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   (その十三)どこかで区切りはつけましょう

「今更帰ってどうすんだよ。お互い気まずいだけだろ」

 彼の母の記憶は戻っていない。鬼島氏が細君にどんな説得をしたのかは分からないが、彼女にしてみれば天下は突如として現れた自分の息子だ。戸惑うのは必至。だからこそ、三年近くも鬼島家では天下の存在は抹消されていたのだ。

「家族サービスだと思え。年に一度の誕生日じゃないか」

「年に一度の誕生日くらい好き勝手にやらせろよ」

 普段から好き勝手にやってる奴が投げやりに言い放った。だが、三年近くも放置されていたのは天下だ。今更という気持ちは理解できなくもない。歩み寄るのなら、最初からそうするべきだったのだ。なまじ瘡蓋が出来始めている頃になって、抉り返そうとするから傷も悪化する。中途半端。涼が最も嫌うものだ。

「そうはいかない。鬼島統君は君の帰りを今や遅しと待ちわびている」

「知るかよ」

「自宅傍の公園で」

 髪を掻きあげた状態のまま、天下は硬直した。外は雨。時計を見やれば昼の一時を回ろうとしていた。

「いつから?」

「十一時。ちなみに傘は差さないように言っておいた」

 天下は顔を顰めてケータイを取り出した。

「電源は切っておけとアドバイスもした」

 涼の言葉に盛大な舌打ちをしてケータイをしまう。怒りを通り越して呆れ声で「そこまでやるか」と呟いた。統の性格を天下は熟知している。頭は悪くはないが愚直なほど素直。雨が降ろうと風が吹こうと兄が来ると信じて一日くらいなら平然と待ち続ける。それはまるで忠犬ハチ公の如く。

「いいのか。君が行かないと弟君はあの公園の銅像になりかねないぞ」

 天下の反応はない。涼は深々とため息をついた。

「別に今日から一緒に住めとまでは言っていない。たったの数時間だ。一緒に食事して優等生面してご機嫌を取ればいい。それくらいできるだろ?」

 自分で言っておきながら理不尽な話だと涼は思った。似非優等生の天下ならばできないことではない。だが、この上もなく面倒だ。鬼島氏が三年前に生まれた歪みから目を背けた代償の大半を、天下が担おうとしている。

「俺はこのままでも困らねえよ」

「高校に通わせてもらっている。一人暮らしの費用も、月々の小遣いも貰っている。それでも自分は鬼島家とは関係ないと?」

 天下はやや恨みがましげな眼差しを返してきた。大人の庇護を受けずに学校に通い生活を成り立たせるなんて未成年である以上、難しいことだ。

「十八だろ? 大人になれ」

「散々ガキ扱いしてきたあんたに言われてもな」

「そうやっていちいち拗ねる所が子供なんだ」

「じゃあ俺が大人になったら、先生も少しは変えろよ」


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