31.ロミーの結婚と不安
ステラリアが能力を使える様になった。
でも、皆に何て報告すれば良いのだろう?ステラリアと性交したら能力が使える様になりました。って言うしかないのかな。なんて恥ずかしいのだろう・・・そんなこと言いたくないよ。
絵里香の能力は既に知られているし、お母さんは良いとしても、ステラリアのことを公表するのは、今後のことを考えるとどうなのだろうか?身内だけに知らせるべきかな。ニナはずっと一緒だから良いだろう。問題はシエナか・・・
シエナには、既に日本の製品を使わせている。でもニナみたいに一生、侍女として居てくれることはないだろう。隠した方が良いのかな?シエナに今後どうする気なのかを確認するか。
学校から戻ると部屋にはシエナだけが控えていた。ニナはお母さんとどこかへ出ている様だ。丁度良いから聞いてみようかな。
「シエナ。今、僕とお母さまの侍女は三人なのだけど、絵里香は僕の妻になるし、ニナはこのままずっと僕たちの侍女をしたいと言っているんだ。シエナは今後どうしたいか考えているのかな?」
「はい。私もニナと同じです。一生、お二人にお仕えしたいと考えて居ります」
「え?でもシエナは子爵家の次女だったよね。貴族令嬢が一生侍女のまま過ごすというのは、ご両親に反対されるのでは?」
「いえ、たまに実家に帰って話しているのです。両親は月夜見さまにお仕えできるのだから、結婚よりもそちらを選んでも構わないと言ってくれています」
「えぇ?それで良いの?シエナ。女の幸せというものもあると思うのだけど・・・」
「そうおっしゃって頂けるならば、月夜見さまがたまにお相手くださればと・・・」
シエナは耳まで真っ赤にして俯きながら答えた。
「え?僕がシエナのお相手を?」
「はい。やはり駄目ですよね・・・」
シエナは泣きそうな顔になっている。
「結婚もせずに夜のお相手だけするのですか?」
「主人が侍女に手を出すことは普通のことだと・・・」
「そ、そうなの?シエナはそれで良いの?」
「はい」
シエナは俯いたままだ。軽はずみな返答はできないので僕も黙ってしまった。
もうステラリアのことは頭から消えてしまい、シエナのことで頭が一杯になってしまった。その夜、ベッドに入ってからお母さんに聞いてみた。
「お母さま。ステラリアの能力について公表するかどうかを考えていたのです。それで、公表はしないつもりでいるのですが、それでもニナとシエナには伝えない訳にいかないのです」
「それで、ニナは生涯僕たちの侍女で居ると聞いたので良いのですが、シエナをどうしようと思って、今日彼女に将来のことを決めているのか聞いたのです」
「えぇ、シエナはあなたの妾になりたいと言ったのでしょう?」
「え?何故、お母さまが知っているのですか?」
「それは、ニナやシエナに聞いたからですよ」
「何故、その様なことを聞いたのですか?」
「既にニナとシエナは私たち家族のことを知り過ぎています。しかも異世界の品物まで家族と同様に使わせているのです。この上、私やステラリアの能力や私と月夜見の関係性まで知ってしまったらもう外へは出せないのですよ。そうは思いませんか?」
「はい。そう言われれば確かにそうです。僕はまたしても考えなしだったのですね」
「月夜見はシエナが結婚せずに一生自分の侍女で居ると聞いて、不憫に思ったのでしょう?」
「あ!そ、それは・・・女の幸せというものを捨てても良いのか。と・・・」
「えぇ、そう思うでしょうね。あなたは自分の周りに居る者全て、家族の様に親身になり、恋人の様に扱います」
「それが一度や二度のことならばお優しいお方。で済むでしょうが、毎日その様に気遣われ扱われたら、どんな女性だってあなたに恋してしまうでしょう」
「実際、あなたの姉たちも皆、あなたと結婚したいと話していましたし、ステラリアや絵里香だってすぐに恋に落ちました」
「ニナやシエナは侍女だというのに、特別な衣装やダンスのドレスまで買い与えているのですからね。二人がそうなっても何も不思議ではありません」
「でも、僕に仕えてくれているお礼の気持ちを表すにはドレスを贈っても良いのでは?」
「王族や貴族の人間ならば、普通侍女にその様な気遣いや感情など持ち得ないのですよ。でも私はそれが悪いこととは思っておりませんよ。誰にでも平等な愛と慈しみを与えるのがあなたなのですから」
「そうか。では僕はもう二人を家族と認識してしまっていたのですね」
「そういうことです。ですから私は二人に月夜見ならば悪い様にはしない。と答えたのですよ」
「え?でも結婚もせずに夜の相手だけするなんて、おかしくないですか?」
「それは月夜見の前世の世界の常識ですか?ここでは当たり前にあることですけれど。お金で子種を買う世界なのですよ?」
「あぁ、やはりそうなのですね。シエナも普通のことだと言っていましたが。でも僕は愛が無いのに身体の関係だけ持つなんて考えられないのですが・・・」
「まぁ、そう深く考えなくても良いでしょう。まだ、先のことなのですからね」
ネモフィラに秋が訪れ、ロミー姉さまに見合いの話が舞い込んで来た。
マグノリア王国の王子がお相手とのことだ。確か、火山の多い国で鉱山と温泉が有名だった。僕が瞬間移動で連れて行くこととなった。
「これは、ネモフィラ陛下、ようこそお出でくださいました。我が国には温泉もございます。どうぞゆっくりとお過ごし頂ければと思います」
「マグノリア陛下。世話になります。こちらは第三王妃シオン クライン ネモフィラ、そして娘のロミー ネモフィラです」
「月夜見です。ご無沙汰しています」
「月夜見さま!もう、その様に成長されたのですか!」
「もう七年近く経過していますからね」
「ささっ!どうぞ、お入りください」
応接室に通されるまでの間に多数の使用人の女性が廊下で気絶し倒れていった。
「月夜見。これは君のせい、なのだろうね?」
「伯父さま。どうなのでしょうね?」
とりあえず、すっ呆けておく。
「それでは、紹介させて頂きます。こちらから第一王妃フラヴィア、第二王妃グレース、そしてグレースの息子のルークでございます」
ほう、ルークがロミー姉さまのお相手か。金髪に青い瞳、身長も高い。実に良い男だ。見た目はね。
「マグノリア陛下。この国の神宮には宮司はいらっしゃるのでしょうか?」
「ロミーさま。残念ながら今までは居りませんでした」
「近々、派遣されるのでしょうか?」
「えぇ、その予定です」
あれ?と言うことは那月姉さまがここへ入るのか。でもロミー姉さまは何故、そんなことを聞くのかな?
「ロミーさま。神宮の宮司に何かございますか?」
「いえ、これから入るのでしたら私と同じ歳ということだと思います。マグノリア陛下、ルークさま、宮司を妻に迎えるご予定はおありでしょうか?」
「そ、それは・・・宮司を嫁にするならば、ロミーさまはルークとは婚姻を結べないということでしょうか?」
マグノリア陛下は、隠しごとがばれた時の様に狼狽えた。ルークも表情が固くなった。
「いいえ、逆でございます。可能ならば宮司の方も私と一緒に妻に迎えて頂けると嬉しいのですが」
「ロミー。何故、その様なことを?」
「お父さま。私、外国へ嫁ぐのが怖いのです。知らない人ばかりなのですから。それは宮司の女性も同じです。宮司はお兄さまの家族ですから、必ず仲良くなれると思うのです。その方と一緒に妻になれたらとても心強いと思ったのです」
「ロミー。気持ちは分かりますが、お相手のお考えもあるのですよ」
「お母さま。勿論、承知しております。少し、お考え頂けたらと思ったのです」
「ロミー姉さま。宮司は恐らく那月姉さまだと思います。月宮殿からこちらへ派遣される時は、私がお連れするのです。その時にロミー姉さまも一緒に来ては如何ですか?」
「まぁ!お兄さま、よろしいのですか?」
「マグノリア陛下とルーク殿がよろしければ、ですが」
「我々には反対する理由などございません。是非にお願い申し上げます」
「私からもお聞きしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「月夜見さま。どんなことでもお答えいたします」
「ルーク殿。あなたはこの縁談については、どの様にお考えなのですか?」
「はい。神さまの前で嘘は申せません。正直に申し上げます。マグノリア王国のお隣はルドベキア王国です。そちらの王子であるコリウス殿下には以前より懇意にして頂いていたのです。そしてコリウス殿は新しくいらっしゃる宮司の方と結婚したいとお話しされていました」
「それで、私も神宮について事前に勉強し、その重要性を理解した上で、コリウス殿に習いたいと考えました。それで宮司を派遣頂ける様、天照さまへ父上より働き掛けをお願いしていたのです」
「では、ルーク殿も宮司と結婚したいとのお考えだったのですね?」
「はい。そのつもりでした。でも今回、北の大国であるネモフィラ王国からの縁談でしたので・・・」
「あぁ、断れない。ということですね」
「ネモフィラ陛下!け、決してその様なことはございません!」
「マグノリア陛下。その様なお気遣いは不要ですよ。でもそれならば話は早いではありませんか。ルーク殿がロミーと那月さまの両方をお気に召せば二人とも娶れば良いでしょうし、どちらかだけをお気に召したならば、その者とだけ婚姻を結べば良いのです」
「そうですね。私も選ばれなければ仕方がないと思います」
「まぁまぁ、お姉さま。そんなに早急に決める必要はないのですよ。まずはお姉さま自身がルーク殿を気に入るのかどうかが先でしょう?」
「はい。そうでしたね・・・ではこの一週間の滞在で確かめます」
「ロミー。何もこの一週間で決める必要はないのですよ」
「はい。ロミーさま。私という人間をよく見定めて頂ければと思います。今回の滞在だけでなく、何度でも何日でも来て頂ければと思います」
「ルークさま・・・とても誠実な方なのですね」
「では、お姉さま、伯父さま、伯母さま。あとはゆっくりなさってください。一週間後にお迎えに参りますので。私はこれから月宮殿に飛んでこのことを報告して参ります」
「月夜見。ありがとう。お願いするよ」
「お兄さま。ありがとうございます」
「では、皆さま、失礼いたします」
「シュンッ!」
僕はネモフィラ王国には戻らずに月宮殿へと飛んだ。
「あ!お兄さま!よくいらっしゃいました!」
那月姉さまが僕を発見して絡みついて来る。
「那月お姉さま。マグノリア王国へ行かれるのですか?」
「まぁ!決まったばかりですのに何故それをご存知なのですか?」
「お父さまとシャーロット母さま、それに那月姉さまへお話があるのです。応接室に呼んでもらえますか?」
「はい。すぐに」
「おぉ!月夜見。今日はどうしたのだ?」
「まぁ!月夜見さま、お久しぶりです」
「えぇ、今、マグノリア王国に行っていたのですよ」
「マグノリア王国に?そう言えば、那月が派遣されることが決まったのだよ」
「えぇ、聞きました。実はネモフィラの王女ロミー姉さまが、マグノリアのルーク王子とお見合いのため、今日から一週間滞在するのです」
「ほう、ネモフィラの王女とマグノリアの王子が見合いか」
「でも、実はルーク王子は隣国のルドベキアのコリウス王子の影響を受けていて、湖月姉さまと結婚を希望されているコリウス王子の様に、宮司である那月姉さまを嫁に欲しいと思っていたのだそうです。そこへネモフィラからの縁談が降って湧いたので戸惑っている様でした」
「あぁ、それでマグノリア殿は熱心に宮司の派遣を願い出ていたのだな」
「え?私が嫁の候補だったのですか?」
「えぇ、姉さま。しかも今日、ロミー姉さまが那月姉さまと一緒に嫁にして欲しいと言い出したのですよ」
「え?一緒にですか?那月ではなく私だけと結婚してくれと言ったのではなく?」
「シャーロット母さま。そうなのですよ。ロミー姉さまは国内に結婚に相応しい相手が居ないのですが、他国へ嫁に行くことにかなり抵抗があったのです」
「それで今回、那月姉さまがマグノリア王国に派遣されることを聞いて、僕と家族の那月姉さまとならば、必ず仲良くなれるから一緒に嫁になれるなら心強い。と考えたそうです」
「それは随分と変わった話だね」
「えぇ、そうですね。僕にはロミー姉さまの気持ちは分かるのですけれどね。それで、マグノリア陛下としては、どちらも娶ることは問題ないそうですので、まずはお互いが結婚したいのかを確認しようということになったのです」
「では、那月も向こうに着いたら、まずは嫁候補として見合いをするのですね」
「はい。そうなりますね。今日はそのことをお伝えしに寄ったのです」
「ルークさまって、どんなお方なのでしょうか?」
「そうですね。那月姉さまと同い年で同じく金髪で青い瞳。背も高く、良い男でしたよ。それに神宮のことを良く勉強されていて宮司の仕事にも理解がある様でした。それに誠実そうな人に見えましたね」
「では、お兄さまはお薦めするのですね?」
「お薦めと言うか、今日のところでは悪くはない。と思っただけです。実際には那月姉さまが気に入らなければ意味はありませんからね」
「でも、お兄さまと結婚できないなら、せめてお兄さまの薦めてくれる方と結婚したいです」
那月姉さま、結構本気だから下手なことは言えないのだよな・・・
「那月。結婚するのはあなたなのですから。あなた自身で見定めなければなりませんよ」
「はい。お母さま・・・」
「そうですね。那月姉さまがマグノリアへ立つ時は、ロミー姉さまも連れて来ますよ」
「うん。月夜見。頼むぞ」
「はい。お父さま」
「では、今日はこれで戻りますね」
「お兄さま。ありがとうございました」
「いいえ。では、また!」
「シュンッ!」
自分の部屋へと戻って来た。ステラリアが本を念動力で浮かべていた。流石に訓練と名のつくものをさせるとその辺の人間より格段に集中力が高いからどんどん上達する様だ。
「月夜見。お帰りなさい」
「あ!月夜見さま。お帰りなさい!」
「ロミーはどうでしたか?」
「えぇ、色々あったのですよ・・・」
僕はロミー姉さまと那月姉さまのことを詳しく話した。
「それは随分と変わったことになりましたね。でもアニカと佳月も同じことですよね」
「それにしても月夜見さまって、必ずご兄弟のそういうお話に巻き込まれるのですね」
「そうね。少々、首を突っ込み過ぎなのではないかしら?」
「はい。そうですね。反省します・・・」
「でもそれが、月夜見さまの素敵なところでもあるのですから・・・」
「ありがとう。ステラリアは優しいね」
「まぁ!ステラリアだけ点数を稼ぐなんて!ずるいわ!」
「あ!申し訳ございません。アルメリアさま・・・」
「ふふっ、冗談よ」
「お母さま!冗談になっていませんよ・・・」
「ごめんなさい・・・」
サミュエル殿とアナベルが産み分けの性交をしてから二か月が経過した。
今日は検診に行くこととなった。白衣を着た僕と絵里香でハルトマン公の屋敷へと飛んだ。
「こんにちは。サミュエル殿、アナベル」
「よくお越しくださいました。ありがとうございます」
すぐにサロンへ通され診察をすることとなった。僕は絵里香と念話で話しながら診察をしていく。
『絵里香、アナベルの子宮の中を透視して、胎児がいるかどうか見てくれるかな?』
『はい。分りました・・・えっと、あれ?この小さいのがそうなのでしょうか?』
『うん。そうだね。小さいでしょう。まだ妊娠八週だからね。まだ胎児とは言わずに胎芽って言うんだよ。でも心臓はしっかり拍動しているでしょう?』
『はい。動いています。元気ですね』
『うん。アナベルは妊娠できたのだね。良かったよ』
僕たちは念話を止めて診察結果を二人へ伝える。
「アナベル。妊娠しています。おめでとうございます」
「月夜見さま。本当ですか!ありがとうございます!」
「アナベル。できたのだね!おめでとう!そしてありがとう!」
「はい。サミュエルさま。お待たせしてしまって申し訳ございません」
「アナベル。そういうところだよ。謝る必要などないではありませんか。あなたは立派に子を授かったのですよ」
「そうだよ。アナベルに感謝しているよ」
「アナベル。まだ妊娠三か月目に入るところだから、あと少しは安静にしていてね。勿論、絵を描くくらいのことは大丈夫ですよ。今後は絵里香が神宮に居る日に検診に来てください」
「月夜見さま。本当にありがとうございました」
「では、今日はこれで失礼します」
上手く妊娠できて良かった。あとは男の子かどうかが問題だな。
お読みいただきまして、ありがとうございました!




