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   (その五)完璧は、なるものではなく目指すものです

 鬼島天下。

 家族構成は父と母、弟が二人。

 住所を確認すると自転車で通える距離だった。羨ましい。こっちは朝から満員電車に押しつぶされながらも通勤しているというのに。

 それはともかく、入学時からのデータを見て涼はため息をついた。未知の生物に遭遇した感動に似たようなものがこみ上げてくる。

 鬼島天下は一年次の成績がオール五だったのだ。

 芸術選択の音楽は勿論、五教科、保健体育、総合学習まで全部。コメントを読む限り教師の覚えも良いらしい。煙草については全く触れられていない。化け物か、こいつは。

 品性良好、成績優秀、文武両道。おまけにあの容姿だ。神様、ちょっと贔屓じゃないですかと問いかけたくなる恵まれっぷりだ。

 優等生の鏡みたいな生徒と言えるだろう。その優等生が何故。


 悪いのは紛らわしいことをしている二人、ということになりますよね。


 ――とかなんとか恐ろしいことをのたまうのか。空耳か。優等生なりの冗談か。全く笑えない。センスの欄があればゼロと記入してやるものを。

「リョウ先生」

 遠慮がちに佐久間が肩を叩いてきた。

「あまり長時間ご覧になるのは……個人情報ですし」

 時間切れ。住所と電話番号だけ覚えて涼はパソコンから離れた。佐久間が普通科担当で良かったと心から思う。必要以上に顔を合わせることもないし、こうして情報も引き出せる。

「しかし、どうして鬼島を?」

 まさか職員室で言うわけにはいかずに、涼は言葉を濁した。

「音楽で担当しておりまして。少々取っつきにくい生徒なので、何かわかればと思ったのですが」

「彼が、ですか?」

 心底驚いたように佐久間は訊き返した。

「信じられませんね。授業にも積極的に参加しますし、クラスでも中心的存在ですよ」

 人望も厚いわけか。涼は眉をひそめた。

「欠点とか、苦手なものとかは無いのですか?」

 佐久間は顎に手を当てて考える仕草をした。数拍後、眉間にしわを寄せて「ない、ですね」と呟く。

「一つも?」

「少なくとも僕は思いつきません」

「完全無欠な優等生?」

「ええ、完璧です」

 驚きを通り越して呆れた。機械だってそこまで完璧にはなれない。ますます涼はわからなくなった。煙草の匂いをさせていたのは誰だ。音楽準備室に来て睨みつけてきたのは誰だ。双子の記述はなかったはず。

「それよりもリョウ先生」

 心なしか大きな声で佐久間は言う。

「今日はもう仕事は終わりですか?」

 周囲の視線が集まるのを涼はひしひしと感じた。何もそこまで印象付けなくとも。いささかうんざりしながらも肯定した。

「どうでしょう、久しぶりに二人で食事でも」

 お前と一緒に食事するのは初めてだ。勝手に過去を捏造するな。罵倒の言葉が浮かんだが、涼としてもこれからのことを話す必要があった。

 だが、ここだけはハッキリ言っておかねばならない。

「先生の奢りなら」

 涼は努めて笑顔で言ってやった。


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