「天の声」の素
「天の声」の素がどこから来たのかは不明だが、恐らく集合住宅をダンジョンにしてしまったものと一緒なんじゃないかと考えている。
なんか調味料の一種みたいになってしまいましたが、私としてはしっくりきたのでこの呼び方で通させてもらいます。
「天の声」の素は建物を変化させたのとほぼ同時にその住人も変化させようとしたんだろうね。
これによって最初の標的を絞ったというか、限定せざるを得なかったんじゃないかな。
建物が小さい一軒家では住人が少なくて効率が悪いとでも思ったのかもしれない。
もしかしたら住み込みの人が働いてるような豪邸ではダンジョン化が起きているのかもね。
また、建物と中の人の関係が薄いビジネスビルや商業ビルのような場所では怪物化させることもスキルを覚醒させることも出来なかったのかもしれないと考えると現状の説明がつきそうだ。
だから、今後状況が変わればそういうところでもダンジョン化が進むことがあるかもしれないね。
でも、そういう建物には往々にして責任者のような存在はいるだろうからその人がダンジョンマスターになって怪物化はしないんじゃないかと思う。
まあ、そんなこんなで「天の声」の素は既に遍く結構な生命体に寄生しちゃってるんだと思う。
だからこそ、ちょっとお邪魔しますでダンジョンに入り込んだ紀香とか安藤さんがシメシメって感じでダンジョンに鹵獲されたんだろうし。
それで、「天の声」が聞こえてる人はたまたま最初から波長が合っただけで、聞こえていない人もこれから聞こえるようになるかもしれないし、そうでないかもしれないっていうのが今の私の考えだ。
「はぁ、私たちは「天の声」ウィルスのようなものに感染していて、発症している人といない人の違い程度ということですか。発症の度合いで怪物になったり、ダンジョンマスターになったり、声が聞こえたりする、と。」
「さすがは医療従事者なのですわ。とても判りやすいのですわ。」
でも、神社の件はこれだと説明がつきそうにないんだよね。
鳥居には別の力が元々備わっていたとか、「天の声」の素を引き寄せて結界を作ったとかの超展開が必要になりそうなんだよね。
何事にも例外ってあると思うんだけど、そもそものダンジョンっていうのが例外過ぎて想像がうまく働いていないかも。
「例外っていうなら、ダンジョン化が始まった時にはダンジョンマスターになるべき人がいなかったけど、住人が怪物化した後にダンジョンマスターに該当する人が建物に入ってきたらどうなるんでしょうね。」
コーポ大家で言えば、私が外出してる間にダンジョン化しちゃってたってことか。
のこのこ帰宅した私は、怪物化してた樋渡さんや尾茂さんに襲われて一命を落としました、なんて結末もあったかもしれない。
そうだなー。私が外出してる間にダンジョン化した場合、既に中にいた住人は怪物化するのかしないのかについてはどっちもあり得そうだ。
だけど、私としてはこういう場合には怪物化しない方に分があると勝手に感じている。
「天の声」が私の記憶を参照していたように、初期段階で住人の記憶もやっぱり参照していると思うんだよね。
そうすると、ここにはダンジョンマスターになるべき人がいるって判るから怪物化しないんじゃないかなっていう読みなんだけど。
こっち側に転ぶなら、ダンジョンマスターになるべき人がここしばらく旅行とかに出かけていると何も判らず住人が閉じ込められたままになってる集合住宅もありそうだ。
実例はありそうだから調査したらわかるんじゃないだろうか。
「政府関係のダンジョンマスターにも聞き取りしてみます。」
安藤さんが連絡をするために席を外すと、面近さんと伴さんの場所取りが勃発しかけたが紀香の鋭い視線のおかげでこの一戦は未然に防がれた。
「「天の声」がウィルスみたいなものなら、私の「治癒」で治せたりするんですかね。」
それは大いに可能性を感じなくもなかったが、多分スキルでは「治せ」ないんじゃないかな。
初期段階のスキルがアパートの敷地内でしか使えなかったことからもスキルの使用にダンジョン空間に満たされている何かが必要だったことは明らかだ。
なので、スキルを発動させているのが「天の声」の素ということだろうから、それを除去するためにスキルを使ってというのは鶏が先か卵が先かみたいなことになってしまうだろう。
あれ?なんか変じゃないか。
「スキルレベルが8になるとダンジョンの外でもスキルが使えるようになりましたけど、どうしてスキルレベルが低いうちはダンジョン外で使えないんでしょうか。ステータスが見えていない人にも「天の声」の素が寄生しているということは、ダンジョン外にも十分な量があるということでスキルが使えても良さそうなんですけど。」
そう、それ。
スキルのレベルが上がればスキル自体が強力になるっていうのはゲームとかでは普通にあることだけど、ダンジョン外でのスキルの使用が可能になったのは単純にスキルレベルが上がったからってことだけでは説明がつかないようだ。
スキルの使用に「天の声」の素が必須なことは間違いないところだと思うので、ダンジョン内外での濃度のようなものが関係しているのかもしれない。
面近さんの「読心」のように物理的な事象が発生しないものなら体内に内包している「天の声」の素だけでスキルが機能するほど効率が上がったなんてことで説明がつくかもしれないが、私の「射撃」のような思い切り物理現象を伴うものだとまた違うかもしれない。
どっちにしても改めて状況を確認しといたほうがよさそうだ。
「ちょっと確かめに行きましょうか。」
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