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   (その八)あてはまらない人もいます。

 宣言通り、校門を出たところで涼は佐久間と別れた。その際「くれぐれもご注意なさってください」と釘を刺しておくのを忘れない。佐久間は呑気な顔で首肯したが、おそらく涼の真意は悟っていないだろう。

 周囲の目はもちろんだが、矢沢遙香に流されないことが重要なのだ。子供の我儘をたしなめるのも大人の恋人の役目のはず。でなければ本当にただの恋愛ごっこだ。バス停に向かう佐久間の背中を眺めつつ、涼は密かにため息をついた。

 最寄駅まではバスで十分、徒歩で二十五分。佐久間はバス、涼は徒歩を選ぶ。生活スタイルがまるっきり違う二人が交際するふりをすること自体がそもそも間違っていた。

 見覚えのある男性が目の前を横切ったのは、涼が何度目かもわからない後悔をしていた時だった。見間違えるはずがない。鬼島天下の父親、だ。平均的なサラリーマンのスーツだというのに、彼だと垢抜けて見えた。どことなく華があり、それでいて厳しさを孕んでいた。なるほど目つきの鋭さは父親譲りのようだ。

 涼がひそかに尾行兼観察をしている間に、鬼島氏は閑静な住宅街に踏み込んだ。二階建ての一軒家の前で止まる。涼は慌てて電柱の陰に隠れた。

「あら、早いわね。おかえりなさい」

 垣根から顔を出す女性。この家の住人のようだ。鬼島氏は表情を変えずに応じた。

「今日は仕事が早く終わったんだ」

「一言連絡してくれれば良かったのに。晩御飯はまだかかるわよ」

 女性は泥のついた手袋を外して、鬼島氏を招き入れた。綺麗な人だった。鬼島氏と並ぶと絵になる。たとえ「草むしりをしています」と力説するような野暮ったい服を着ていようとも、その魅力は損なわれることはなかった。

 家の扉が閉まったのを確認してから、涼は表札を確認した。「鬼島」と彫ってある。学校のデータとも一致している。ここが鬼島宅なのだろう。

 涼は二、三回頭を振った。

 何もおかしな点はない。予定より早く帰ってきた旦那を奥さんが迎え入れた。急な帰宅なので準備がまだだと苦笑しながら。二人の会話も様子も自然そのものだった。装っている風は全くなかった。では――涼は眉根を寄せた。

 鬼島天下はどこへ消えたのだろう。

 三者面談に母の代わりに父が行くことは珍しいが、ないことではない。家事は夫婦共同が叫ばれている時代だ。別段不自然ではない。

 しかし、三者面談があったことすら知らないとはどういうことだ。そして鬼島氏は何故、仕事だと嘘を吐くのだろうか。

 考えても納得のいく説明がつかなかった。迎え入れた鬼島夫人。帰宅した鬼島氏。その二人の様子が自然であればあるほど、違和感が際立つ。

 それはまるで、鬼島天下など存在していないかのようだった。


 これで三章は終了です。お付き合いくださいまして本当にありがとうございます。

 二章で豪語したにもかかわらず、恋愛偏差値が一向に上昇しておりません。すみません。四章では似非優等生の逆襲を予定しております。遥か彼方に位置する十五禁を目指して進む所存です。これからもよろしくお願いいたします。

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