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この命、尽きるまで

今朝になって下根大桜の方から、東京における情報提供者と会わせてくれるなら情報の共有を検討してもいいという連絡があったそうだ。

何か大阪の方で状況の変化でもあったのだろうか。

政府としては私ではなく身代わりを立てることも検討したようだが、噓がばれた時に一大勢力になっていると思われる下根大桜との関係が断絶、もしくは敵対することを危惧したようだ。


「会談は明日を予定しておりますが、安全を確保するため事前に旦那様に会談場所の確認を行っていただきたいと愚考した次第です。もちろん、万一の場合はこの身を挺して…にゃにゅをにゃしゃりゅんでしゅか。」


事あるごとに身代わりになるだの、身を挺してなんて言われても困惑してしまうので強めにくぎを刺しておこうと思う。

なので、安藤さんのやわらかい頬を申し訳ないが両手で押さえさせてもらった。


「身代わりになるとかそういうのは今後二度と言わないでください。護衛だからそういうものだって言うのも論外です。そうでなければ特別顧問なんて絶対に引き受けませんからね。何かあった時は最優先に自分の身を守ってください。その上で余裕があったらでいいですから私のことも気にかけてくださればそれで十分です。私も私自身を守ることを心がけますから、ね。」


「でしゅが…。」


「それで何かあったら、それが運命だったってことです。はい、この話は以上です。」


運命という言葉を使ってしまったが、別に私は運命論者ではない。

ましてや運命さだめや天命に従うべきなどとはこれっぽちも思っていない。

実際問題として、三年前に妻が逝ってしまったことが運命だったなんて思わないし思いたくもない。

人の幸不幸が人の力を超えたところであらかじめ決まっているなんてくそくらえだ。

そんな日々の努力を無に帰すような真理なんてあってたまるか。

たまに「何やっても無駄。運命で全部決まってるから。」なんてあほな運命論者に出会ったりもするから始末に負えない。

それは運命を引き合いにして何も努力したくないことの言い訳にしてるだけだって。

それなのに「面白おかしく生きて行ければそれで十分」とか言いながら、やたらと不平不満を口にする姿はとても滑稽ですよ。

その不平不満さえ全て受け入れて、ちゃんと面白おかしく生きていけるんじゃないの、と言ってやりたい。


安藤さんには私は私自身を守るなんて言いはしたが、多分私の大事な人を守ることを優先することだろう。

今の大事な人の筆頭は娘の紀香だ。

もちろん大事な人も守って自分も守れるのが最良なのだろうけど、両方ともが無理な場合は然るべき選択をするだけのことだ。

自分の所為で大事な人を失うなんてことには耐えられそうにないからね。

実際に、私を護ってもらえたとしても、それで安藤さんの命が失われたなら、やるせなさすぎるというものだ。

向こうに行ったときに妻に合わせる顔がないなんてことだけにはなりたくないってのもある。

「若い女の子に護ってもらうなんてだらしないわね。逆でしょ。」とだけは絶対に言われたくないものだ。

まあ、この老い先短い命を精々有効に使えるように善処しましょうかね。


ちなみに現在の統計では日本人の二人に一人は生涯のうちに癌と診断されるそうで、癌で死亡する率は五人に一人ぐらいらしい。

臓器にできるような癌は早期発見できれば根治できる可能性も上がるようだが、膵臓がんは早期発見が難しくて進行も早いので他と比べて死亡率が段違いに高くなっている。

私がなった多発性骨髄腫は膵臓がんほど死亡率が高くはないが、他に比べると高めだ。

どれぐらいかというと、癌と診断されて五年後に生存している割合は癌全体で六割以上だが、膵臓がんは一割を切っていて、多発性骨髄腫は五割を切っている。

その理由はいろいろとあるのだろうけど、簡単に言うなら完治させることが難しいということだろう。

例えば、胃がんとかなら癌化した細胞を切除して他への転移が認められなければ生存の可能性は十分にあり、その後も経過観察を続けていれば仮に再発したとしても治療方法の選択肢も多くあることだろう。

これに対して多発性骨髄腫は平たく言うと切除では対応できないので抗がん剤を用いるのがこれまでの主流だ。

今は医療技術の進歩もあり、比較的患者数も多いので新しい治療方法も開発されていてだんだんと生存率も上がっているそうだ。

今のところ私の治療はうまくいっているようだが、再発しないなんて保証はどこにもない。

次回の通院では再発しているなんてことも十分にあり得るのだ。


こんな風に言うと、私が病気になったことで悲嘆に暮れているとか、自棄になっていると思われそうだがそういうのではない。

まあ以前よりは死に対する意識が変わったことは認めるが、別に死に急いでいるということでもない。

格好つけるわけじゃないけど、生きている今に感謝して明日死んでも悔いのないようにしたいって感じかな。


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