球技大会(選手選抜)好き嫌いが分かれやすいのです
バスケか、サッカーか。
天下にとっては球技で団体競技という時点で双方同じようなものだった。下手ではないが飛び抜けて上手いわけでもない。どちらでも構わなかった。所詮学校の球技大会。適当に楽しめればそれでいい。
そう考えている男子は意外と多いようで、盛り上がる女子をしり目につつがなく種目決めは終わった。希望を聞いて、人数に偏りがあったらジャンケンしておしまい。
「ウノだろ、やっぱ」
と、早くも敗戦後の暇潰し方法を提案したのは、真山亮介だった。その一言でサッカー組はポジション決めもそっちのけで、カードゲームの話で盛り上がる。
「おい」
天下は出場者名簿に記入していた手を止めた。
「トランプも忘れんなよ」
「お。優等生君はまさかのポーカー派か?」
「いや、七並べ」
子供向けゲームの名を挙げれば周囲は笑う。追随するように天下も微笑した。実際、天下は七並べに限らず、トランプゲームは得意だった。それを知っている数少ない同級生――亮介は意地の悪い笑みを浮かべて、こちらを見る。
「屋上の階段でいいよな?」
「だな。あそこなら見つかりにくい」
行事とはいえ仮にも授業。負けたチームは応援と観戦に回り、気分だけでも球技大会に参加し続けるのが、学校側が定めた規定だ。しかし学生側にしてみれば、自分達が心血を注いだわけでもない、にわかチームの応援するくらいだったら適当に遊んでた方がまだ生産性があった。少なくとも同じゲームを楽しむことで団結力は強くなるだろう。
「優勝したってなんか貰えるわけでもねえし、かったりいよなー」
亮介のぼやきに異論を唱える者はいなかった。普段は受験に向けて勉強勉強また勉強。それが球技大会になった途端、掌を返したように「学校行事です。真剣にやりましょう」だ。盛り上がるのは勝手だが、それを他人にまで押し付けるな。
「サッカーの名簿、できた?」
体育委員の香織が催促にやってきた。「かったりー」だの「めんどくせー」だのとぐだぐだ言っていた男子は口を噤む。バスケット部の部長だけあって香織は球技大会に真面目に取り組んでいる。その彼女の前では無神経な発言を控える程度の分別は、やる気皆無のサッカー組とて持ち合わせていた。
天下は「悪い」と断ってから残り数人分の名を書いて渡した。
「たかが学校行事だけど高校生最後の球技大会なんだから、真面目にやりなさいよ」
先ほどまでの会話を見透かしたような香織の言葉に、一同は肩を竦めた。