驚愕の事実
尾茂さんが今日の仕事に出かけたのと入れ違いぐらいに安藤さんが訪ねてきた。
「おはようございます、旦那様。」
昨日からの振る舞いは今日もそのまま継続中のようだ。
「安藤さん、おはようございます。」
「名前を呼んではいただけないのですね。」
「すいません…。」
「お謝りにならないでください。少し寂しいですが、これも神が与えた試練だと思って耐え忍んでみせます。」
そんな寂しそうな顔をされると、つい要望に応えてしまいそうになるが際限がなくなっても困るのでぐっと踏み止まる。
「いろいろとご報告があります。」
昨日からのことで判ったことを報せに来てくれたようだ。
聞いたのは次のようなことだ。
神社や仏閣、教会などを調べたところ、神社にあったようなスキルを使用できる空間は仏閣、教会では今のところ見つかっていないとのこと。
神社はスキル使用可能空間があるところとないところの両方あるが、その違いについてはまだ判っていないようだ。
鳥居のない神社というのも結構あって、その中でもスキル使用できるところとできないところがあったりするので条件が見極めにくくなっているそうだ。
私がお願いしたことだが、ここまで調べてもらえるとは思ってなかったので恐縮してしまう。
一方、ダンジョンマスターになるべき人がたまたまダンジョン化の時に不在だった場合のことについては結論が出たそうだ。
その結論は住人は怪物化していなかった方しか確認できていないとのこと。
仮に、ダンジョンマスター込みで怪物化していたとしたら確認しようもないのだけど、昨晩時点でも海外旅行中のダンジョンマスターと連絡が取れなくて外出できないという相談があったそうなので、これについては結論が出たということでいいだろう。
「天の声」の聞こえる聞こえないについては聞き取りに時間がかかっているようだ。
これは仕方ないだろう。
「天の声」が能動的に話しかけてくれるのはダンジョン関係で何かあった時だけなのだから、普通の人だと最初にスキルを取得した時ぐらいしか機会がなかっただろうし、その一回が聞こえていたとしてもその後うんともすんとも言ってこないのだから気のせいだと思ってしまっても仕方ないのだ。
今後、スキルの種がふんだんに使えるようになれば事情も変わってくることだろう。
「封印」できそうな人も何人か見つかったようだ。
文字通りの「封印」スキルを持った人もいれば、「封鎖」や「封緘」、「秘封」のようなスキルも見つかったらしい。
実際に怪物化したダンジョンを無力化できるか、この後試してみるそうだ。
他に援護できるようなスキルの人も招集しているそうなので、いい結果を期待したいものだ。
最後に手渡されたのはちょっと厚みのある小冊子だ。
表紙を見ても特にタイトルのようなものはないので一枚めくってみる。
そこには可愛らしい赤ちゃんの写真が何枚かある。
「これは?」
「自分です。」
なんと、安藤さんのこれまでの人生を紹介する写真集だった。
「自分のありのままを知っていただこうと思いまして大急ぎで作りました。」
「へ、へぇ~。」
このまま何事もなかったように冊子を閉じてお返ししてしまおうかと思ったが、とてもそんなことはできなさそうな雰囲気を醸し出していらっしゃる。
というか、本当に小冊子を返してしまったら何が起こるか怖くてとても試す気にはならないんですけど。
仕方なく冊子に目を落として順に拝見させていただく。
写真と共に数行の紹介文があり綺麗にまとめられている。
これを昨晩帰ってから作ったなんてとても信じられない出来栄えだ。
これ以外の作業があったことも考えるとほとんど寝てないと思えるのだが、お顔を拝見する限りは眠たそうな様子や辛そうな表情は一切見受けられない。
こんなこともあろうかと以前から準備していたなんてことも考えられなくもないお人柄ではあるが、恐らく表情に出さないようにしているだけだろう。
改めて写真を拝見すると赤ちゃんの頃はとても愛くるしい笑顔をふりまいている。
今が不愛想だとかそういうことを言いたいわけではない。
前にも言ったように「キリッ」ってつけたくなる出で立ちなので、つい。
次を見ると小学校入学前くらいまでの時期のようだ。
ひらひらした可愛らしい服を着て得意そうなのがとても微笑ましい。
紀香がこれくらいの時にはひらひらしたのを嫌がりほとんど着てくれなくて妻が残念がっていたのを思い出してしまったよ。
それにしても私には写真の技術のことはさっぱり判らないが、安藤さんの写っているものはどれもこれもとても素敵に撮られていると思う。
余程、ご両親の想いが詰まっているんだろうと思い尋ねてみたが、どうやら撮影されたのはご両親とは違うようだ。
「父は写真の腕もセンスもないとかで、いつも伯父が撮ってくれていたようです。」
「へぇ~、そうなんですか。」
「伯父は男の子ばかり四人で女の子が生まれなかったものですから自分のことを娘のように可愛がってくれたのです。」
「なるほど。」
「あまり想像できないですよね。」
「はい?」
「あの強面で撮影するときは「笑って」なんて言ってくるんですよ。」
「まさか…。」
「はい、渋谷署の副署長が自分の伯父です。」
なんですって。
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