ほな、見よか
「どういうことなのですわ。紀香さん、私の何が気に入らなかったのでしょうか。」
「断固抗議するわ。そんなちっぱいで多田さんを満足させられると思ったら大間違いよ。」
後続車両から降りてきた二人も加わって更に混乱に拍車をかける。
「言ってなかったけど、母はあなた達とは程遠くて慎ましいサイズだったわよ。」
「なんてことなのですわ。こうなったら脂肪吸引してサイズダウンするのですわ。」
「多田さんがちっぱい好きとは…これは神様が与えてくれた試練ね。そうよ多田さんの好みをこの身をもって変えるために私がいるのよ。きっとそうよ。」
お願いだからご近所の手前、こんなところでそんな話を大きな声でするのはやめてくれないかな。
そして断っておくが、妻がたまたまそうであっただけで別に私はちっぱい好きではない。
じゃなくて胸のサイズがどうのこうので女性を見る目が変わったりはしない。はず。多分。
とりあえず例の配信がもうすぐ始まるので一旦落ち着いてもらって、見る体制を整えることを優先させてもらった。
「あ、始まるみたい。」
『みんなー、見てくれてるかー。ほな前代未聞の「あなたにスキルあげちゃいます」始めるでー。一応、身バレはあかん思うたからアバターで堪忍してな。このアバターも可愛いけど本人もめっちゃ可愛いいんよ。実物見せられんのがほんまもったいないわ。名前も今回はタオタオっちゅうことで頼むな。前置き長いってそないなことあらへんやろ。まだ20秒もしゃべっとらん…』
「このまま大阪のノリでずっと行くつもりだとすると辛いわ。」
「なら、とっとと自分の部屋に戻ってなさい。」
「紀香さん、そんなことできるわけないじゃない。見てよ、この人。警察官のくせにこんなにしっとり多田さんの隣に収まっちゃってあり得ないわ。」
「せめて反対側は私に譲っていただきたいのですわ。」
「あんた達二人がそうやって争うからダメ。静かにしていないと追い出すわよ。」
「ぐぬぬ。」
「しょぼんなのですわ。」
「強敵現る、ね。はい、みなさんお茶どうぞ。多田さん、お土産ありがとねー。」
だいたいの状況は掴んでいただけたと思うが、一応説明しておこう。
送ってきていただいた二台の警察車両にはお帰りいただいたのだが、当然のように安藤さんはお残りになられた。
その際、建物の周囲を警戒していた恐らく公安警察の方と何やら話していたが彼らは少し驚いていたようだ。
一体何を話されていたんだろう。
私と紀香が私の部屋に戻るのは当然として、安藤さんがこれまた当然のようについてくると、それなら私たちもお邪魔しますと面近さんと伴さんもついてきてしまい、更に表が騒がしいなと様子を伺いにでてきた樋渡さんも面白そうとついてきたというわけだ。
最初はノートパソコンで配信を見ようと思ってたのだけど、この人数で小さい画面を見ていられないだろうと考え直し、テレビの大画面で見る準備をして何気なく三人掛けソファの真ん中に腰かけたんだよね。
そうしたらぬるっと左腕の方に安藤さんが纏わりついてきて、何かを察した紀香が反対側に素早く腰かけると座る位置でひと悶着始まったのだが、安藤さんは臆せず動じず「護衛ですから」と一顧だにせず鉄壁のディフェンスでその位置を確保してしまった。
紀香は言っていたけど、安藤さんは亡くなった妻と全く似ていないということはないが、面影を感じるほど似てもいないと思うので、紀香の安藤さんに対する態度も少し謎と言えば謎なんだよね。
ということで、安藤さんを振りほどくこともできずになされるがままにしているのだ。
それと、うちのアパートの人たちにはカニの握りをお土産に買ってきてたので、早速樋渡さんにひとつ渡すと勝手知ったる他人の部屋ということでそそくさとお茶を淹れ始め、ついでに皆にも配ってくれたというところだ。
尾茂さんやクリスにはいつ会えるかわからないが、そこは時間経過しない異次元収納を持っているので心配ご無用というわけだ。
「やっと本題に入りそうね。これだから関西人は。」
『…ってオチがついたところで、これからどないするか言うからよう聞いときや。これからうちが当選者に連絡するから5秒以内に「あ」でも「う」でもなんでもええから応答しいや。応答せんかったらそこまでやし、応答しても前もって言うてた通りじぶんとこにおらんとアウトやからな。ほな、取り敢えず一人目いってみよか。その間、アンタつないどいてな。』
この後、関西弁じゃない男性がこれまでのノリとは違う様子で真面目に話していたのだが、タオタオがいいところで下ネタをぶっこんできて話の腰を折られていた。
一人目としてつながったのは名古屋にお住いの男性だった。
横浜とか、神戸とかの人もそうだけど大都市在住の人の県名言わないあるあるだよね。
名古屋の男性とは配信上は電話を通じて話していたように聞こえたが、最初から電話でつなぐならその様子も配信してた方がリアルさを演出できるだろうからおそらくは別の方法を使ったんじゃないかな。
だから多分、最初は「伝心」使ったんじゃないかなぁと勝手に思っているのだが、その先は何通りも考えられるし実際のところは確認しようもない。
そんなことを考えながら見ているといよいよ注目の時間が来たようだ。
ほな見よか。
何卒、評価・ブックマークよろしくお願いします♪




