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   (その二)足掻くだけ無駄です

 涼は机に突っ伏した。気分は死刑執行を待つ囚人。いっそのことトドメをさしてくれ。苦しむ自分を見て嘲笑っているのか。他人を弄んでそんなに楽しいかチクショウ。

 不意に顔を上げると、一ヶ月近く放置されたままの消毒液が目の前にあった。

 インフルエンザ対策で支給されたものだ。何故かラベルにはアライグマがプリントされている。手を洗ってから使えと言いたいらしい。

 アライグマの円らな瞳と睨み合うことしばし。涼は忠告を無視して一押しした。やや粘着性のある消毒液を手にすりこんでみる。冷たいが手に馴染んでいく感触が何とも言えない。意外に楽しいではないか。

「先生もこれ使うんですね」

 横から伸びた手が消毒液を持ちあげる。涼は手を止めた。

「準備室に入る際はノックをしなさい」

 物音どころか気配一つ悟らせずに侵入を果たした天下は、悪びれもなく言い返した。

「何度叩いても返事がありませんでした」

「じゃあ出直せ」

「でも先生いるみたいだし」

「それでも出直せ。見てわからないのか取り込み中だ」

 天下は半眼で消毒液を見た。

「ネチャネチャ消毒液をすり込むのが?」

「インフルエンザ対策です」

 最初は似非優等生対策を考えていたのだ。が、いつの間にかインフルエンザ対策に移行し、気づいたら何の打開策も見い出せぬまま本人と対峙する羽目に陥っている。おのれアライグマ。涼は恨みがましくラベルのアライグマを睨みつけた。可愛い顔をしてなんと狡猾な!

「各教室にも配られていなかったっけ?」

「そーいや、置いてあったな」

「少しは使いなさい」

 二年生故の呑気さか、受験生ほどは意識していないようだ。

「この前使いました」

 天下は消毒液を机の上に戻した。

「矢沢とキスした後」

 名目し難い沈黙。涼は内心頭を抱えた。さらりととんでもない事を言うこの癖は、どうにかならないものか。好きでもない女子生徒と公衆面前でキス。天下自身も嫌な思いをしただろう。彼自身が選んだこととはいえ、涼の至らないせいでもあった。

「その件に関しましては……」

「悪かったな」

 謝るつもりが逆に謝られ、涼は拍子抜けた。

「アレ以外思いつかなかったんだ。口と口をくっつけるだけの行為じゃねえか。人工呼吸だと思えば大したことじゃねえ。それに、その……消毒もしたし、問題はないはずだ」

「は?」

「浮気じゃねえからな」

 深刻な顔で念を押されても、涼としては硬直する他なかった。


 次回、似非優等生の試験結果が出ます。

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