魔法の呪文
『ほな、これからスキルを付与するからステータス見ててな。ほんで、新しいスキルがついたら「あ…あわわ…ち…力が…力が…」って言うんやで。これお約束やからな。』
なんやそれ。
『あ…あわわ…ち…力が…力が…』
『無事についたみたいやな。配信見てる人らにどんなんついたか教えてもろてええか。』
『「精力絶倫」です。ありがとうございます!これで彼女を満足させられますっ。』
なーんやそれ。
『良かったやん。一応、言っとくけどスキルの悪用は絶対あかんからね。もし、犯罪にでも使ったらあんたの身に何が起こるか覚悟しといてな。』
『大丈夫です。ってか、「精力絶倫」ってどうやったら犯罪に使えるんですか。』
『せやな。ほなAさん、精々彼女とがんばりや。』
どんなスキルが欲しいかのやり取りを聞いてた時からどうなることかと思ったが、名古屋の男性は無事に夜の営みに支障が出るほどの精力の減退を解決できたようでめでたしめでたし。でいいのか本当に。やらせじゃないのか。
それよりも何よりもどうやってスキルを付与したかについては配信から伝わってくるものでは何も感じ取ることはできなかった。
これがやらせではなくて、本当に望むスキルが造作もなく付与できるとしたらとても太刀打ちできそうもない。
攻撃や防御に特化したスキル保持者を意のままに用意できるのだから、もしかしなくても現時点で地上最強の軍隊を保持していると言えるだろう。
実はそういうことを誇示するためにこの配信の場を用意したのかもしれない。
だが、この後しばらく見ていてもなかなかそんな脅威に感じるようなスキルを望むものが現れない。
というか、要望の聞き取りをしている方がうまく躱しているというか、あからさまに対人攻撃に使えそうなものにならないように誘導しているようにも思えるのだ。
例えば、夢を諦めきれない歌手志望の女性が観客を「魅了」できるようなスキルが欲しいと言ったのだが、上辺だけ惹きつけても満足できないよねとか自分の歌声で想いを届けたいよねというような感じで結局付与されたのは「歌唱力抜群」といった具合だ。
「なんかすごいのかすごくないのかよくわかんないね、お父さん。」
「もっとスキルで無双したい奴がいてもよさそうなもんだけどね。爆炎魔法使いたいとかね。」
「「俺の右目がヒトの血を求めて疼くのさ」みたいな厨二病の人は当選しないように調整していたりするかもしれませんね。」
それはそれでどうやって選別しているのか気になるけどね。
「私は女の子なら子供の頃に一度は憧れた魔法少女みたいになりたいのですわ。」
そう言えば、アニメの魔法少女が使うような魔法の杖って相変わらずおもちゃ屋さんで見かけるよね。
そもそもステッキって言葉は英語のstickが訛ったものって言われてるけど、stickって杖は杖でも歩行補助に使うような杖のことだよね。
細長い形状を持つ物体やその一部を指す言葉でもあるから、杖がその中に含まれるってだけかもしれないけど、ちょっと選ぶ言葉を間違えたんじゃないかなあと思わなくもない。
海外にも魔法使いのお話は古くからある、というか魔法使いは海外発祥と言っても問題ないよね。
おとぎ話の中にもいろんな魔法使いや魔女が出てくるしね。
そんな魔法使いたちが使っているのはwandやstaffであることが多いという認識だ。
カタカナ表記にするとそれぞれワンドとスタッフになると思うが、ファンタジー系のゲームの魔法使い系武器としてよく見かける名称だと思う。
一応区別すると、イギリスの魔法魔術学校に通う主人公たちが使う指揮者が振るう程度の短い棒がワンドで、とんがり帽子の老魔法使いがついているような身の丈ぐらいの長さのものがスタッフとされている。
ちなみに日本最古の魔法少女は漫画ではテクマクマヤコンだが、アニメではマハリクマハリタでどっちも魔法の杖は使ってなかったりする。
私がリアルタイムで覚えてるのはシャランラだったような気がするが確かこれも魔法の杖は使ってなかったと思う。
あれ?
ということは魔法のステッキっていつ頃に定着したんだろう。
後で調べてみたところ、どうやら1980年代のピピルマピピルマプリリンパかパンプルピンプルパムポップンあたりが使っていたらしいが、おそらくは番組スポンサーとなる玩具会社の思惑が絡んだ結果なのだろう。
男の子は変身ベルトとかの変身アイテムが大人気だったから、女の子用のなりきりアイテムとして魔法のステッキに白羽の矢が立ったということかな。
なんか世知辛いものを感じてしまうが、大人の事情も入り込んでくるのは仕方ないよね。
実際、平成になってリメイクされたマハリクマハリタは素敵なステッキをお使いになられていて視聴者の購買意欲を搔き立てたそうな。
『ほな、次いこか。』
『俺は「魔法」を使えるようにしてくれ。』
とうとうヤバそうなのが来たね。
さあ、どうなる。
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