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どうしてこうなるの

「それでは、こちらのお部屋で会談を行うことでよろしいですね。」


今、居るのは大阪のとある貸会議室の一室だ。

この会議室のあるビルの隣がダンジョン特別対策室系列の拠点なので、いざという時には直ぐに転送で逃走できるようになっている。

会議室の中では外壁ではない壁を背にするように私が座れるようにして死角を減らし、タオタオたちが何人で来るかは今のところ判らないが間にテーブルも置かないようにすることも確認された。

更には、会談を行う部屋の隣室や上下の階にも人を配置する念の入れようだ。

そこまでしなくてもとは思うのだが、危機管理の観点からはそれが正しいということも判らなくはない。

ただ、その対象が私だというところで他にも備えはあるから大丈夫なんですとは正直には言えない気まずさというか蟠りがある。

まあ今回きりのことと自分自身に言い聞かせてぐっと全部を飲み込んでしまおう。

無事に今回の会談が終わって、二回目以降があるとしても次からはオンライン会議で事足りるだろうしね。


「下根大桜がこちらの場所での会談を承諾したそうです。」


この場所に案内してくれた男性といくつかやり取りした後に安藤さんが教えてくれた。

明日の開始時刻は14時ということになったそうだ。


「お昼も回ったことですし、何か食べに行きませんか。」


「粉ものでもそれ以外でも何でもご案内しますよ。」


大阪といえば粉ものの印象が強いよね。

たこ焼きにお好み焼き。

他にもあるのだろうか。


「いか焼き食べたことありませんか。」


「たこ焼きのたこじゃなくていかが入ってるとかですか?」


「ちゃいますよ。」


「ならお祭りとかで売ってそうなイカの丸焼きみたいな。」


「ちゃいますって。百聞は一見に如かずや。行きましょ。」


こうしていか焼きを出すお店に連れていかれたのだが、それなりの行列が出来ている。

大阪の人ってせっかちだから行列に並んでまで食べることないって聞いたことがあるけどこんなに並ぶんだ。


「確かにイラチなんは多いけど、ほんまに旨いもんは少しぐらいなら待つ人も多いで。こことかは回転も早いしな。」


こうして喋ってる間にもどんどん列が進んでいき、すぐに順番が回ってきた。

ここのいか焼きは四種類あるとのことだが、私は初めてなので定番のものを頼んだ。

安藤さんは玉子入り、案内してくれた男性はネギ入りを頼んでいた。

待つこと一分もしないうちにいか焼きを手にすることができた。

発泡スチロール製のトレーに乗ったそれはお好み焼きほど厚くはなく、クレープほど薄くもない丸く焼かれた生地が半分に折りたたまれている。

いざ、実食!

ふむふむ。

むちむちというかもちもちの生地の食感の中にイカのプリプリが加わってもきゅもきゅ食べられちゃいます。

量もそんなに多くなくお値段もお手頃なので、2つくらいは普通に食べちゃいそうだ。

安藤さんも淡々と食べていたけど、私が見ているのに気付くと予想外の行動をとってきた。


「玉子入りの味が気になるようでしたら一口どうぞ。はい、あーんです。」


そう言ってくる安藤さんの表情は冷静で、有無を言わさずイカ焼きがどんどん迫ってくる。

ネギ入りを食べていた男性も少し唖然としているようだが注視しているだけでそれ以上は何もしてこない。

ええい、こうなったらもうどうにでもなれと意を決して安藤さんの差し出すイカ焼きにパクつく。

だが、なかなか箸を抜いてくれないどころかちょっと押し込んできてませんかね。

なので、顔を後退させて押し込まれる箸から逃れると安藤さんが突然席を立つ。


「少し失礼します。」


電話の連絡でも入ったのだろうか、と思ったが手にしていた箸を置かずに持っていってしまう。

さらに小走りで去る安藤さんの表情を見てしまった時になんとなく察してしまった。

だって、私にボールをぶつけようとして出来なかった時の表情にちょっと似ていたから。

小さなため息をついた私に声がかかる。


「特別顧問と警部の関係って…やっぱいいです。失礼しました。」


苦笑いするしかなかった。

安藤さんはこの男性の前では私のことを旦那様呼ばわりをすることはしておらず、距離感も普通にしていたように見えたが、実のところは伝わっているのだろう。

具体的にどういう風に伝わっているのかは少し気になるところではあるが、それを問い質して藪から蛇になっても困るので極力気にしないでおこう。

いつの間にか口の中のイカ焼きはなくなっていて、玉子入りの味がどんなものか全然わからなかったよ。

しばらくして安藤さんは何事もなかったかのような表情で新しい箸を手に戻ってきた。

そして私の定番イカ焼きがまだ残っているのを確認すると元の席に座り、当然のようにあーんの体制に入る。

なら、安藤さんの新しく持ってきた箸でと思って受け取ろうとするが、しっかりと掴んで離そうとしない。

そのくせ、あーんの体制は微動だにせず維持するので、またしても仕方なく行動を起こすことにする。

恐る恐る安藤さんの口元に運んだイカ焼きは電光石火の速さで口の中に収まり、ついでに箸を舐られてしまったのだった。


「ラブコメみたいで羨ましいわ。」


ネギ入りをパクつきながら男性が小声で呟いた。

どうしてこうなった。


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