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   (その三)疲れるだけです

「ちょっと待て。なんでそこで浮気だの」

「俺は先生一筋ですから」

 大真面目な顔で断言しないでほしい。後生だから。涼はとにかく全国の真面目な高校生諸君に頭を下げたい気分だった。

 こんなのが我が校きっての優等生でごめんなさい。文武両道の眉目秀麗ですみません。全国模試三十五位以下の皆さん、三十四位は常識というものを兼ね揃えていないんですごめんなさい。

「そんなことを言いにわざわざ準備室まで?」

「いや、模試の結果を報告しに」

 天下は折りたたんだ紙を机の上に広げた。学内では一位。県内では二位。そして肝心の全国では、三十四位だ。カンニングしたってこんな成績は出せない。

「約束通り、彼女のふりはやめてくださいね」

 涼は頷くしかなかった。もう別れてます、とは口が裂けても言えない。

「君との事も考えた」

「でも駄目なんだろ?」

 察しがいい。涼は思わず「ごめん」と呟いた。天下と自分のためとはいえ、断るには罪悪感を伴う。天下の右手が肩に置かれた、

「気にすんなよ。あと一年あるし」

 涼は顔を上げた。一瞬、本気で空耳かと思った。とてつもなく不吉な一言が耳を通り過ぎたような気がする。期待を裏切るように天下は不敵な笑みを浮かべた。

「俺の事、嫌いじゃねえんだろ?」

「いや、それは」

「じゃあ諦めねえ」

「なんでそうポジティブに」

「一年間、全力で口説いてやるよ。返事は卒業した後で聞く」

 歳にそぐわない悪そうな顔をして、天下は確認した。

「生徒は対象外なんだろ?」

「確かにそうだけど、だからといって生徒じゃなきゃいいってわけ、じゃ……」

 ぎらり、と音が聞こえるほど、天下の眼光は鋭かった。完全に何かのスイッチが入った目だった。

「一年待ちますから、ゆっくり考えてくださいよ」

 直訳すれば「一年猶予やるから腹括れ」だ。涼は呆気に取られて口を開けていることしかできなかった。小さく笑って天下は涼の顎に手を掛けた。

「口、閉じとけ。キスしたくなるじゃねえか」

 いやいやいや、早速口説き出さないでください。まだ承諾した覚えはない。口を閉じさせられた状態でまた涼は固まった。

「じゃあ、五限目もよろしくお願いします」

 嵐が、去った。

 それでも涼は動けずにいた。


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