺り出してくれれば後は私がなんとかするわ。」
取り敢えずは同じような立場の人間を吸収してこちら側の勢力を大きくする必要があるわ。
いずれ来る本当の敵に備えるためにね。
「わかったよ。そう言えば、出てくるときに朝錬行こうとしていた寮生が敷地から出られないって立往生してたんだけど、これも何か関係してるのかな。俺は普通に出てこられんたんだけどね。」
ふむ。
もしかしなくてもあの「外出不可」かしらね。
ナビ子、分かってるわよね。
『配下拠点の設定を当拠点と同様に設定しました。』
よーしよし。よくできました。
ナビ子を撫でてやることはできないが、ちゃんと出来た時に誉めることも忘れちゃいけないわよね。
そして失敗した時はすぐに叱る。
メリハリをつけることが大事ね。
これは躾の基本よね。
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