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   (その七)沈黙よりも価値のあることを言いましょう

 思ったよりも早く駅には到着した。それなりに賑わうロータリーで周囲を見渡す。目印になるようなものはない。だが、それでも探し出す自信はあった。

「尋ね人は見つかったか?」

 涼は向かって右手側──学校とは反対方向に向かうバスの停留所に目を留めた。

「うん。いた」

「早いな」

「予想通りだけど期待外れな場所だ。まったく世話が焼ける」

 道路を挟んで向かい側にいる当人はこちらの心情など露とも察せず、ベンチに腰掛けていた。涼やかな顔立ち。綺麗に整えられた髪は舞台に立つことを常に意識しているから――と言えば聞こえはいいが、要するに自意識過剰なのだ。すらりと伸びた足を組む様は優雅でさえある。腹立たしいことに。

「じゃ、俺はこの辺で」

 食い下がるかと思いきや、天下はやけにあっさりと引き下がった。役目は果たしたと言わんばかりに自転車を反転させて学校へ。

「鬼島」

 いざ天下が振り返ると、涼は言葉に詰まった。何を言おうとしていたのかがわからない。

もう私には構うな。学生は学生らしく、昼休みは教室でクラスメートと楽しく喋ってなさい。教師に付き合って駅まで歩く必要も意味もない。石川さんをお勧めするわけじゃないが、やっぱり同年代の方が話も合うし良いに決まっている。

 浮かぶ言葉はどれも呼び止めてまで告げるものではなかった。

「どうした?」

「何でもない。気をつけて戻りなさい」

 天下は一瞬怪訝な顔をしたが「先生も、お気をつけて」と如才なく挨拶した。

 去られる寂しさは、やがて薄れていくことを涼は知っていた。大したことじゃない。これが当たり前なのだと涼は自分を納得させた。

 左右を確認して道路を渡る。そこでようやくこちらに気付いた彼は、ベンチに腰掛けたまま片手を上げた。自然と涼の足は早まる。

「やあご苦労さん」

 朗らかな笑顔は最後に見た記憶のそれと全く一緒だった。柔和なのにどことなく不敵な印象を受けるのは自分が彼の中に彼女の面影を探しているせいだろう。涼は苦笑した。

「久しぶり。相変わらずで何よりだよ」

 皮肉もなんのその、彼は「お腹すいちゃった。何か食べない?」と悪びれもせずに誘った。この神経の図太さもまた親譲りか。

「もう昼過ぎだ。こんなに腹が減っていては歌えるものも歌えやしない」

「その点に関しては同感だね」

 涼は腕を組んだ。ついでに意地悪く右目を細める。

「足代として御馳走してくれても罰は当たらないと思うけど、どうかな?」


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