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27.アルメリアの過去

 柚月姉さまが神宮に入って一週間が経ち、マリー母さまとメリナ母さまが帰る日となった。


「アルメリア。後で私の部屋へ来てくれるかしら。月夜見さまも一緒にね」

「はい。お姉さま」


 僕はお母さんと一緒にマリー母さまの部屋へ行った。侍女長のマチルダがお茶を淹れてくれた。

「マチルダ、ありがとう。もう下がって良いわ」

「はい。失礼致します」


「月夜見さま。玄兎げんとさまとアルメリアのことはお聞きになっていると思います」

「はい。お父さまには月宮殿に送った時に。お母さまにはその夜に伺いました」


「私はアルメリアに謝らなければなりません。今からお話しすることは、アルメリアと月夜見さまにはとてもお許し頂けない、酷いお話となります」

 マリー母さまは、何か覚悟を決めたかの様に厳しい表情となった。


「私は十六歳で玄兎さまに嫁ぎ、十八歳で妊娠して月影を出産しました。そして玄兎さまが私以外の六人の妻をめとった時、私はようやく二人目を妊娠したのです」


「今度こそは男の子をと願いましたが、生まれたのは結月ゆづきでした。その後も七人の妻が皆、二人目の子を授かっても生まれた子は全員女の子だったのです」


「玄兎さまも妻たちも皆、暗い気持ちに襲われました。そして妻たちが集まって話したのです。私たちにはもう男の子は授からないのだと・・・それでも天照家を絶やすことはできません。こうなったら誰か八人目の妻に来てもらう他はない。そう結論付けたのです」


「マリー母さま。ま、まさか、それでお母さまを?」

「えぇ、私が玄兎さまに、アルメリアのことを進言したのです」

「そ、そんな・・・だってお母さまはマリー母さまより、十五歳も年下ではありませんか。しかもお父さまと十八歳も離れているのですよ。そんなまだ子供の様なお母さまを差し出すなんて・・・」


「えぇ、アルメリアが月宮殿に入った後、あなたが月を見ては泣いているのを見て、私は何てことをしてしまったのかと後悔しました。あなたの人生を取り上げてめちゃめちゃにしてしまったと・・・それを姉である私が自ら画策したのだと」

 お母さんはずっとうつむいて黙ったまま聞いている。


「それは私だけではありません。他の六人の妻たちも、勿論、玄兎さまも暁月ぎょうげつさまもです。皆、心から後悔していました。それでも、アルメリアは本当に奇跡的に月夜見さまを授かったのです」


「結果的には、天照の一族は世継ぎを授かることができて喜びました。でもそれはアルメリアの犠牲があってのことなのです。本当にごめんなさい。私はあなたに何を言われようとも返す言葉を持ち合わせてはいません。許してもらえるとも思っていません」


「せめてもの償いとして、今更ではありますけれど、玄兎さまへアルメリアに第二の人生を選択させてあげて欲しいとお願いしたのです」


「そうだったのですね。お姉さま。確かに私は嫁いだ時、とても悲しくて毎日泣いて暮らしていました。でも半年程経ったある日、私は夢を見たのです。その夢は月夜見の夢でした。私と同じ瞳と髪の色をした青年。それは思い出してみれば、今の月夜見の姿でした」


「私はその夢を見て心を決めることができ、玄兎さまにお願いしたのです。その時のただ一度のことで月夜見を授かったのです」

「え!ただ一度?アルメリアは玄兎さまと一度しか経験がないのですか?」

「はい。その一度だけです」

「そんなことがあるのですね・・・」


「お姉さま。私は月夜見を授かったことで本当に幸せになったのです。月夜見は私にとって、息子であり、恋人であり、夫であり、父親でもあるのです。それ程に私の全てなのです。その月夜見を授かるきっかけをくださったのですから、お姉さまにも玄兎さまにも感謝しています」


「ア、アルメリア。あなたという人は・・・こんな私を許すと言うのですか!」

「許すも許さないもありません。お姉さまを恨んだことなどないのですから・・・」

「アルメリア。ありがとう・・・」


「マリー母さま。そうですね。もう、済んだことです。お母さまがそれで良いならば、僕は何も言うことはございません。これからもお母さまを愛して、大切にして参ります」

「う、うううっ、うう・・・」


 お母さんは号泣するマリー母さまの隣に行って肩を抱いていた。


 僕は黙って二人を見つめ、一滴ひとしずくの涙をこぼした。


 その後、マリー母さまの荷物を月宮殿のマリー母さまの部屋へ直送した。

「シュンッ!」

「さて、次はメリナ母さまの荷物ですね」

 メリナ母さまの客間へ行き、まとめられた荷物を直送した。

「シュンッ!」


「さぁ、マリー母さま、メリナ母さま、月宮殿へ帰りましょうか」

「ステュアート。ネモフィラ王国を頼みますね」

「はい。お姉さま」


「アルメリアさま、月夜見さま、柚月をよろしくお願いいたします」

「はい。メリナ姉さま」


「では、マリー母さま、メリナ母さま。両脇から僕を抱きしめてください」

「何だか嬉しいわね」

「そうですね。マリー姉さま」

「では、飛びますよ!」


「シュンッ!」

「さぁ、着きましたよ」


「月夜見さま。本当にありがとうございました。アルメリアをよろしくお願いいたします」

「はい。お任せください。お母さまは僕が必ず幸せにしますから」

「まぁ!まるで結婚するみたいね。しても良いのですけど」

「息子と結婚する母親なんて居ませんからね」


「月夜見さま。柚月のこと。本当にありがとうございます」

「はい。これからも見守って行きますので安心していてください」

「それでは、これで帰りますね」

「ありがとうございました!」


「シュンッ!」

 自分の部屋へ戻った。


「月夜見。お帰りなさい」

「お母さま。ただいま」

 僕はお母さまの顔を見ると、何故だか凄く安心して微笑んだ。お母さんも笑顔になった。


「お母さま。珈琲でも淹れましょうか」

「えぇ、嬉しいわ」




 その夜、お母さんとベッドで話した。

「お母さま。今日のマリー母さまとのお話なのですが」

「えぇ、聞きたくなりますよね」

「お父さまとは本当に一度しか経験がないのですか?」

「はい。本当ですよ」


「では、お母さまは人生で一度しか経験がないのですね」

「ちょっと。恥ずかしいではありませんか、何度もそんなことを」

「お母さま。それならば、これから愛せる殿方を探した方が良いのではありませんか?」

「え?何故、そんなことを言うのですか!私には月夜見しか居ないと言ったではありませんか!」


「いや、まさか、本当に一度しか経験がないとは思わなかったものですから。僕は女の幸せというものもあると思っているのです。要するに愛する男性との性生活というものです。それが生涯一度きりなんて・・・寂しくはないのですか?」


「だから、月夜見が息子であり、恋人であり、夫であり、父親でもあると言ったのです」

「僕が全てを?」

「えぇ、月夜見が私の全てなのです」


「そうですね・・・でも冷静になって考えると僕にとってもそうなのかも知れません」

「本当ですか!」

「えぇ、僕は生まれた時から前世の記憶があったので精神的には二十五歳だったのです。その目でお母さまを見ているので、母というよりも異世界のひとりの女性としてどんな人なのかを見ていました。お母さまは常に僕から目を離さずいつも見守ってくれて、それは間違いなく母そのものでした」


「でもそれから成長するにつれ、前世の悲しみを引きずる僕を恋人の様に気遣い支えてくれました。そんなお母さまをいつしか愛していたのだと思います」

「まぁ!嬉しいわ。ではお互いに愛し合っているのですね」

「それは・・・そうですね」


「では、結婚してくれるのですね!」

「いやいや。それは気持ちのことですよ。実際に結婚はできないし、親子で性交だって無理です」


「そんな・・・だって、生涯で一度だけなんて可愛そうだって言ったではありませんか」

「えぇ?お母さま。本当に本気なのですか?いつもの冗談ではなくて?」

「私はいつも本気です。月夜見が困った顔をするから冗談だと言っていただけです」

「えー!本気だったのですか・・・」

「はい。本気です・・・」


 あぁ、お母さんが意気消沈してしまっている・・・そんな・・・どうしよう。どうしたら良いんだ?混乱する。何だか本当に分からなくなってくる。


「お母さま。僕はお母さまを本当に美しいと思うし、可愛いとも思う。その・・・性交も・・・したいと思ったことも何度もあります。こうしていつも一緒に寝ているし、お風呂にも入っていますからね。精神的にはひとりの女性として愛しているのだと思います」

「本当ですか!月夜見!」


「はい。でも前世の医師としての倫理観が・・・どうしても・・・気になってしまって・・・今はまだ、待ってもらえませんか?」

「えぇ、その気持ちが分かっただけで嬉しいです!今日は抱いて寝てください」

「分かりました・・・」

 僕はお母さんを抱きしめた。何だか眠れそうにないけれど、それ以上のことも今はできない。




 翌日。僕はステラリアを頼った。

「ステラリア。相談したいことがあるのだけど。良いかな?」

「えぇ、勿論です」

「では、ちょっと外へ行こう」

「はい」


 そう言ってステラリアを抱きしめて瞬間移動した。

「シュンッ!」

 海岸にやって来た。


 春の海には穏やかな日差しが降り注いでいた。僕たちは砂浜に腰を下ろして波の音を聞き、海を見ながら話しをした。


「昨日ね、マリー母さまが帰り際にお母さまにこんな話をしたんだ」

 僕は隠さずにその時の会話と昨夜のお母さんとの会話も全て話した。


「ステラリア。お母さまをどう思う?」

「私はアルメリアさまの気持ちがよく分かります。天照さまとの一度は神から月夜見さまを授かる儀式の様にお感じになったのだと思います。ですから天照さまに対して愛はないのです。アルメリアさまの月夜見さまに対する愛は子に対するものではなく、愛する男性に向けたものなのです」


「そんな話をお母さまから聞いたのかい?」

「いいえ、詳しく聞いたことはございません。でもいつも一緒に居て、アルメリアさまの月夜見さまへの言動を見ていれば分かります」

「ステラリアはそれをおかしいこととは思わないの?親子なんだよ?」


「そうはおっしゃいますが、月夜見さまもアルメリアさまをお母さまとして見ていらっしゃらないと思いますけれど」

「え?そんな風に見えているの?」

「そんな風にしか見えませんが?」

 ステラリアは微笑を浮かべて僕の顔を覗き込む様にして言った。


「え!それではさ、そんな親子で愛し合うみたいな変な男と君は婚約して良かったの?」

「変だなんて思っていません。おふたりは特別なのです。普通の親子ではないのですから」

「どんな風に普通ではないのかな?ごめんね。しつこく聞いてしまって。自分でも混乱しているんだ」


「月夜見さまは、前世の記憶をお持ちです。生まれた時から子供ではなかったとアルメリアさまから伺っています。そしてあまりにも魅力が大きいのだと」


「アルメリアさまもまた、そういった特殊なことを経て月夜見さまを授かりました。恐らく自分の子として産んだと感じられないのだと思います。だから親としてよりもひとりの女性としての気持ちが勝ってしまうのでしょう」


「ふたりとも、お互いを現実の親子と認識できていないということか」

「このまま一緒に暮らすことは難しいのですか?」

「いや。何度もあるのだけどお母さまが僕を求めて来るのですよ。僕とお母さまがそんな関係になったらステラリアはどう思いますか?」

「私は構いませんけれど。妻がひとり増えるだけと思います」


「えぇ!本当に?おかしいとは思わないの?」

「はい。思いません。でも月夜見さまとアルメリアさまだからですよ」

「あぁ、なんか認められたら認められたで混乱するな・・・ステラリア。助けてよ!」

 僕はステラリアに抱きついた。ステラリアも優しく抱きしめてくれる。


「それならば、こうしては如何ですか?」

「え?何か良い考えが?」

「マイが見つかって月夜見さまが成人されたら、皆でネモフィラ王国を離れるのです。どこかの国で屋敷を建てて月夜見さまとマイさま、絵里香と私。そしてアルメリアさまは名前を変えて別人となり、誰も知り合いの居ない国で四人の妻と暮らせば良いのです」


「なるほど・・・少し考えてみるよ。ステラリア。考えてくれてありがとう」

 僕はステラリアを抱きしめてキスをした。




 その夜。僕は絵里香を誘い出した。月宮殿の裏山へと飛んだ。

「絵里香。僕とお母さまの関係をどう思う?」

「はい。こんなことを言っても良いのか迷いますが、親子には見えません」

「では、何に見えるのかな?」

「恋人同士か夫婦でしょうか」


「そうなんだ。どうしてそう見えるのかな?」

「それは・・・お互いが親子にはない、男女の愛を持っていることがはっきりと見えるからです」

「絵里香はそれをどう思う?」

「おふたりは特別なのだと感じています。恐らくおふたりは親子ではないのです」


「何故、親子ではないと思えるのかな?」

「説明はできないのですが、そう感じるのです。親子とは思えません」

「では、絵里香は僕とお母さまが夫婦になったらどう思う?」

「とても自然なことだと思います」


 僕は昨日からのこと、ステラリアに相談した結果も全て絵里香に話した。

「アルメリアさまにそんな過去があったのですね。それならば、説明できなかった部分がはっきりしました。アルメリアさまは夢のお告げに従って月夜見さまを授かったのです。それは子を授かったのではなくて、未来の夫を授かったのです」


「それでは、ステラリアの提案はどう思うの?」

「それは実現すると思います」

「あれ?まさか絵里香!未来の夢を見たのかい?」

「あ!」

 絵里香はしまった!という表情をして慌てた。


「あーーっ!絵里香!こら!黙っていたな!」

 僕は絵里香の脇腹をくすぐってやった。

「キャーやめて!やめてください!くすぐったーい!ごめんなさい!」

「じゃぁ、本当のことを言ってくれるね」

「あぁ・・・どうしましょう・・・」


「絵里香―っ!」

「あぁ、駄目です、くすぐるのはやめてください!言います!言いますから!」

「さぁ、では聞こうか」


「ふぅーっ・・・はい。十五歳の時に見た五年後の夢では、ネモフィラ王城でも月宮殿でもない大きなお屋敷で、アルメリアさま、ステラリアさまと私、それにもうひとりの妻と暮らしている夢でした」


「そのもうひとりというのは誰なの?」

「私が見たことのない女性です。ステラリアさまと同じ瞳と髪の色をしていました」

「ミラ?いや、そんなことはないよな・・・」

「その方が四人の中で一番若いと思います。恐らく月夜見さまが、マイさまの写真やネックレスを見た時に現れた映像の方なのではありませんか?」


「では僕が成人する時にはもう、転生した舞依に出逢えていてステラリアの提案通りにどこかの国で一緒に暮らしているというんだね」

「はい」


「絵里香。何故それを教えてくれなかったんだい?」

「この夢を見た時は、私たちの婚約どころか、まだ月夜見さまのお気持ちすら分かりませんでした。それなのに五年後は私と結婚しています。なんて言ったら、私と結婚してくださいとお願いする様なものです。それで言えなかったのです」


「あぁ、それでステラリアとお母さまに相談して隠したのだね」

「隠していて申し訳ございません」

「良いんだよ。確かにその内容だと言いにくいよね。仕方がないさ」

「怒っていませんか?」


「ちょっと怒ってる」

「え!許してください!お願いです!どうしたら許して頂けますか?」

「うーん。そうだな・・・では絵里香からキスをして!」

「え?それで許してくださるのですか?」

 絵里香は恐る恐る僕に近寄り、唇にチュッと触れた。


「それくらいじゃぁ、許せないな!」

 僕は荒っぽく絵里香を抱きしめて深く、そして長く唇を奪った。絵里香は少し荒い息遣いとなったが構わずにキスを続けた。


「絵里香。愛しているよ」

「私もです。月夜見さま。愛しています。生涯、四人で月夜見さまを愛します」

「絵里香。ありがとう」


 成人までに舞依も見つかるということか・・・

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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