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28.母の前世

 月夜見と絵里香が話している時、ステラリアもアルメリアに報告していた。


「アルメリアさま。月夜見さまから全てをお聞きしました。アルメリアさまがどれ程、おつらい経験をされたのか、また月夜見さまへの想いについても」

「ステラリア。私はどうなるのでしょうか・・・」

 アルメリアは悲痛な表情となった。


「アルメリアさまは母としてではなく、妻として月夜見さまと生きて行きたいのですね?」

「それはそうです。でも月夜見には分かってもらえないのです」

「いえ、そんなことはないと思います。先程のお話では月夜見さまはアルメリアさまをひとりの女性として愛していらっしゃるとお認めになっていらっしゃいました。確かにアルメリアさまを妻に迎えることは迷っていらっしゃるご様子でしたが」


「そうですよね。私との話でも愛し合っていることは認めてくれたのです。でも結婚は難しい様でした」

「でも、私からの提案には考えてみるとおっしゃいましたよ」

「提案?ステラリアから?どの様な?」


「絵里香の未来予知の夢の話です。ネモフィラ王城でも月宮殿でもない、私たちのことを誰も知らない外国で、アルメリアさまは名前を変えて別人となり、月夜見さまの妻になるのです。そして、マイと私、絵里香と五人で暮らせば良いと」

「まぁ!その提案に月夜見は考えてみると言ったのですか?」

「はい。そうおっしゃいました」


「それならば、まだ希望はあるのですね・・・」

「アルメリアさま。少なくとも絵里香の夢ではアルメリアさまも一緒だったのですから」

「確かにそうですね。ではまだ希望を持っていても良いのですね」

「えぇ、そう思います」


「ステラリア。あなたは私たちをどう思っているの?おかしいこととは思いませんか?」

「月夜見さまからも聞かれました。全くその様には思っておりません。おふたりは特別なのですから」


「あぁ、なんだかステラリアと月夜見とのことで相談に乗っていた時と立場が逆になってしまいましたね。私があなたになぐさめられるなんてね」

「そんな!慰めるなんて・・・」


「先程、月夜見さまが絵里香に声を掛けていらしたので、今頃はふたりでこのことをお話しされているのだと思います」

「そうね。絵里香にも気持ちを聞いておかねばなりませんね」




 翌日の午後、学校から帰ると四人で部屋に集まった。

「ニナ。一時間程、休憩して来てくれるかしら。シエナはこれでもういいわ」

「はい。アルメリアさま」

「アルメリアさま、月夜見さま、ステラリアさま。失礼いたします」


 僕は四人分の珈琲を淹れた。三人掛けソファにはステラリアと絵里香。その前には僕とお母さんが座った。


「昨日、僕とそれぞれ話をしたから分かっていると思うけど、最後に話をした絵里香から未来予知の夢の話も聞いたんだ」

「まぁ!絵里香。話してしまったのね」

「アルメリアさま。申し訳ございません。つい、口が滑ってしまったのです」

「でも、既にステラリアと絵里香は婚約したのだから話してしまっても良いのですよね」


「えぇ、少し驚きましたよ。成人の時にはあとひとり妻が増えているのですからね。それが舞依の生まれ変わりならば良いのですが」

「恐らくそうなのでしょうね」


「この四人は僕の成人後も一緒に暮らすのですから情報は隠さずに全て共有しておきたいのです。今、明らかなことは僕が成人したらステラリアと絵里香と結婚すること、来年学校を卒業した春に舞依を探す旅に出ること。それくらいかな」

「月夜見さま。アルメリアさまのことは?」


「絵里香。そうだね・・・お母さま。僕がステラリアや絵里香、舞依と同じかそれ以上にお母さまのことを愛している。それは確かなことです。でも妻にするかについては、もう少し心の整理が必要なのです。時間を頂けませんか?」

「はい。構いません」

 お母さんは神妙な表情の中に少しだけ笑顔を作った。


「それと、成人後の住まいについてはまだ分からないね。ネモフィラ王城でも月宮殿でもない場所ではあるのでしょうけど」

「そうですね。私の夢では地名は出て来ませんでしたから」


「あ!そうだ。まだ舞依かどうかは分からないけれど、そのステラリアと瞳と髪の色が同じ女性には絵里香は会えば分かるのかい?」

「はい。分ります。月夜見さまに初めてお会いした時も、夢で見たお方だとすぐに分かりましたので」


「あ!私もです。夢で見た月夜見は今の月夜見と同じ顔です」

「もしかして、お母さまにも能力があるのでは?」

「私がそんなはっきりとした夢を見たのはその一度だけですよ」

「でも、私もまだ三回だけです」


「あのぉ・・・差し出がましいのですが・・・」

「何だい?絵里香。僕たちだけなのだから何を話しても良いのですよ」

「はい。ありがとうございます。あの、私、月夜見さまとキスをしたら前世の記憶が流れ込んで来たのです。もしかしてアルメリアさまも前世をお持ちだとしたら、月夜見さまとキスをしたら・・・と思いまして」


「え?キス?それなら、したことはありますよね?お母さま」

「でも、それは月夜見が子供の時にふざけてしたものですよね?」

「違うのですか?真剣にしろと?」

「月夜見さま。愛を込めて。ということだと思います」

「本当にしてみますか?」

「えぇ、お願いするわ」


「で、では寝室へ行きましょう。絵里香みたいに意識を失ったら大変ですからね」

「分かりました」

「ステラリアと絵里香はここに居てくれる?」

「はい」


 僕とお母さんは寝室へ入りベッドのすぐ横に立ち、お母さんを抱きしめた。こうして抱きしめて間近で見ると本当に美しい人だ。

「月夜見・・・」

「お母さま・・・」

 ふたりは唇を重ねた。すると僕の脳裏に映像が浮かんで来た。


 そこは雲の中だ。よく見れば大地はある。高い山か高地なのかも知れない。天女の様な美しい人が立っている。顔がはっきりと見えないのだが、髪や瞳はお母さまと同じ色だ。髪は腰まで長い。何か僕に話し掛けて来る。


「月夜見。月夜見さま・・・あなたさまをお慕いしておりますよ・・・」

 そして、映像は雲の中に消える様に見えなくなった。目を開けると、キスをしたままお母さんが目を見開いて驚いた顔をしている。


「あ、あなたさまは?ま、まさか月夜見さまなのですか?」

「え?お母さま。どうされたのですか?」

「お母さま?」

「私はあなたさまの妻では御座いませんか!」


「妻?あなたは一体、誰なのですか?」

「わたし?わたしは・・・あ!あぁ・・・」

「お、お母さま!大丈夫ですか?お母さま!」


 お母さんは意識を失ってしまった。僕はすぐにベッドに寝かせた。僕の声を聞いて、ステラリアと絵里香が駆けつけて来た。


「月夜見さま!アルメリアさまは?」

「うん。絵里香の時と同じ様に別人になってしまったよ。そして意識を失ったんだ」

「では、アルメリアさまも前世の記憶をお持ちなのですね」

「そうかも知れないね」


「月夜見さまは何か見えたのですか?」

「うん。見えたよ。でも場所も時代も何も分からなかった。ただ、お母さまと同じ髪と瞳の色をした女性が立っていたんだ」


「そして、お母さまは僕に「月夜見さまなのですか?」と聞き、「お母さま?」と問い掛けたら「私はあなたの妻では御座いませんか」と答えたのです。明らかに別人になっていました」

「私の時と同じですね。それならば今、夢の中で前世の記憶が整理されているところだと思います」

「では、このまま寝かせておいて、目が覚めたら聞いてみましょう」

「はい」


 僕たちは居間に戻ると珈琲を淹れ直して飲みながら話した。

「こうなりますとアルメリアさまも能力をお持ちである可能性が高いですね」

「そうなのかな。今までは特に感じなかったな。念話もできたことはなかったしね」

「いえ、私は前世の記憶が戻ってから力が大きくなった気がするのです」

「あぁ、それはそうかも知れないね」


「でも前世の記憶なのに月夜見さまの妻って、どういうことでしょう?」

「僕の前世は、月夜見ではないからね。それだと、どこかの世界で月夜見が存在したと言うことなのかな?混乱するね」

「アルメリアさまの前世では、月夜見さまと夫婦だったなら、今世でまた惹かれ合っても不思議ではありません」


「お母さまが起きてから聞いてみないと分かりませんね。問題は前世の記憶が戻っているかどうかですけれど」

「そうですね。お目覚めになるのをお待ちしましょう」


 それから一時間後にお母さんは目覚めた。

「月夜見さま・・・私はどうしたのでしょうか?」

「月夜見さま?あれ?戻っていないのかな?」


 絵里香がベッドに近付いてお母さんに聞いてくれた。

「あなたさまはどなたさまなのでしょうか?」

「私は、天満月あまみつつき。月夜見さまの妻ですが・・・」

「月夜見さまとは、こちらのお方で間違いございませんか?」

「妻である私が間違えるはずが御座いません。そのお方は月夜見さまに間違いございません」


「それより、ここはどこなのですか?見慣れない部屋に寝台ですね。それにあなた達は?」

「困ったな。お母さまに戻らなくなってしまったのか」

天満月あまみつつきさま。あなたさまのお住まいになるお国はどちらですか?」

「国?ですか?月光照國げっこうしょうこくですが」

「月光照國?え?それは一体いつの時代なのだろう?」


天満月あまみつつきさま。落ち着いて聞いてください。ここはネモフィラ王国というところです。あなたの人生は一度終わり、今の時代に転生しているのです。ですから私はあなたの知る月夜見ではないのです」


「そ、そんな・・・そんなことって。折角、またお逢いできましたのに・・・」

 すると天満月あまみつつきさまは再び意識を失った。

「あ!また意識を失ってしまった。・・・困ったね」


「月夜見さま。ちょっと変ですよね?」

「変?何がだい?」

「先代の月夜見さまと天満月あまみつつきさまは、大昔の方たちですよね?その天満月さまが、今の月夜見さまのお姿を見ても月夜見さまだと分かったというところです。だって、同じ姿の訳がないですよね?」


「あ!そうだよね。何故、僕が月夜見だと分かったのだろう?もしかして魂的なものが見えているとか?」

「魂ですか・・・もしそうならば、あの方には見分けがついているのでしょうかね?」

「まぁ、本当のところは分からないよね」

「そうですね・・・」




 そのまま夜になってもお母さんは目を覚まさなかった。

ステラリアと絵里香には自室へ戻ってもらい。僕はひとりで付き添うことになった。


 このままお母さんに戻らなかったらどうしよう。天満月あまみつつきさまだって?頭に浮かんだ映像からすると大昔の神の世界の人なのではないかな。もう神話級だ。そんな人とどう話せば良いのやら。これは困ったぞ。


 結局、僕もベッドに入っていつの間にか眠ってしまった。朝の光で目を覚ますと、隣にはお母さんが目を開けて僕を見つめていた。


「あ!あの・・・」

「月夜見。おはよう!」

「あ!お、お母さま?」

「そうよ。どうして私が誰なのか確かめる様なことを言うのかしら?」


「お母さまなのですね。良かった。昨日のことを覚えていますか?」

「昨日のこと?あら?そうね。あなたとここでキスをしたわ。でも・・・その後のことは何も思い出せないわね・・・どうしたのかしら?」

「そうですか、ではその後に起こったことをお話ししますね」

 僕はキスから起こった全てのことをお母さんに話した。


「まぁ!そんなことが。でも前世であなたの妻だったのですね。嬉しいわ」

「いえ、ですから、その前世の月夜見は僕ではない別人の月夜見なのですよ?」

「そうなの?」

「あれ?今はその天満月あまみつつきさまの記憶はないのですか?」

「えぇ、分からないです」


「そうなのですね。それでは絵里香の時とは違いますね。どうしたものかな・・・まぁ、でも戻らないよりは良かったです」

「では、もう一度キスをしたら、またその人になるのではありませんか?」


「それはちょっと怖いです。だってお母さまではなくなってしまっていたのですよ!」

「そうですか・・・」

「えぇ、僕や絵里香は前世の記憶がこの世界に生まれてからの記憶に繋がっているのです。でも昨日のお母さまは、その天満月あまみつつきという人に乗っ取られていたのですよ」


「それでは今の私が居なくなってしまうのですね?」

「えぇ、そうです。僕から見れば、その人は全く知らない他人なのです。そんな人と一緒に眠ることはできません」

「そうでしたか・・・え?でもこのままでは、もう月夜見とキスができないのですか?それは嫌です!」

「えぇ!そんなことを言われましても・・・」


「お願いだから、もう一度してください!」

「お母さま!落ち着いてください」

「このままだったら私は生きている意味がありません!」

「そ、そこまでおっしゃるのですか・・・」


 お母さんって、たまにこうして駄々っ子の様になるよなぁ・・・それがまた可愛いのだけどね。


「分かりましたよ・・・」

 僕はお母さんを抱きしめてキスをした。お母さんも強く僕を抱き返して来る。

でも、もう映像は浮かんで来ない。お母さんにも変化は見られない・・・いや、変化はある。


 どんどんとなまめかしくなってきている。目がトロンとして来た。


「お、おはあはま・・・そおそお・・・」

 お母さんが離してくれない。舌も絡めて来て息も荒くなっている。あーもう仕方がない。少し力を入れてお母さんを引き剥がした。


「お、お母さま!どうですか?お母さまのままですか?」

「はい。私ですよ。月夜見」

「あぁ、良かった。意識が乗っ取られている訳ではなかったのですね?」

「えぇ、大丈夫ではありませんか。ではもう一度!」

「うぷっ!」

 僕は観念して、しばらくはお母さんの好きな様にキスをさせていた。


「月夜見・・・元気になって来ていますよ・・・」

「あ!そ、それは・・・あ、朝だからですよ・・・」

「嘘です。さっきはこうなっていませんでした。私とキスをしたからでしょう?」

「はぁ・・・まぁ、そうですね」

「このまましますか?」

 お母さんは小悪魔の様な可愛い微笑みを浮かべて僕を触り始めた。


「あ!だ、だからまだ心の整理ができていないと言ったではありませんか!もう少し待ってください。大体、お母さまは基礎体温表をつけていないでしょう?」

「そうですね。では明日からつけますね!」

「はぁ・・・」


 あぁ、僕は一体、どうなってしまうのだろう・・・

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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