えっちなみにすかーとは好きですか
「護衛を務めさせていただきます安藤警部であります。副署長から軍資金は預かっておりますので何なりとお好きなものをお申し付けください。」
「お若いのに警部さんということは所謂キャリア組なのでしょうか。」
「キャビアかぁ、シャンパンと一緒が美味しいよね。」
キャビアじゃなくてキャリアです。
キャビアとシャンパンの相性がいいことは否定しませんけどね。
副署長さんのご指名で護衛兼財布係として同行しているのは、絵に描いたらもれなく「キリッ」って文字が添えられそうなカッコいい系のお嬢さんだが、護衛が務まるような厳つさはさほども感じられない。
恐らく年のころは二十代前半と思われるので、面近さんの言うように都道府県警察官採用試験を通過して警察官になった所謂ノンキャリアではなく、国家公務員採用試験を経て警察庁に幹部候補として入ったキャリアの方だろう。
警察官の階級は上から、警視総監、警視監、警視長、警視正、警視、警部、警部補、巡査部長、巡査の9つであり、都道府県採用の警察官は一番下の巡査から、キャリア組は警部補からのスタートとなる。
ちなみに副署長さんは私より年上、多分還暦前後ぐらいとお見受けしたのでノンキャリアだと思われる。
キャリア組は順調にいくと三十前後ぐらいで警視の階級まで上がって警察署の署長や副署長を務めることが可能になると何かで見た記憶がある。
「副署長はすごい方です。」
安藤さんが滔々と語ってくださったが、どうすごいのかは申し訳ないがよく判らなかった。
要約してしまうと、ノンキャリアでは警視になるのがすごいことで、警視正になれるのはものすごいこととなるようだ。
渋谷署のような大都市の中心部にあって管轄署員を大勢抱えるような大規模警察署になると警視の階級では署長、副署長につくことはできず、警視正の階級が必要になるらしい。
失礼な話かもしれないが、伊達に強面してるわけじゃないようだ。
「私は多田さんの食べたいものが食べたいのですわ。それで私が食べたいのでしたら喜んでこの身体を差し出すのですわ。」
「多田さんがそんな乳臭い身体を食べたいわけないでしょうが。多田さんは私の体の方がいいですよねぇ。」
「二人共、何を言ってるんですか。安藤さんも同じ女性として、警察官として何か言ってやってください。」
「ふむ、なるほど。それでは僭越ながら一言。お二人はかなり肉付きがよろしいようですが、自分のように引き締まった体もなかなかだと思いますよ。一度お手合わせお願いできますか。」
「はい?」「へ?」「な!?」
「冗談です。」
安藤さんの度肝を抜く冗談に三者三様でフリーズしてしまったよ。
ビシッときまったパンツスーツ姿にクールな表情で言われると破壊力抜群だね。
「びっくりしたのですわ。」
「えっ、ちなみにスカート穿くんですか。」
「エッチなミニスカートですか。ご要望であればミニスカート警察官のコスプレでもしましょうか。」
「ご本人登場なのですわ。」
微妙に会話が嚙み合っていないようだけど、敢えて突っ込まないでおこう。
公共の場なんだからもう少し会話の内容に気を配ってほしいんですけど。
さっきすれ違った学生と思しき集団にもかなり白い目で見られてたみたいだし。
そう思うと益々周囲の視線も気になってきたし、とっとと何を食べるか決めてお店に入ってしまおう。
そう言えば、数日前にカニ漁が解禁されるってニュースやってたっけ。
渋谷のお店の看板は動かないけど、とれとれぴちぴちカニ料理にしようかな。
「カニ、いいのですわ。」
「タラバカニ食べてたら馬鹿になるって言いますよね。」
「自分、そんな迷信は聞いたことありません。タラバカニ食べてタラバカニになるわけないのです。」
「それはきっと無口になる、の間違いなのですわ。」
また微妙に会話が噛み合っていないようだけど特に差し障りはないようだし放っておくとしよう。
安藤さんがお店に連絡して席を確保してたところに紀香から丁度連絡が入ったので一人追加してもらった。
「ずるい~、私もカニ食べたい~。」と駄々をこねくりまわされては致し方ないというもの。
安藤さんには紀香の分は私が出すのでと申し上げたが、「誤差ですから大丈夫です。」と丁重にお断りされてしまった。
紀香はこの後、職場を一目散に飛び出すと自宅まで矢の如き速さで戻るや否や愛車に飛び乗り同僚くんのアパートを目掛けて疾走したという。
カニに目がくらんで事故を起こしたら情けなさすぎるので、頼むから安全運転だけは忘れてくれるなよと祈念する。
そう言えば、いつカニのニュースを見たかというと五日に、です。
おあとがよろしいようで。
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実際にカニ解禁日は毎年ほぼ11月6日なので、明日カニ漁解禁ですというニュースが5日に流れてもおかしくはないのです♪




