ありがたく頂戴します
「ちょっと彼らのスマホのデータをいじっただけです。バックアップデータがあれば復元できるんじゃないですかね。」
スキルレベルが8になればダンジョン外でもスキルが使えるようになることは既に警察署で話しているので、これぐらいなら特に不審に思われないだろうと思ったがそうでもなかった。
「そのようなサイバー攻撃みたいなことができるのですか。そういう方面での対策も必要となると手が回りきらないかもしれませんがだからと言って手をこまねいているわけにもいかないですね。」
副署長さんで経験済みだった思考パターンを考慮していなかった。
だけど実際にそういうスキル保持者もいて悪用を優先することは十分考えられるので対策が必要かもしれない。
余計な心配事を増やしてしまった手前、何か貢献しなくてはと思うがそんなにすぐ名案が思いつくほどの優秀さは持ち合わせていないので取り敢えず心の片隅にとどめておくとしよう。
「あなたが善人でよかった。」
安藤さんはどこかに連絡をし終えると私に向かって微笑みながらそう言ってくれた。
「いえ、そんなことないです。私は殴られれば倍にして返そうとする人間ですし、他人がどうなろうとあまり気にしない薄情者です。」
「でも、あなたは理由もなく自分から殴ろうとはしない。他人には薄情かもしれないけど、あなたの愛する人や身近な人にはとても優しくできる。今日、短い時間ですがあなたと接してそう思えました。」
「うぅ~、安藤さんには父のこと判っていただけますか。父はどっちかっていうと無口な方で愛想がいいとは決して言えない方で、ちょっと堅物なところがあるのと細かいことが気になるところは面倒くさいし、弱みを隠そうとする小さな男だし猫舌だし猫手だし他にもいっぱいいっぱいダメなところあるけど、…どこに出しても恥ずかしくない自慢の父なんです!」
そんな滂沱の涙でダメ出ししなくたっていいじゃないか。
お父さん、結構傷ついちゃったよ。
「はい、そうですね。素敵なお父さまですね。羨ましいです。」
クールビューティの素敵な笑顔のお陰で傷ついた心が癒されました。
「ところで猫手ってなんでしょうか。あの包丁で食材を切る際に、手を丸めて食材に添えるアレのことでしょうか。」
「えっ?猫舌の手バージョンですけどそう言わないんですか?」
「紀香、それは私がお椀とかお鍋とか熱いものを持てないのを面白がってお母さんが使ってた我が家のオリジナルだよ。」
「そうなの!?普通に友達にも使ってたけど、誰にも不思議がられたことなかったよ。」
まあ状況次第だとは思うが意図するところは伝わってたんじゃないかな。
っていうか、私以外にも熱いの苦手な人って普通にいるよね。
鍋でラーメン作るときとか短めの菜箸だと「熱っ」ってなって麵をほぐすことすらままならないし、紙コップとかの熱い飲み物って持ってるだけで気が狂いそうになるし。絶対あるよね。ない?(;^_^A
「しかし、多田さんが善人で本当に助かっているのは事実です。降伏のことも何も知らなければ、何のことかも判らないまま「参った」とか「降参」を言うように誘導されるだけで成立してしまいますからね。」
「そっか、クイズみたいな感じで「将棋で負けを認める時に何と言うか」って聞かれれば「参りました」って答えちゃってそれがダンジョンマスターなら降伏が成立しちゃうんだ。それ、ヤバいじゃないですか。」
「仰る通りです。そこに降伏するという意思は必要なく、機械的にキーワードに反応しているようですが、どこの何が反応しているかは判明しておりません。」
あー、それって多分「天の声」絡みだよね。
でも、相変わらず他の人には「天の声」が聞こえてるって話は副署長さんからは出てこないし、それでも聞こえない同士でキーワードだけでも降伏が成立しているということは…。
「そろそろ到着しますね。今日はお話しできて良かったです。今後もご協力いただけますと幸いです。」
車が止まるとドアを開けて車から降りる。
「大丈夫ですよ。攻撃してくる人には噛みつきますけど、いい子いい子してれば大人しくしている臆病な犬みたいな人ですから。」
「いい子いい子ですか。こうですか?」
あのー、本当に撫でなくていいんですよ。
「安藤さんのそういうちょっと天然なところも含めて母にちょっと似てる気がします。あの二人よりよっぽど好感が持てますので良かったら中古ですけど父を貰ってくれませんか。」
紀香、何を言ってるんだい。
人をリサイクル品みたいに扱うような人間に育てた覚えはありませんよ。
安藤さんも粗大ごみというか生ごみを押し付けられて困ってしまうでしょうが。
「紀香、失礼なことを言うんじゃありません。」
「自分でよろしいのですか。それではありがたく頂戴いたします。」
「ほら、安藤さんも嫌がって…はい?」
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