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   (その十二)やるからには徹底的にやりましょう。

 掠れていても通りの良い声が涼の耳に飛び込んだ。

「は?」

 思わず天下の顔を凝視する。ぶしつけな視線に怯むことなく、それどころか逆に切り込んでくるかのような気迫があった。小細工なしの真っ向勝負。ゆえに危うかった。

「ずっと好きでした」

「ちょ……待て。どうしてそうなるんだ」

「先生だって気づいていたんだろ? だから俺を避けてた。でも好きなんだ。今日、探してくれたことが嬉しくって、駅であんたを見つけた時は抱きしめたくなったし、たかが名前でも俺だけが知ってるってことが重要なんだ」

 熱を孕んだ視線は存外真摯で、だからこそ涼は逃げ出したい衝動に駆られた。それを知ってか天下は両手で涼の右手を包み込んだ。

「……オペラに酔ったか?」

「酔ってません。俺は正気です」

「正気の沙汰とは思えないから言っているんだ。さっきから君はずいぶんナメた態度を取っているけど、私は、教師だぞ」

 一語一語区切って言い聞かせたら、天下は真顔で頷いた。

「知ってます」

「そうか。もちろん自分が生徒であることもわかっているよな? どこぞの盲目バカップルの一件でどれだけ私が迷惑を被っているのかも知っているはずだ。それらを踏まえてよーく考えよう。何がどうしたんだって?」

 一縷の希望を込めて天下を見やる。

「俺が、先生のことを、好きなんです」

 何の真似か一語一語区切って言い聞かせるように断言。涼は頭に鈍痛を覚えた。

「やっぱり酔ってるな。あ、いいから。何も言わなくていい。酔ってる奴に限って認めたがらないものなんだ。とりあえず今日のところは、大人しく家に帰ってだな。興奮を冷ましなさい」

 天下の顔が曇る。眉根を寄せて焦ったように口を開いた。

「違います。俺は、本気で」

「良かったな。ここが学校じゃなくて。君の株が大暴落するところだった」

「そんなこと、」

 言い募ろうとする天下を制して、その手をゆっくりと剥がさせる。

「よくあることだ。私の大学でも、オペラ鑑賞に行った男女は高確率でその日のうちに交際を始めていた。恋愛したくなる雰囲気になるんだ。オペラって大概悲劇だけど」

「先生っ」

「今度は同年代の女子を誘って行きなさい。きっと同じ気分になる。でもあえて一つ忠告するなら交際を申し込む場所は選んだ方がいい。劇場前の噴水なんかはオススメだ。とにかく地下鉄の券売機前はやめておけ。情緒がなさ過ぎる」

「他の女なんて、」

「電車がなくなる。その前に帰りなさい」

 天下は明らかに傷ついた顔をしていた。だが、受け入れるわけにはいかなかった。自分のためにも、彼自身のためにも。一時的な感情ならまだいい。本気だから困るんだ。取り返しのつかないことになる前に、止めなくては。

「それとも君は私にこう言わせたいのか? 生徒は対象外だって」


 こんなんで四章は終了です。なんといいますか、発展速度が非常に遅いことに罪悪感を覚える今日この頃です。お付き合いしてくださる方々には感謝にたえません。

 五章では無節操にばら撒いた優等生君のフラグを回収したいと思います。恋愛? 何それ美味いんですか? な展開です。

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