一パイ二パイ
安藤さんが手配した呼子のお店最寄りの拠点に移動し、そこの車両をお借りすることができたので、ついでにそこら辺を探索することになり、玄界灘に沈む夕陽を眺めてからお店に向かうことになりました。
「海に沈む夕陽なんて初めてみたのですわ。」
そうか、面近さんは栃木県育ちだから県外に行かないとまず海が見られないし、ご両親がオーベルジュを経営されているから旅行に行くような機会も少なかったのかもしれない。
「江の島あたりでも海に沈む夕陽は見られますよ。あと東京から近いところなら南房総辺りとか。」
「別に海に沈む夕陽が見たいわけではないのですわ。初めてな上に多田さんと一緒に見られたことがとても嬉しいのですわ。なので無粋な情報提供は不要なのですわ。」
素っ気なく情報を提供した安藤さんとそれに対する不満気な面近さんに両側から寄り添われて太陽が沈んだ後の暗くなった海をしばらく眺めていたが、いつまでたっても両脇の二人が次の行動を起こそうとしないので私がきっかけを起こして店に向かうことにした。
「新鮮なイカが食べられるのを今か今かと待ってますよ。そろそろ行きましょうか。」
「そういうことなら私も今か今かと待ち続けているのですわ。」
「活〆されることをですね。」
真顔で言うことじゃないですよ。
怖いからやめてくださいね。
店に向かう車の中でもう一度「採種」を試したところ「目薬」から無事に「スキルの種(目力)」を得ることができた。
なんとも微妙なスキル名称ではあるが、昨日「採種」できた「目頭」よりは使い道はありそうだ。
それと、他の「採種」済みのスキルからももれなく「採種」できてしまった。
24時間経っていないはずなのにどういうことだろう。
正確なところはまだわからないけど、日の入りというか夜になることが一日の基点になっているのかもしれないね。
ほら、ダンジョン化が始まった時も夜だし、怪物化した建物が消え始めたのも周りが暗くなってからみたいだったし。
お店では美味しい魚介をたくさんいただきましたが、中でもイカの活け造りは最高でした。
透明感のあるイカが見た目にもきれいで、コリコリした食感が病みつきになりそうでしたよ。
呼子では一年を通じて違う種類のイカが水揚げされるそうで、ヤリイカ(この辺りでは何故か剣先イカのことをヤリイカと呼ぶそうな)が4月〜12月、アオリイカが12月〜3月、甲イカが3月〜4月が旬なんだとか。
そんな一年中獲れて美味しいイカだが、活け造りにするには隠された努力があり、その一つができるだけ人が触れないようにしているんだそうだ。
どうしてかというと、イカは非常に繊細で人間の体温程度ですら火傷をして死んでしまうこともあるんだとか。
「イカの気持ちもわかるのですわ。確かに多田さんに触られたところは火照るのですわ。」
なんて問題発言をしてくれちゃいますかね。
何年何月何日何時何分何秒私が触ったというのでしょう。
確かな証拠の提出を要請します。
濡れ衣です。
冤罪です。
「旦那様にホテルで触られたのですか。自分はどちらかというと人目につくようなところの方が好みです。」
相変わらずの聞き間違いというか独特な解釈にある意味感服します。
ですが一応警察官なのですから公然わいせつ罪になるようなことはやめた方がいいと思います。
最初に感じたキリっとしたカッコよさはどこへ行ってしまったのやら。とても残念です。
「今日はいっぱいイカをいただいたのですわ。十本足だけに大満足なのですわ。」
「一杯どころではないと思います。ひとり二杯近くいただいたのではないでしょうか。それと、学術的には足ではなく腕に該当するようです。しかも8本の腕と特殊な2本の触腕に分けられるそうです。旦那様に十本の腕で責め立てられることを想像するだけで捗りそうです。」
安定の聞き間違いですね。
そして、独特な癖を披露するのも。言わずにいられないのだろうか。
だらしない顔率が50%を超えそうですよ。
どうでもいいことだが一応説明を加えておくと、イカの数え方はその状態によっていろいろ変わる。
生きてる間は「匹」が多いが「尾」を使うこともあるようだ。
これが〆られて食材として店頭に並ぶようになると「杯」が使われるようになるが、これはイカ飯やイカ徳利のようにイカの胴体が容器を連想させるところからきているらしい。
なので、切り身にされたりすると「杯」を使うのは相応しくなくなり、大きい切り身だと「枚」も使われるが、小さい物は「切れ」となる。
干物にされた時も「枚」だね。
刺身にされるとひとつひとつは「切れ」でいいけど、盛られた状態を指して「盛り」や「皿」もある。
ゲソだけになると「本」が妥当だよね。
とにかく、お造りだけじゃなくて天ぷらとかも美味しかったので、違うイカの季節になったらまた食べに来たいな。
「おっぱいはひとり二パイなのですわ。」
「ちっぱいはおっぱいに含まれますか。」
そろそろ出ましょうか。
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