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   (その五)今が旬です

「三年になったらまた担当変わりますよね? 先生の授業、これで終わりだな、って」

 余韻を味わっていたらしい。なんとも趣深い奴だ。天下はカーテンで閉ざされた窓に目をやった。

「日差しを遮るためだよな、あれ」

「正解。日に焼けないようにずっと閉ざしたままだ」

 黒カーテンの向こうには中庭がある。その中庭を挟んで教室棟――天下達が通常授業を受ける棟が見えるはずだ。涼は一度もこの鑑賞室から見たことはなかった。

 完璧に整備され、視界も音も隔絶された部屋。それが涼のいる鑑賞室だった。

「隙間があるの、知ってたか?」

 天下が指差した先には微かに光が差し込んでいた。楽器に当たるほどではないので、大した隙間ではなかったが涼は初めて知った。

「気付かなかった」

「だろうな。あんた、いつもピアノの方ばっか向いてたから」

「……何のことだ?」

 さあ、と天下はわざとらしく肩を竦めた。生意気なガキだ。涼が胡乱な眼差しを送ると天下は口元に手を当てた。

「別れる時は頬に、でしたっけ?」

 脱線話もしっかり耳に入れていたようだ。さすが優等生、授業態度も良い。ついでに休み時間も優等生らしく振舞ってほしかった。

「ここは日本です」

「国際化に乗り遅れますよ」

「自国の文化を守るのも大切です。何でもかんでも海外のものに飛びつくのは感心しないな。その前にここは日本であり教室です。授業をする場所です」

「佐久間は?」

「『先生』を付けなさい。あれはイレギュラーです」

 納得がいかないらしく、天下は首を捻った。時計を見れば六限が五分後に迫っている。こんなところで無駄話をしている場合じゃない。

「早く教室に帰りなさい」

「模試で高位になろうと、授業は免除されねえのな」

 戯けたことをぬかす頭をプリントの束ではたいた。天下は恨みがましげな視線を寄こす。

「……外野に騒がれても嬉しくねえよ」

 そう言われてしまうと涼は強く出られなかった。天下をたきつけたのは自分だった。だから天下は努力を重ね、全国三十四位なるとんでもない結果を弾き出したのだ。彼を一番ねぎらうべきなのは誰なのか。指摘されるまでもなく、わかっていた。

(どうしろって言うんだ)


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