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放課後(その一)何事も諦めが肝心です

 考えてみれば大したことではない。

 断っても断ってもしつこくしつこく粘りに粘ってくる将来有望な優等生くんに、ちょっくら世の中の厳しさでも教授してやろうと無理難題を出した。全国模試百位以内。我ながら名案だと(その時は)思った。

 優等生くんの高い鼻を折ることができる。何でもかんでも思い通りにならないことを若い内に知っておくのも、彼のためである。言わば親切心だ。いくらなんでもこれで諦めるだろう平和な学校生活が戻るだろうわっはっはおめでとう私――などというやましい思いなんて、抱いていなかった。少ししか。

 しかし結果は涼の予想を斜め四十五度超えていたのだ。これは大問題である。描いていたプロセスは一瞬で吹き飛び、ついでに自分も崖っぷちへと追いやられた。残された時間はあとわずか。それまでに涼は選択をしなければならない。

 崖から飛び降りるか、それとも別の方法を模索するか。

「――というわけで、どうすればいいと思う?」

『諦めればいいと思うよ』

 電話の向こうにいる琴音は辛辣だった。喧嘩に近い別れをしておきながらも数日経てば何事もなかったかのように接してくれる。このあっさりとした琴音の性格は涼も好きだ。だが、こういう非常事態にもいつも通りでいるのは遠慮していただきたいものだ。ふりでもいいから焦ってくれ、頼むから。

「諦めるというのは……」

『交際してあげれば? って言ってんの』

「冗談じゃない。相手は六歳下の生徒だぞ。その前に交際してやるなんて約束を交わした覚えはない」

『じゃあ本人にそう言えばいいじゃない』

 それができれば苦労はしない。

 二ヶ月前に天下とかわした約束は『百位以内ならば佐久間と付き合うふりを止める』だ。それだけならば涼とて悩まない。佐久間とはもう切れていた。向こうも渋々だが承知している。問題は、その後につけたオプションだ。

 天下の事も真面目に考える。

 一体何をどう考えろというのか。何回考えても天下は生徒であって、涼は教師だった。交際なんて論外だ。しかし約束を果たした天下に対し、涼のすることと言えば、


 一、佐久間と別れる(もう別れている)

 一、天下との交際の件(考えたけどやっぱり無理)


(どう納得させろと?)

 あきらかに不釣り合いだった。涼でさえそう思うのだ。天下が黙っているわけがない。

『でも凄いね。全国で百位以内なんて、愛の力以外の何物でもないわね』

 いいえ、陰謀です。陰謀以外の何物でもありません。涼は拳を震わせた。

「前回四百位とか言ったのは誰だ……っ!」

『往生際が悪いわよ、涼ちゃん。幕引きは美しくなきゃ』

 涼は力なく呻いた。他人事だからそこまで軽く言えるのだ。

「これが戯曲なら書いた奴に文句を言いたい」

『最初に話を出したのは涼ちゃん。条件を決めたのも涼ちゃん。文句なら鏡の前で好きなだけ言いなさい』

 完全に突き放したもの言い。涼は肩の力が抜けていくのを感じた。味方はどこにもいなかった。自分自身でどうにかせねば。

『涼ちゃん』

 思考を遮ったのは、一段低い琴音の声。

『間違ってもどこぞの姫君みたいに自分で出した条件を翻すような真似はしないでね。みっともないから』

 味方どころじゃない――涼は戦慄した。こいつも敵だ。


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