表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/329

30.ステラリアの悦び

 今年もネモフィラの花が咲き誇る季節となった。


 今回の参加メンバーは、僕、お母さん、ステラリア、絵里香、ニナ、シエナ、月影姉さま、ロベリア、良夜りょうや、フォルラン、柚月姉さま。ロミー姉さま、そして、サミュエルとアナベルだ。勿論、小白も連れて来ている。


 王城の小型船では乗り切れないので中型船を借りた。

「月夜見さま。こ、この皆さま方は・・・私どもがご一緒してもよろしいのでしょうか?」

「サミュエル殿。ここにいるのは私の家族です。それにあなた方は私の患者ですから。アナベルには今日の様な時間が必要なのですよ。では行きますよ!」

「シュンッ!」


「さぁ、着きましたよ。ちょっと人数が多いのでまとめて降ろしますね」

 そう言って、僕は全員を念動力で宙に浮かべると地面までゆっくりと降ろした。

小白はいつもの様に地面に降りるなり全速力で駆けて行く。


「うわぁー!何て素晴らしい景色なのでしょう!」

「柚月姉さま。お気に召しましたか?」

「はい。素敵です!これがこの国の花なのですね!」

 お姉さまは少女らしく、くるくると回転し、全身で喜びを表している。


「アナベル。この景色を絵に描いてみるのは如何ですか?」

「はい。月夜見さま。この様に美しい景色を見るのは初めてでございます。是非、絵に描いてみたいと思います」

「画材を持って来てくれと言った意味がお分りになりましたね?こういう場所で一日を過ごす。こんな日常があなたには必要で大切なことなのですよ」

「はい。ありがとうございます」


「月夜見さま。私たち夫婦にこの様なお気遣いを頂き、感謝いたします」

「サミュエル殿。固いですね。これはただ休日を過ごすだけの一日なのです。もっと気楽にしてください。そうしないとアナベルが緊張してしまうではありませんか」

「あ!はい。おっしゃる通りです。申し訳ございません」


「柚月姉さま、お茶の準備ができるまでフォルランと散歩にでも行って来てください」

「はい。フォルランさま、行きましょう!」

「はい。柚月さま」


「ロベリア殿、ご無沙汰しています。神宮へ入られたとか」

「えぇ、サミュエル殿。私の持病の問題で世継ぎは弟のアンドレアに頼みました」

「それでもロベリア殿は、立派な男児を授かっていらっしゃるのですね」


「これは運です。私たちは特に何もしておりません。流れに任せていただけなのです」

「そうですか。あまり勇んでも逆効果ということなのですね・・・」

「月夜見さまのおっしゃる通りにしておれば、きっと大丈夫ですよ」

「えぇ、そうですね」




 柚月姉さまはフォルランとネモフィラの花畑に沿って歩いていた。

「フォルランさまは、ここにはもう何度もいらっしゃっているのですか?」

「えぇ、六年前に月夜見とアルメリア叔母さまに連れて来てもらってから、ほぼ毎年来ています」

「この国は美しいですね」


「柚月さま。ここだけではありません。柚月さまをお連れしたい場所は、もっともっとあるのです」

「この国で暮らせたら毎年、この様な景色を見に来られるのですね」

「えぇ、その通りです」


「フォルランさま・・・フォルランさまは、多くの妻を迎えられるのですか?」

「柚月さまは、僕に沢山の妻が居たらお嫌ですか?」

「私のお父さまには妻が八人居ります。ですからそれに嫌悪は感じません。ただ、フォルランさまには、どうなのかな?と・・・」


「あ!あぁ、そ、そうですね。僕は、恋愛はあまり得意な方ではないと言いますか・・・」

「苦手とか慣れていないとかではないのです。私にもそうですけれど、フォルランさまは相手に対してとても一途でいらっしゃいますよね?」


「そ、それは・・・好きになった女性が今まで・・・居なかったから・・・です」

「えぇ。そうなのです。だからもし、別の女性が現れて、その方の方が私よりも魅力的だったら・・・フォルランさまは私など捨てて、その方へ一直線に走って行ってしまわれるのではないか。そう思えてしまうのです」


「そ、それはありません!僕はまだ剣術にも打ち込みたいですし、いつかはこの国のまつりごとさねばならないのです。多くの女性にうつつを抜かす様なことはいたしません」


「そうですか・・・分かりました。私はフォルランさまの今のお言葉を信じます」

「はい!信じてください!」

「では、お茶を頂きに戻りましょうか」

 柚月はしたたかだった。既にフォルランを手玉に取っていた。


 美しいネモフィラの花をでながら、皆でお茶とお菓子を頂き、のんびりとした日を過ごした。




 それから一ヵ月後、同じメンバーで、今度はチングルマの群生する高山へと行った。

ここでもアナベルは絵を描いていた。ネモフィラの丘の絵はもうすぐ完成するとのことだ。


「月夜見さま。ここの景色も素晴らしいですね。空の青、山肌のグレーに万年雪の白、そして草花の緑とチングルマの白と黄色の色合い。欲しい色の全てが揃っています」

「アナベル。かなり顔色が良くなりましたね。夜は眠れていますか?」

「はい。夜もしっかり眠って食欲もありますし、絵を描くのも毎日楽しくて!」

「それは良かった!」


 ふと気付くと、柚月姉さまとフォルランは少し離れた岩に腰を下ろして、微笑みを浮かべて雲海うんかいを眺めていた。


「月影姉さま、柚月姉さまとフォルランが随分と落ち着いた様に見えるのですが?」

「えぇ、ここ一か月の間、フォルランは毎日の様に学校から戻ると神宮へ来ていたのです」

「神宮で何をしていたのですか?」

「柚月の仕事を見て、どんな病気なのか、どんな治療をするのかと勉強されている様でしたよ」

「それは、何故?」


「直接聞いては居りませんが、恐らくフォルランは柚月の全てを理解しようとしているのではないでしょうか」

「ふぅん。それは良い傾向なのでしょうね・・・そうか、一段上に進んだのだな」




 その翌月、八月のネモフィラは短い夏の盛りを迎えていた。

三か月連続で、同じメンバーでネモフィラの景勝地巡りを続けている。今回は海岸へやって来た。


 以前に購入した麻のシャツやパンツもサイズが合わなくなっていたので、柚月姉さまを含めた全員分を新調した。


「アナベル。海に来たことはあるのですか?」

「いえ、初めてです。山も良いですが海の広さはまた、良いものですね。光に溢れています」

「そうでしょう。開放的な気分になりますよね」

「はい。月夜見さま。私もこの三か月ですっかり気持ちが切替えられたような気がしています」


「おや、ご自分でそれに気付くとは素晴らしいことですね」

「はい。ありがとうございます。あの、月夜見さま。お礼と言ってはおこがましいのですが、ネモフィラの丘を描いた絵が額装されて完成したのです。よろしければ月夜見さまにお贈りしたいのですが・・・」


「え?僕にアナベルの作品を?それは嬉しいですね」

「良かった!ではすぐにお送りします!」

「ありがとう。アナベル。もしかしたら、もう大丈夫なのではありませんか?」


「月夜見さまから見て、そうお感じになりますか?」

「えぇ、そう思いますよ。これから季節も良いですし、再挑戦してみますか?」

「はい。お願い致します!」


「では、これから一ヵ月間、基礎体温表をつけてください。絵里香とお屋敷へ伺いますね」

「はい。ありがとうございます」

「あ、あの・・・絵里香さまという方はどの様なお方なのですか?」


「絵里香ですか。これは他言しないで頂きたいのですが、彼女は私の婚約者で、能力者でもあります。私と同じ様に瞬間移動も透視もできるのですよ」

「そ、そんな凄いお方だったのですね・・・」

「誰にも言わないでくださいね」

「はい。誰にも話しません。お約束いたします」


 それから数日後、アナベルから絵が届いた。それはネモフィラの丘の絵だ。家族皆で絵を見た。

「素晴らしいですね。是非、この部屋に飾りましょう」

「えぇ、空の青、木々の緑、ネモフィラの花の青と白。全ての色合いが調和して美しいわ!」

「このお部屋に飾るのに相応しい絵でございますね」




 夏も終わろうとしていた時、僕と絵里香でハルトマン公の屋敷へと飛んだ。

玄関に直接、二人で瞬間移動した。


「月夜見さま。絵里香さま。ようこそお出でくださいました」

「アナベル。ネモフィラの丘の絵を頂きましたよ。素晴らしい絵ですね。私の部屋に飾らせて頂きました。ありがとう」

「まぁ!月夜見さまのお部屋に!嬉しいです。ありがとうございます」


 応接室へ通されてお茶を飲んでいると、四人の先妻が各々二人ずつ娘を連れて挨拶にやって来た。


 聞けば、一番年上の第一夫人でも三十三歳とのこと。内心では、まだ余裕で三人目に挑戦できるのだけどな・・・と考えていた。まぁ、人の家にはそれぞれの事情があるのだろうけれど。


「お待たせいたしました。月夜見さま。絵里香さま」

「では、アナベル。幾つか質問をしますね。その前に基礎体温表を見せてください」

「はい。こちらでございます」

「ん?これって、ずっと記録し続けていたのですね?」

「はい。これはもう習慣になっていますので負担には思っておりませんので」


「そうですか。では拝見します・・・あれ?これって・・・もしかすると今日辺りが排卵日なのではないかな?」

「ちょっと、診てみましょうか?アナベル。そこに座って少しだけ足を開いてください。服はそのままで良いですよ」

「はい」


 僕はアナベルの卵管を透視した。するとやはり排卵していたのだ。基礎体温から推測すると恐らく、排卵したての様だ。


「排卵したばかりの様です。これはすぐに性交するべきですね」

「え?これからですか?」

「えぇ、そうです。アナベルは、サミュエル殿との性交で絶頂感を感じますか?」

「絶頂感ですか・・・恐らく分からないと思います」


「サミュエル殿。性交する時、五人の妻にいつも同じような愛撫とかキスをしていませんか?」

「え?同じではいけないのですか?」


「あぁ・・・サミュエル殿。あなたの子供が女の子ばかりなのはそれも原因のひとつかも知れませんね」

「え!えぇ?そうなのですか?」


「人の身体は十人居れば十人とも違うのです。感じる箇所も皆違うのですよ。キスの仕方も相手の好きな仕方に合わせるのです。愛撫も性交の時の動き方も全てです」


「では、今日は一つひとつ全ての動きをアナベルにどうすれば気持ち良いか、嬉しいかを聞きながら進めてください」

「わ、分かりました。やってみます」


 そして、いつもの諸条件を伝えてからグリーンゼリーをアナベルに挿入してくれる様、絵里香に頼んだ。白衣を着た絵里香はすっかり女医さんだ。あとはサミュエル殿に任せて、僕らは瞬間移動で王城へと帰った。




 お母さんは能力に目覚めてから三か月以上が経過している。日々、基礎から訓練を続けていて、絵里香と同様にほとんどの能力が使える様になっていた。


 もう、王城内のどこへ行くにも瞬間移動で移動している。ソニアに乗る時も念話で意思疎通しながら指示を出すので、とても楽になり一層楽しくなったそうだ。


 あれから天満月あまみつつきに意識を乗っ取られることもないし、前世の記憶を思い出すこともない。でも能力は使えるままだ。あれは一体なんだったのだろうか?


 ただ、毎晩ベッドに入るとキスをせがまれる様になった。もうこのままなし崩し的に関係を持ってしまうのかも知れない。でもまだ、抵抗はしているのだが。


 順番から言っても僕の童貞を捧げるのはお母さんではないと思っている。本当は舞依としたい。でも舞依の生まれ変わりは絶対ではないのだ。それにファーストキスもミラに奪われちゃったしな。そうなると一番長く待たせているステラリアなのだろうな。


 ある夜、僕はステラリアと眠ることにした。

「お母さま、今夜はステラリアと眠ろうと思います」

「えぇ、そうね。たまにはそうしてあげて。でもおやすみのキスはしてください」

 そう言ってお母さんは僕を抱きしめてキスをした。


 ステラリアの部屋へ行き、ノックをする。

「ステラリア。僕だよ。良いかい?」

「月夜見さま?はい。どうぞ」

 ステラリアは既に寝間着に着替えていた。


「ステラリア。基礎体温表を見せてくれるかな?」

「はい。こちらです」

 基礎体温表を見ると規則正しい周期で安定していた。


「ステラリア。生理の周期が安定している様ですね。意外でした。騎士団の訓練は減らしているのですか?」

「そうですね。以前の様な激しい訓練はしていません。今では後輩の指導に専念していますので」


「妊娠しないで済む時期というものはあるのですか?」

「あぁ、安全日というこの期間なら妊娠しないと言われる期間ですね。実はそんなもの本当は無いのですよ」

「では、いつでも妊娠する可能性があるということでしょうか?」


「裏を返せばそういうことになるね。まぁ、一般的な話ですよ。僕らの場合は実際に排卵しているかを確認できてしまうし、ステラリアは排卵の周期が安定しているから妊娠しない期間を特定することは可能だと思うよ」

「あ、あの・・・では・・・その・・・今夜は・・・」


「そうだね。基礎体温表を見たところ、今夜は大丈夫だと思う。そのつもりなのだけど。ステラリアは良いかな?」

「わ、私は・・・勿論、い、いつでも大丈夫です」

 ステラリアは耳まで真っ赤にしてもじもじしている。可愛いな。


「ではまず、お風呂に入ろうか」

「はい」

 湯船に浸かってステラリアを抱きしめ、キスをした。ステラリアの白い肌はピンク色になり、瞳も潤んでいる。湯船であまり長く愛し合っていたらのぼせてしまう。適当に見計らって風呂から出るとタオルでステラリアを包み、お姫さま抱っこしてベッドへ運んだ。


 ベッドに移りキスの続きをした。それからステラリアの全身をマッサージしていき、緊張をほぐし、血行を良くしていくと同時に彼女の美しい身体を隅々まで確認した。


 なんて美しい身体なのだろう。騎士であり剣聖ともなれば、無駄な贅肉がないのは当たり前だが、筋肉がしなやかで武骨なところが全くない。女性らしい柔らかさも備えている。


「これが、愛し合うということなのですね・・・」

「ステラリア。まだしていないですよ。これからです・・・」

「え?まだこれからなのですか?」

「初めてだときっとかなり痛いから、僕が治癒を掛けながらするからね」

「は、はい。お任せします」


 そしてふたりはひとつになり、一緒の朝を迎えた。


 目が覚めると、ステラリアのルビーのように赤く美しい瞳が僕を見つめていた。

「おはよう、ステラリア」

「おはようございます、月夜見さま」

「身体はどう?痛いところはある?」

「いいえ、どこも痛くはありません」


「そう、それは良かった」

 僕はそうつぶやきながらステラリアの頬を撫でた。


「君は僕の初めての女性になったんだよ・・・」

「あぁ・・・嬉しいです・・・」


 その時、僕の頭にステラリアの声が響いた。


『あぁ、何て素敵な夜だったのでしょう・・・これが女の幸せというものなのね・・・』

『え?ステラリア。今、念話で話した?』

『はい?頭の中に月夜見さまの声が聞こえます』

『ステラリア。これは念話だよ。声に出して話していないでしょう?』

『え?何故、私に念話ができるのでしょう?』


『僕にも分からないけど、もしかしたら僕とこうなったからかな?』

『そうですね。それしか今までとの違いはありませんから』

『これは大変だ。僕と性交すると能力に目覚めるのか!』

『これで私だけ内緒話に入れないことが解決しました。嬉しいです!』


 ちょっと驚いた。この世界の人間は元々、能力を持っていて、それを僕が引き出したのかな?それとも僕が力を与えているのかな?


 まぁ、いいや。どの道、解明できるとは思えないな・・・

お読みいただきまして、ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ