残機増えた
「だんにゃしゃみゃ。しょりょしょりょ…。」
おっと、いかんいかん。
うら若き女性の顔を挟みっぱなしで考え事をしてしまうとは。
「ごめんなさい、痛くなかったですか。」
「大丈夫です。旦那様の真剣なお顔を間近で拝見でき、手の温もりを感じることができて悦びの方で満たされています。」
うーん、それはそれで困ったちゃんだね。
くれぐれも「いのちだいじに」の方針を貫くようにと改めて言い含めておく。
「それで大阪の方にはすぐにでも行く必要がありますか?」
「先方には会談場所の安全確保が出来てから連絡をしようと思っていますので、早めにご対応いただけると助かります。」
そういうことなら別にどこでも大差ないかもしれない。
基本的にダンジョン化していない建物内で会談することにしても、スキルレベルが8に達していれば使いたい放題なのだから、配信で見たようにあれだけスキルを取り放題ならちょっとやそっとじゃ防ぎようがないと思う。
こっちとしてもいきなり攻勢に転じられたときに黙ってやられるつもりはないからちょっと考えてみる。
うーん。
こっちの配下拠点を会談場所にすれば転送でいつでも避難できるけど、タオタオが承諾するとはとても思えない。
そんな不利な状況に敢えて飛び込んでくるようなおバカさんではないだろう。
明日は土曜日か。
土曜の午後なら大学の講義もないだろうし面近さんが同行してくれるなら「読心」で相手の出方を探れるとは思うけど、わざわざ危険かもしれない場所に連れて行くのも気が引ける。
尾茂さんの「言霊」も樋渡さんの「治癒」も強力ではあるが、お仕事があるだろうし、来てくれるとしてもやはり安全を担保できない。
攻撃なら自分の「射撃」である程度は圧倒できるだろうが、その場合は恐らく相手を殺すことになるだろう。
その場合、自領内ならリスポーンできるだろうし、敵領内なら駒になるんだろう。
自領でも敵領でもないダンジョン外だったらどうなるんだろう。
『…。』
「天の声」が応えてくれるかと思ったが何も言ってくれない。
ダンジョン外にも「天の声」の素があるとは思っているので駒になりそうな気もするが、普通に「死」が与えられる可能性も捨てきれない。
そんな状況で私にスキルを使用することができるだろうか。
攻撃は最大の防御とはよく言うが、今回は別に相手を圧倒して勝利を収めたいわけではないのだ。
最悪の場合に備えて、防御を固める方法を考えたいのだけど。
相手が「射撃」のようなスキルを持っていたとしたらどう対処できるだろう。
私の「射撃」では弾丸は見たことはないが、標的に実際に穴をあけるし、その際の音も発生しているので物理的な現象であるとは思うんだよね。
だとしたら、異次元収納で何とかできないだろうか。
生きているものは収容できないが、それ以外は容量内であれば何でも入るはずだ。
つい昨日は実体のよくわからないスマホのデータなんてものも入ったわけだし。
物理的に何か飛ばされてくる分には見えさえすれば異次元収納に入れられると思う。
練習してみる必要はあるが、攻撃されたことを認識できればその現象自体を異次元収納に収容して無効化できそうな気もする。
だが、そうすると認識できないぐらいの早さだとどうしようもないことになってしまうんだよね。
後は面近さんの「読心」とか尾茂さんの「言霊」のような精神的というか感応的な作用かな。
ポイント開発で何か対応できるものって作れないだろうか。
ゲームだと防具やアクセサリーに即死耐性とか致死回避みたいな効果がついてるものって結構あるよね。
ああだこうだしてたら「護符」っていうのがあっさり作れたよ。
しかも消費ポイントは微々たるもので。
『使用者のあらゆる損傷を駒が肩代わりすることで使用者を護ります。駒が引き受けられる限界を超えると駒の所有権が損傷を与えた側に移動します。駒の所有数内で護符ごとに使用数を設定できます。』
なるほど、ゴーレムくん程度の消費ポイントで済むのはそういうことらしい。
見方を変えると他人を盾にして自分が助かろうとしているように思えるが、将棋で王将を守るために他の駒にかばってもらうようなことだということにしておこう。
チェスと違って駒の所有権が相手側に移るということは、命そのものが失われるわけでもないということも言い訳にしてしまおう。
幸いにしてというか、駒はかなりの数になっているのでそれなりの数を設定した護符を私を含めた主要面子に使用しておいた。
なんか残機増えたみたいで変な感じ。
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