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   (その九)お節介は教師の性です

「落ちましたよ」

 優しげな声。ハンカチを拾い上げる仕草は優雅でさえあった。くっきりとした一重の瞼。影を落とす長い睫毛。品のよいバランスで保たれている唇と鼻。しみ一つない肌。やはり親子だ。どことなく繊細な所が天下に似ていた。

 涼は可能な限り友好的な笑顔を取り繕って、ハンカチを受け取った。

「ありがとうございます」

 天下の母――鬼島美加子は如才なく応じた。人見知りするタイプではなさそうだ。これ幸いに涼は買い物カゴを覗き込んだ。

「ずいぶん買われるんですね」

「育ち盛りが二人いるもので」

 二人。鬼島家は三兄弟のはずだ。

「へえ……高校生ですか? それとも中学生?」

「上の子は来年高校です。今は受験で大騒ぎ。希望のところに入れればいいんだけど」

 難しいものですね、と微笑む。嘘をついている様子はなかった。ますますわからない。天下愛人の子説が涼の脳裏をよぎった。それとも本当にすっとぼけているだけなのだろうか。

 天下の父――鬼島弘之が現れたのはスーパーを出た後、涼がこの近くの高校で教師をやっていることを明かした時だった。

「あら、あなた、早いわね」

 呑気なのは美加子一人だ。弘之は相も変わらず険しい顔をしていたが、その目は如実に涼の存在を望んでいないことを示していた。負けじと涼も睨み返す。眼光の鋭さでは及ばないかもしれないが、状況的には涼の方が優位に立っていた。

 弘之には、他人に知られては困ることがある。その秘密の近くに涼は寄ってきたのだ。スーパーで美加子と会ったのは偶然などではない。そして、弘之が現れるのも計算の内だ。さらに――

「先生っ」

 どこからともなく天下が駆け付け、涼の腕を取った。これも予想の範囲内。

「やあ鬼島君、奇遇だな」

「冗談はやめろ」

 腕を掴んだまま、天下は力づくで涼をその場から離れさせた。その際、ほんの一瞬だが弘之と目で会話したのを涼は見逃さなかった。心配するな。あとで連絡する。言葉にすればそうだろう。涼は抵抗もせず天下に引きずられてやることにした。

「連れが現れたので、この辺で失礼いたします。ご主人とご子息によろしくお伝えくださいませ」

 一人蚊帳の外に置かれた美加子は戸惑いながらも「え、ええ……」と返答した。天下の姿を見て動揺、なんて様子はなかった。


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