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25.アルメリアの決断

 ネモフィラ王国に春が訪れた。


 僕とフォルラン、ロミー姉さまは五年生に進級した。


 それよりも大きな変化があった。ネモフィラ王国の王、ヴィスカム ネモフィラが六十歳になったことを機に王位を息子のステュアート伯父さんへ継承することとなったのだ。


 その知らせは一か月前から全国へ公布され、王城には王位継承の儀式のため、全国の貴族が登城していた。月宮殿からは暁月ぎょうげつお爺さん、お父さんとマリー母さまとお母さん。そして僕が参列した。


 こういう儀式を見るとつくづく王とか貴族の制度って自分には合わないと思ってしまう。

まぁ、大人しくしておこう。


 そして、王位継承の儀式が一通り終わり、ステュアート伯父さんがネモフィラ王となってからアニカ姉さまは結婚のためプラタナス王国へと旅立った。


 この時、ネモフィラ王国の船に僕も乗って瞬間移動でプラタナス王国へと飛んだ。


 ネモフィラ王国の船を船ごと瞬間移動させるのは初めてなので、船長にはあらかじめ驚き過ぎない様に注意をしておいた。


「では船長、飛びますよ」

「はい!」

「シュンッ!」


「せ、船長!プラタナス王城の上空です!」

「え?もう着いたのですか?」

「船長。瞬間移動ですから一瞬のことですよ」


 昇降機を下ろして下船した。王城の庭園には王家の者たちが整列して待っていた。


「ステュアート ネモフィラ陛下。それに月夜見さまも。ようこそお越しくださいました」

「これは、ヘンリー プラタナス陛下。ご無沙汰しております」

「お久しぶりです。ヘンリー殿」

「さぁ、どうぞ中へお入りください」


 僕たちは城のサロンヘと通された。

「月夜見さま。先日は良きご忠告を頂き、ありがとうございました」

「お役に立てたならば幸いです」


「ヘンリー殿。ティアレラ殿。我が娘、アニカをよろしくお願いいたします」

「ネモフィラ王国の王女に我が国へ嫁いで頂けるとは、有難き幸せに御座います」


「では、ステュアート伯父さま。私は皆さんを送り届けることが役目でしたので、これで失礼いたします。アニカお姉さま。どうかお幸せに」

「お兄さま!ありがとうございました。また遊びに来てくださいね」

「えぇ、困ったことがあればいつでも瞬間移動で飛んで来ますよ。では!」

「シュンッ!」


「おぉ!消えてしまわれた!」

「あれが、神の御業なのですね・・・」


 僕は瞬間移動で、佳月かげつ姉さまが居る神宮へと飛んだ。

「シュンッ!」

「佳月お姉さま。お久しぶりです」

「まぁ!お兄さま。もしかしてアニカさまをお連れしたのですね?」

「えぇ、そうなのです。お姉さま。ティアレラ殿とその後は如何ですか?」


「はい。ティアレラさまは、あれから毎日の様に神宮へ顔を出されて、週に三度か四度は夕食にご招待くださいます」

「え?そんなに通っているのですか?ではもう?」

「えぇ、ティアレラさまは、私を二人目の妻に迎えるつもりだとおっしゃっています」

 えー!早いな!大丈夫なのかな?

「お姉さまはもう受け容れていらっしゃるのですか?」


「えぇ、アニカさまが良いと言ってくださるならば、とお伝えしています」

「そうなのですか。まぁ、アニカ姉さまなら、佳月姉さまが僕の姉と知って拒否をするとも思えませんけれどね」

「お兄さまのお話をすれば、仲良くなれそうな気がします」

「そうですね。上手く行けば良いのですが」


「神宮の仕事で困ったことはありませんか?」

「はい。まだまだ、ここの存在が浸透していないのだと思います。人口が少ないこともあるのでしょうけれど。診察に来る方はあまり増えていません」

「始めはその方が良いでしょう。徐々に慣れて行けば良いのですよ」

「はい。お兄さま。ありがとうございます」


「では、僕はこれで帰りますね。また何かあったら呼んでください。また遊びに来ますね」

「はい。お兄さま」

「シュンッ!」


 僕は自分の部屋へと瞬間移動で戻った。

「只今、戻りました」

「月夜見。ご苦労さま。プラタナス王国は如何でしたか?」

「えぇ、ティアレラ殿はもう、アニカ姉さまだけでなく、佳月姉さまも嫁に迎えることを決めた様ですよ」


「まぁ!随分と早いですね」

「その辺は、僕も人のことを言えないのですけれどね」

「ふふっ、そうかも知れませんね」

 な、何だか僕が節操のない男みたいになってしまったな。


「う、うん!そう言えば、絵里香。乗馬はどうなっていたっけ?」

「はい、もうかなり乗れる様になったと思います」

「そうか。それは良かった。お母さま。今度、柚月姉さまが来たら乗馬で湖まで行きませんか?」


「そうですね。五月ならば雪も溶けているでしょうからね」

「六月はネモフィラの丘ですね」

「そうね。やっと長い冬が終わったのね」

 何となく話題をらしてみたくなった。




 北国のネモフィラも五月に入り、すっかり春となった。山にはまだ雪が残っているが、平地にはもう雪はない。新緑も芽吹き、花も咲き始めている。僕は柚月姉さまを迎えに月宮殿へ飛んだ。


 宮殿の大型船には既に柚月姉さまの引っ越し荷物が積まれていた。別に船に積まなくても部屋から部屋へ直接僕が送った方が早かったのだが。


「お父さま、マリー母さま、メリナ母さま、柚月姉さま。準備はよろしいですね?」

「うん。頼むよ」

「では、行きますよ!」

「シュンッ!」


 次の瞬間にはネモフィラ王城の上空に現れた。昇降機で中庭へと降りると、王家に加えて、お母さん、ステラリアと絵里香も並んで待っていた。


「天照さま、ようこそお越しくださいました」

「ネモフィラ殿。王位の継承からまだ日が浅いですが、政務には慣れましたかな?」

「いえ、まだ若輩者故じゃくはいものゆえ、父上にお聞きしながらのよちよち歩きです」

「そうですか、ネモフィラ王国は大国ですからな。徐々に慣れて行かれると良い」

「はい。ありがたきお言葉でございます」


「今回は、月影の二人目の子のこともあり、柚月を派遣することとなったのですが、ネモフィラ殿のご子息とのこともあるようですな」

「はい。私としても柚月さまに来て頂ければ、この上ない幸せとなるのですが、まだ年若いふたり故、まだどうなるのか分からないと聞いております」


「うむ。そうでしょうな。此度、私は直ぐに戻りますが、マリーとメリナは一週間程、こちらでお世話になります」

「はい、心得ております。ではどうぞこちらへ」


 家族はサロンへ通された。その間に船の乗組員が柚月姉さまの荷物を神宮へと運び入れた。まぁ、彼女たちにもたまには働いてもらった方が良いよね。


 サロンには、ネモフィラ王家と僕の家族、ステラリアと絵里香も婚約者として同席している。

「柚月さまは、こちらの神宮で研修をされるのですか?」

「柚月の宮司としての訓練は全て終わっています。後はここの神宮の実務を研修し、実績を積むのみです」

「それはそれは!柚月さまは優秀でいらっしゃるのですね」

「そうです。この子は他の子と比べても能力が高いと感じています」


「流石は、柚月さまですね。お美しいだけでなく能力にも長けていらっしゃるとは」

「まぁ!フォルランさま。褒め過ぎですわ」

「いいえ、褒め過ぎなどということはございません。言葉では言い表せない程に素晴らしい女性なのですから」

「・・・」


 柚月姉さまは真っ赤になってうつむいてしまった。フォルラン。久々の再会で舞い上がっているな。


 その後、僕の家族だけで神宮を訪問した。

「月影。久しぶりですね」

「お母さま!お父さまも、あ。それにメリナ母さま。お久しぶりです」

「もう、大分お腹が目立って来ていますね」


「えぇ、もう六か月目に入りましたからね」

「あ!お姉さま。それならば男の子か女の子か分かりますね」

「えぇ、それならば絵里香に見てもらって分かっていますよ。女の子です」


「月影としては、二人目は女の子が良かったのですか?」

「えぇ、お母さま。だからお兄さまから聞いていた方法で女の子を授かったのです」

「まぁ!月夜見さまに指導頂いたのですか?」

「いえ、随分前に女の子ができ易くなる性交の方法を伝えておいただけですよ」


「あぁ。あの男の子を授かる方法の様なことが女の子の場合もあるのですね」

「はい。でも男の子の時よりも簡単だと思いますよ」

「月影は自分の思い通りになって良かったわね」

「はい。お母さま。全てお兄さまのお陰です」


「絵里香は、この神宮で既に治癒をしているのですか?」

「はい。絵里香は私よりも優秀です。お兄さまと同じ能力を持っていますから、私にできない治療もできるのです」

「まぁ!素晴らしいわね」

 絵里香が褒められると自分まで嬉しくなるものなのだな。


「月影。良夜りょうやに会わせてくださいな。私の息子、秋高しゅうこうと二歳しか違わない孫に会うのは不思議なものですけれど」

「そうですわね、お母さま。ではこちらへ」


玄兎げんとさまは、アルメリアにお話があるのですよね。月影、応接室を借りられるかしら?」

「はい。お兄さま、ご案内をお願いしてもよろしいですか?」

「分かりました。お父さま、お母さま、こちらへどうぞ」


 お父さんとお母さんを応接室へ案内して僕は診察室へ戻った。巫女がお茶を淹れてくれる様だ。




 応接室には玄兎とアルメリアが向かい合って座っていた。

「アルメリア。ここはどうだい?」

「はい。おかげさまで楽しく過ごしております」

「今後のことなのだが、アルメリアはどうしたいのかな?」


「はい・・・大変、勝手な申し出だとは思うのですが、私は月夜見と共に生きたいのでございます」

「それは月夜見の居るところで常に一緒に暮らすということだね」

「はい。申し訳ございません」


「良いのだよ。アルメリアは月夜見を生んでくれたことで役目は十分に果たしたのだからね。父上も妻たちには第二の人生を選ばせている。アルメリアがそれを望むならば私は反対しないよ」


「よろしいのですか?玄兎さま・・・」

「うん。アルメリア。今までありがとう」

「はい。ありがとうございます。玄兎さま・・・」

 アルメリアの瞳からは一筋の涙がこぼれた。


 お父さんとお母さんの話は思ったよりも早く終わった。そのままお父さんは帰るそうだ。

「月夜見。月宮殿まで送ってもらえるかな?」

「はい。お父さま。では参りましょう」

 僕はお父さんが挨拶を済ませると二人で大型船へと乗り込み瞬間移動で月宮殿へ移動した。


「月夜見、少し私の部屋で話そうか」

「はい。お父さま」

 巫女がお茶を用意してくれるのを待って二人で話した。


「月夜見。アルメリアと話したのだがな。アルメリアはここには戻らないそうだ」

「戻らない?お父さまと離婚されるのですか?」

「いや、そういうことではない。アルメリアがそれを望むならばそれでも構わないが、アルメリアは月夜見と暮らしたいのだそうだ。それだけならば離婚をする必要はないだろう?」

「あぁ、それはそうですね。お父さまはそれで良いのですか?」


「父上も妻たちに第二の人生を選ばせているからね。私もそうするよ。他の妻たちはまだ子が小さいから先の話になるだろうが、アルメリアはもう私との子を作ることもないからね」

「お父さまは、お爺さまとは違う個人の人間です。お父さま自身としてお母さまと一緒に暮らしたいとか、新しい子を儲けたいとは思われないのでしょうか?」

 僕の質問を聞いて、お父さんは神妙な面持ちとなった。


「月夜見・・・実はな、アルメリアにはすまないことをしたと思っているんだ」

「え?それは・・・」

「アルメリアはここに来た時、毎日悲嘆に暮れていた。姉であるマリーでさえ声を掛けることを躊躇ためらう程にな・・・」


「私はアルメリアが毎日泣いている姿を見て間違ったことをしたと悟ったのだ。神の一家の威光いこうを使い、アルメリアを奴隷の様に無理やりここへ連れて来てしまったのだと・・・」

「そんなことが・・・」


「月夜見が生まれてからのアルメリアは笑顔を取り戻した。だが、アルメリアは月夜見のためだけに生きている様だった」


「その姿を見て私は父上とも相談し、お前が五歳になったら成人するまで、アルメリアと共にネモフィラ王国で暮らすのが良いだろうと決めたのだよ」

「そうだったのですね」


「うむ。だからこれからのアルメリアの人生は彼女の自由にさせたいのだ」

「分かりました。では僕がお母さまを引き受ければ良いのですね」

「うむ。月夜見。アルメリアを幸せにしてやってくれるか」

「はい。かしこまりました」

 何だかお母さんを嫁にもらうみたいだ。変な会話だな・・・


「ではお父さま。僕は戻ります。一週間後にマリー母さまとメリナ母さまをお送りします」

「うん。頼むぞ」

「はい。ではまた!」

「シュンッ!」


 神宮へ戻ると柚月姉さまの荷解にほどきが始まっていた。メリナ母さまとマリー母さまも手伝っていた。


 その夜は王城にて柚月姉さま、メリナ母さま、マリー母さまの歓迎の宴となった。


 宴が終わり柚月姉さまは神宮へ、メリナ母さまは客間へ、マリー母さまはまだ残されている自室へと戻り、僕とお母さんも自室へと戻った。入浴後にベッドに入ると、お母さんが抱きついて来た。


「お母さま、どうされたのですか?」

「月夜見。これから先も私とずっと一緒に居てくれますか?」

「あぁ。今日のお父さまとのお話ですね。お母さまはお爺さまに命じられてお父さまのところへ嫁いだのですよね?」

「えぇ、そうです」


「それはつらいことでしたか?」

「そうですね。あなたが生まれるまではいつも帰りたいと考えていましたね」

「それは、お辛いことでしたね・・・お母さまにとって僕という存在はそんなに大きいものなのですか?」


「もしあなたが玄兎さまに似ていたら、これ程ではなかったかも知れません。でもあなたは私に似ていたし、すぐに会話ができたことも大きいですね」


「そして、いつも悲しみを抱いているあなたを守らねばと必死だったのです。私の人生には、もうあなたしか居ないのですよ」


「では、お母さまはお父さまではなく、僕を選ぶ。ということですか?」

「えぇ。そうです。月夜見は迷惑ですか?」

「いいえ。大歓迎ですよ」

「本当ですか!」


「えぇ。本当です」

「嫁にしてくれるのですね!」

「ふふっ。お母さまも冗談がお好きですね」

「月夜見にその気がなくとも、私はそのつもりですから・・・」


「はいはい。分りましたよ」

「もう!月夜見ったら!」

 そう言って、お母さんは僕を強く抱きしめた。お母さんは本当に美しくて可愛い人だ。


 母親でなかったら絶対に結婚したいさ。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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