表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/244

五限目(その一)振り振られは恋愛の常です

 自分が不幸だと思ったことはなかった。

 そもそも何が幸福なのかがわからない。親に捨てられる子供なんてよくいるし、親の記憶どころか顔すら覚えていないのは、むしろ幸せな部類に入るのではないかと思う。絶対的な信頼を寄せる者に裏切られる痛みを味わわずに済んだ。信頼も何も最初から何もないのだから失いようもなかった。

 不幸なのは中途半端に愛情を知ってしまった方だ。朝起きて「おはよう」と言ってくれる肉親。自分だけを見てくれる存在。失った時の絶望は想像を絶するものだろう。光満ちた世界からいきなり真っ暗闇に放り投げだされるようなものだ。なまじ明るさを知っているだけに闇の深さに耐えられなくなる。

 そういった哀れな子供が施設に仲間入りする様を涼は何人も見てきた。自分の境遇を恨んだことはない。他の子が何故悲んでいるのか理解できなかったぐらいだ。

 だから、小学校の授業参観に誰も来なくても、運動会で応援してくれる人がいなくても、当然だと受け止めていた。要するに、長いこと闇の中にいたので慣れてしまったのだ。

 しかし、すぐ隣にいるクラスメイトが親の悪口に花を咲かせている時、手作り弁当を当然のように食べている時、どうしても胸がぽっかりと空いたような気になってしまう。

 どうして。

 失ったものなど何一つとしてないはずなのに、喪失感が込み上げてくる。

 どうして、自分には親がいないのだろう。



 結局、傷つけてしまった。

 恋愛の常だとはいえ、涼の気分は重かった。天下の好意に気づいていたから、それとなく拒んでいた。彼も自分の想いが受け入れられないことを察していた。だから、諦めてくれるだろうと高を括っていたのだ。有耶無耶にできると。

 だが、天下は予想以上に思い詰めていた。結果、優秀な彼にしては余裕も策略もなく直球勝負に出て、涼はバットで打ち返してホームラン。試合終了だ。

 悄然と去って行った天下の後ろ姿が忘れられない。

 オペラの礼すら言えなかった。

 恋愛に限らず、懸けていた想いが大きければ大きいほど、失った際の傷は深くなる。しかし、拒絶する側にだって――捨てる側にだって痛みはある。

 そうでなければ、不公平だ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ