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   (その四)三人だとよくこうなります

 適当に作った昼食を三人でつついて、とりとめのない話を少々――もっぱら近況報告だ。

 天下は元よりお喋り好きというわけではないので、言葉少なではあったが、話を振れば英語強化クラスの件や、今月末に行う予定の球技大会のことをぽつぽつと語った。琴音はしきりに羨ましがり、高校時代を懐かしがってはいたが、涼はいまいち共感が出来なかった。高校時代の思い出が涼にはあまりなかった。普通に学校に通って、授業を受けて、放課後は音楽室でピアノを弾いたり、一人歌の練習していた。単調な生活の繰り返しだ。修学旅行も体育祭も文化祭も、涼にとってはただの面倒なイベントだった。記憶になんぞ残るわけがない。

(何考えてたっけ)

 当時の自分が思い出せない。そもそも覚えていないのだから当然と言えば当然ではあったが。同じように高校生という時代を過ごしたはずなのに涼だけ希薄だった。そこに言いようのない隔たりを感じずにはいられなかった。

 琴音の話題は主に教授の供として一ヶ月近くイタリアに滞在していたこと。土産のパルメザンチーズの塊を涼に渡しつつ、スカラ座の素晴らしさについて力説した。どうやら帰国の報告ついでに、わざわざ天下にメールを寄こして誘ったらしい。無論、渡りに船の状況に乗らない天下ではない。

「いつの間にそんな仲良くなっていたんだ」

 呆れ口調で呟けば、琴音は意地悪く微笑んだ。

「あら、焼きもち? 涼も意地張らないでメルアド交換すればいいじゃない」

「仲が良いのはいいことだ。どうかそのまま続けてください、二人で勝手に」

 実際、天下と琴音は友好な関係を築いているように見えた。二人で連絡を取り合って計画を立てて、最寄駅で待ち合わせして、涼の家に押し掛けてきた。茶を飲みながら、高校生活という共通の話題で盛り上がる。傍から見て仲が良いのはどちらか。考えるまでもなかった。きっかけは共通の知人――涼かもしれないが、今は天下と琴音だけで十分成り立っていた。

 そう、仮に今ここで、自分が席を立って離れたとしても、なんら支障のないくらい。

(馬鹿馬鹿しい)

 涼は脳裏に浮かんだ負の感情を一蹴した。二人が仲良くしているからなんだというのだ。今日のように共謀されるのは正直困るが、それ以外の点においては自分が関知することではなかった。

 気を取り直すつもりで食べ終わった皿を重ねた。当然の如く手を貸そうとする天下にそのまま座っているように促す。

「食うだけ食って放置、ってわけにもいかねえだろ」

「だからって私が出したものを片付けさせるわけにもいかないでしょうが。客らしく寛いでなさい」

 やんわりと断わって、台所へ食器を運ぶ。なおも釈然としない天下に、涼は台布巾を絞って渡した。急に押し掛けてきた上にご馳走になった負い目を拭う程度の手伝いは、させてやる。何よりも、こちらの個人的事情により、天下を台所に立ち入らせたくはなかった。

 涼の思惑通り、手持無沙汰にならずに済んだ天下はちゃぶ台を拭き始めた。琴音も空になったせんべいの袋を捨てたりとささやかに手伝う。

 不意に、涼はスポンジを泡立てる手を止めた。「この雑誌は……」「あ、それ、このラックに入れとけばいいから」「そうですか」他愛のない会話を交わしつつ片付けをする二人がいるリビングと台所が酷く遠く感じた。


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