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   (その六)開き直ります

 同じ苗字。同じ高校の教師。同じ性別――共通点をいくら挙げても所詮、涼と民子は他人だ。双子のように相手の考えが手に取るようにわかることもなければ、同じ痛みを分かち合うこともできない。しかし、目の前の女性が何を思い、ここで盗み聞きをしていたのかは察することができた。

「どういうことですか?」

 民子は悪びれも無く立ち上がった。質問というよりは詰問だ。

「渡辺先生は、佐久間先生とお付き合いなさっているのでは?」

 口ぶりはあくまでも教師に相応しからぬ涼の言動を咎めている。が、その目は優越感に満ちていた。決定的証拠を掴んだことに。

「どうして鬼島君と二人っきりで指導室に?」

 民子は執拗に食い下がる。蛇を彷彿とさせる執念に、涼はなんだか面倒になった。

「お聞きの通りです」

「では、生徒と――」

「今の会話で私が鬼島と交際していると断じるのなら、渡辺先生の見識を疑わざるをえませんね」

 涼は大げさに肩を竦めてみせた。

「彼が私に好意を寄せているんです。毎回毎回しっかり断っているんですけどね。最近の高校生はずいぶん粘り強いようで」

「では、あなたの方にその気はない、と言うのですね?」

 民子は陰湿に笑みを浮かべた。

「校長先生の前でも、同じことが言えますか」

 どうしてそこで校長が出てくる。いちいち上の権威を借りなきゃ同僚の教師一人さえも咎めることができないのか。

「わざわざ自分からは言えませんね」

 認めれば民子の笑みが深くなる。それで涼は確信した。民子を突き動かしているのは教師としての義務感でも何でもない。

「ですから、渡辺先生の方から口添えしていただけると嬉しいです」

 一転して民子は呆けたような顔になる。涼の言った意味を理解しかねるようだ。

「一般常識に欠けているとはいえ、普通科の優等生です。学科の違う私が咎めるわけにも、かと言って応じるわけには勿論いきません。正直、どうしたものかと扱いに困っていたんです。渡辺先生の方からそれとなく諭していただけると助かります。ついでに校長先生にも説明して下さるともっと嬉しいです。ありがとうございます」

 勝手に協力者にされた民子は、しばし呆然としていた。が、やがて盛大に眉をしかめる。

「何を言っているんです?」

「私に後ろめたい事は何一つとしてない、と申し上げているんです」

 経験上、民子のような相手には強気な姿勢が一番効果的だと涼は知っていた。

「ですから、どうぞご自由になさってください」

 そして突き放すように言ってしまえば、民子はどうすることもできなくなることも。そもそも彼女の目的は涼と天下の関係を公にすることではないのだ。


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