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21.絵里香の能力と違和感

 翌朝、お母さんの肌も髪もキラキラしていた。


 ちょっと、大袈裟おおげさに言ってみれば・・・だけど。

 でも僕にとっても確実に良いことはある。それは良い香りがすることだ。すれ違うだけで良い香りがする。


 これはとても良い。日本の記憶でもある。すれ違う女性の髪から香るコンディショナーの花の様な香り。これは男にとって心癒されるものなのだ・・・


 お母さんは自分でも違いを感じた様で、髪がしなやかになっているとか、肌の感じがいつもと違うとか言ってとても機嫌が良い。素晴らしいことだ。


 僕は朝食を済ませるとすぐに部屋へ戻って珈琲を飲む様になった。

お母さんやステラリアも一緒にだ。絵里香は昼からの当番の時以外は一緒に飲んでいる。


 ステラリアと絵里香は侍従と侍女でありながら、婚約者でもあるのでこの様なひと時には婚約者の扱いになるのだ。なんか変だ。だけど普通、婚約者はひとつ屋根の下には居ないものだ。だから中途半端で変な関わり方になるのだ。まぁ、それもあと一年くらいの辛抱だけど。


「今日は学校から戻ったら月宮殿に行って来ますね」

「柚月の衣装ですね。よろしくお願いしますね」

「はい」


「ステラリアは珈琲に慣れたかな?」

「私は初めから美味しいと思いました」

「ステラリアが珈琲を飲む姿って、やけに様になっていて好きだな・・・」

「え?つ、月夜見さま?」


「あ!ごめん。何か変なこと言ったね。でも珈琲を飲むとトイレが近くならないかい?」

「え、えぇ、そう思います」

「これを利尿作用というんだけど、尿が多く出るとむくみが改善されて美容効果もあるんだよね」


「むくみが解消されるのですか?私、もう一杯。頂きたいわ」

「お母さま。珈琲は一度に飲み過ぎると今度は胃を悪くすることもあるのです。美容のためならば一日一杯か二杯で十分ですよ。次はお昼過ぎに飲むと効果的ですね」

「そ、そうなのですか・・・」

 本当に可愛い人だな。まぁ、まだ二十七歳だからな。美容が一番だよね。




 学校から戻ってすぐに月宮殿へと飛んだ。

「シュンッ!」

「こんにちは」


「あ!お兄さま!お待ちしていました!」

「柚月姉さま。お待たせしました。では行きましょうか」


「月夜見さま。柚月をよろしくお願いいたします」

「はい。行って来ます」

 僕は念動力を使ってサッとお姉さまをお姫さま抱っこし、瞬間移動した。

「シュンッ!」


「あ!もう着いたのですか!」

「えぇ、お姉さま。ほら、あそこに月の都が見えていますよ」

「うわぁ!地上から見るとこんな風に見えるのですね!きれいです!」

「えぇ、きれいですよね」


「まぁ!月夜見さま。ご無沙汰しております。また一段と凛々しく、またお美しくなられましたこと・・・」

アリアナの目つきがちょっと怪しい。気絶しないだけ良いか。


「アリアナ。お久しぶりです。こちらはジギタリス王国第三王女メリナ ジギタリスの娘で私のお姉さまに当たる、柚月姉さまです。今日はお姉さまがネモフィラ王国の王子から招待を受けましたので、訪問する際の衣装を用意するために参りました」


「まぁ!ネモフィラ王国の王子殿下のご招待なのですね。それでは相応しいドレスをご用意いたしますわ」

「アリアナ、今回、訪問が急に決まりましてね。一週間後なのです。ですからドレスを新調する時間はないかも知れません。その場合はあるものの中から選ばせて頂き、寸法の調整を頂ければと思います」


「月夜見さまのお買い物なのですから、新調されるとしても一週間以内に仕上げてみせますわ」

「そ、そうですか。それは心強いことです。では一週間の滞在ですので、七着の衣装をお願いしますね」

「かしこまりました。一週間分でございますね。どうぞこちらへ、是非、新作を見て頂きたいですわ」


 それからはファッションショー状態となった。僕はソファに座ってお茶を飲んでいたが、途中で席を外して工房を見学させてもらった。


 一階の工房へ降りて行くと、皆が手を止めてこちらを振り返った。奥にブラジャー製作で世話になったサンドラを見掛けて声を掛けた。


「サンドラ!久しぶりだね。元気にしていたかな?」

「あ!・・・???・・・え?つ、月夜見さま?・・・なのですか?」

「バタバタっ!」

 あーまた気絶したか。今度は多いな。十人くらいは倒れた。これじゃぁ、営業妨害だよな。


「サンドラ。そんなに久しぶりだっけ。僕が分からないかな?」

「あ、いえ。凄く成長されていらっしゃるので・・・」

「あぁ、そうか。前はサンドラの方が背が高かったのでしたね」


 どうしても精神年齢が勝ってしまい、二十五歳以上の感覚でいるから自分の背丈とか見た目を全く意識していないのだ。たまに思い出していかんと思うのだが、結局また忘れてしまう。


「それより、彼女たちどうしよう?ちょっと顔を出そうと思っただけなのに、仕事の邪魔になってしまったね」

「いいえ、気絶しただけですから、すぐに目を覚ましますよ」

「そうかい?ごめんね。サンドラ、その後もずっと忙しくしているのかな?」


「はい。下着もですが月夜見さまから頂いた異世界の本や服の見本から、新しいドレスや服が沢山できているのです」

「そうでしょうね。忙しくさせてしまってごめんね」


「いいえ、とんでもございません。あの異世界の本を見て本当に驚きました。あの本に出ていた服を見てからは、今までになかった発想で新しいものができるので楽しくて仕方がないのです」

「あの本にある服だと、胸や背中とか足の露出が多い服が結構あって驚いたでしょう?」

「そうですね。とても大胆だと思いました。でも若い女性ならば構わないと思いますし、あれで男性に見初めて頂けるならと、選ぶ女性も増えると思います」

そうか。それは男性としても嬉しいのかな?


「月夜見さま。柚月さまの準備が整いましてございます」

「はい。すぐに行きます」

「では、サンドラ。また来ます。頑張ってくださいね」

「月夜見さま。ありがとうございます」


 二階の応接室に戻ると、新しい衣装を着た姉さまがアリアナと共に現れた。

「柚月姉さま。如何ですか?」

「お兄さま、見てください!見たこともない衣装ばかりなのです!」

「そうですね。どれも異世界の衣装ですね」

「お兄さまの前の世界のものなのですか?」

「えぇ、そうです。それをアリアナが再現してくれたのです。アリアナ。もうこんなにできていたのですね」


「はい。月夜見さまのお陰で御座います。すでにカンパニュラ王国では、貴族は勿論、平民でも異世界の服を参考にしたものが普及しております」

「お姉さまの衣装はどれにしたのですか?」

「はい。こちらです。一週間分ですので、四種類のワンピースに三種類のアンサンブル、それにダンスのドレスも一着、それらに合わせました下着類でございます」


「お姉さま。気に入られましたか?」

「はい。とっても!どれも素敵なのです。ですがスカートが短い様な気もするのですが、お兄さま、大丈夫でしょうか?」

「これからは、それが主流になるのです。お姉さまが始めに着れば注目されますし、フォルランも喜ぶのではないですかね」

「フォルランさまが!では、これにします!」


「アリアナ。ではこれら全てを頂きますよ」

「月夜見さま。いつもありがとうございます」


 服を先に宮殿へ送ると、お姉さまをお姫さま抱っこして飛んだ。

「シュンッ!」


「お兄さま。ここへ来る時もそうでしたが何故、抱きしめてくださらないのですか?」

「あぁ、これはネモフィラ王国へ飛ぶ時の練習ですよ」

「練習?何故ですか?」


「お姉さま。ネモフィラ王国へ飛ぶ時は、フォルランが出迎えるのです。その時、僕とお姉さまが抱き合っていたら、その姿を見たフォルランはどう思いますか?」

「あ!私としたことが・・・お兄さま。ありがとうございます」


「まぁ!月夜見さま。柚月。お帰りなさい」

「お母さま。とても素敵な異世界の衣装を買って頂いたのです!後でお見せしますね」

「それは楽しみね。それより月夜見さまに買って頂いたのですか?」

「えぇ、これくらい何でもありません」


「お兄さま、六日後は朝から行くのですか?」

「瞬間移動ですから、朝ここを出ると、向こうでも朝に着いてしまいます。お昼前くらいが良いと思いますよ」


「では、準備してお待ちしています」

「では、六日後にまた来ますね」

「お兄さま、ありがとうございました!」

「月夜見さま。ありがとうございました」


「はい。では!」

「シュンッ!」


「ただいま!」

「あ!月夜見さま。お帰りなさい」

「絵里香。まだ居たのだね」

「はい。丁度今日のお仕事が終わったところです」

「それではさ、また能力のことなのだけど、少しだけ良いかな?」

「はい。構いません」


「絵里香に透視能力が使えるかどうかを確認したいんだ」

「透視能力ですか?あの壁とか箱の中を透視して見るものですよね」

「それが分かっているなら、できるかできないかの確認は早いね」

「はい。やってみたいです」


「では僕が寝室へ入って、じゃんけんのどれかを右手で出すから、この部屋から透視して見えるか確かめてみて」

「え?どうやって見るのですか?」


「うん。壁を見つめて、その向こうに何があるかに集中していくんだよ。そうすると壁が透けて向こうが見えて来るんだ」

「分かりました。やってみます」

 僕は寝室へ入ると扉から見えない位置に立ち、じゃんけんのチョキを右手で出した。


 絵里香の返事を待っていると・・・

「月夜見さま。見えました!チョキを出していますね!」

「そうだよ。やっぱりできたのだね。では廊下側の壁を透視してごらん。廊下を歩く人が見えるかな?」

「はい。見えます。あ!アルメリアさまがお部屋にお戻りになるところです」

「そう、では二人で出迎えよう」

 僕は瞬間移動で絵里香の隣へ戻り、お母さんが扉を開いた瞬間に挨拶した。


「お母さま!」

「まぁ!驚くではありませんか!扉を開くなり、どうしたのですか?」

 お母さんが一瞬たじろいだ。


「実は、絵里香に透視ができるか試していたら、できてしまったのですよ。それで廊下を透視で見てもらったのです。そうしたら丁度、お母さまが戻られるところだったものですから」

「そういうことですか。絵里香は透視もできたのですね」


「絵里香。そうなると次のステップなのだけど、壁を透視できるならば、身体の中も見えるはずなんだ。それができれば人に対して高度な治療ができるんだよ」

「身体の中を見るのですか?」


「うん。例えば僕のお爺さまは力が強いので透視は勿論できるのだけど、人体の中がどうなっているかを知らないから、人間を透視するとその人間の向こう側が見えてしまうそうなんだ」

「あぁ、なるほど。壁を越えて向こう側を見る感じなのですね」


「そうなんだ。でも僕や絵里香は日本で理科や保健の授業とか、テレビや映画で人体の中がどうなっているかを映像として観たことがあるからイメージできるでしょう?」

「はい。皮膚や血管、筋肉や内臓とか骨ですよね」


「うん。だから皮膚から入って皮下組織、筋肉や脂肪を越えて内臓まで順番に透視していくことができるんだよ」

「それを見てどうするのですか?」


「例えば、女性なら卵管の中を見れば排卵しているかどうか、子宮の中を見れば胎児が居るか、がん子宮筋腫しきゅうきんしゅができていないかを診察できるんだよ」

「私にその判断ができるものなのですか?」


「それは僕が教えるよ。パソコンの中にそういう資料写真も入っているからね。難しいことは省いて、病巣かそうでないかが分かれば良いんだ」

「はい。それならばやってみます」


「大丈夫かな?絵里香は血を見るのが怖くはないかな?」

「それなら、ホラーとかスプラッタものの映画は観ていましたし、それに私は女ですから。毎月、自分の血は見ていますので」

「うーん。そういうものなのかな・・・」

 絵里香って、たまに大胆なことを言うんだよな。でもちょっと心配だな・・・


 僕は絵里香を抱きしめた。

「つ、月夜見さま?」

「絵里香。僕はたまに相手の考えを読み切れずに強引に物事を進めようとしてしまうことがあると思っているんだ。今回はどうだろうか?絵里香に無理を言っていないかい?」


「そうですね・・・まだ分からないことが多いので自分にできるのかどうか分からないという戸惑いはあります。でも無理なこととは思っていません」

「そう。ありがとう。絵里香」


「はい。あなたさまのお役に立てることが私の幸せなのです」

「ありがとう・・・」


「では、続けるね。子宮、卵巣とか卵管の絵は保健の授業でも見ているから、どんな形かは分るでしょう?」

「はい。この世界でも月夜見さまの作られた本でもう一度学習しましたので」

「では、自分の姿を鏡で見て自分の子宮を診てごらん。僕が隣に居て一緒に診るからね、内部が見えたら僕がパソコンの写真を見せながら部位の説明をするよ」

「はい。やってみます」


 二人で寝室の奥にある衣裳部屋の姿見の前に立った。

「では、鏡の中の自分の下腹部に集中してみて」

「はい。うわっ!み、見えました。お腹の中です。こんなに鮮明に見えるのですね!もっと気持ち悪いかと思いましたけど意外に平気です」


「絵里香、凄いな!で、では診て行こうか。これが子宮だね。診るポイントはちつから繋がるこの子宮の内壁に筋腫きんしゅというしこり。ポリープだね。それができていないかを診るんだ。絵里香の子宮はきれいな状態だね」

「これが健康な状態なのですね?」


「そうだよ。そこから奥に行って両側に卵管がある。こことここだね。このくだの内径が細過ぎたり閉じたりしていると卵子が排卵されなかったり、受精卵が子宮まで来られなくて不妊症になったりするんだ。場合によっては卵管妊娠。いわゆる子宮外妊娠と呼ばれることになる場合もあるんだよ」


「そうなのですね。それにしても卵管って細いのですね」

「うん。あれ?絵里香。排卵しているね!」

「え?このまぁるくて、ちっちゃいのが卵子なのですか?」


「そうだよ。この卵子の大きさ、色、形をよく覚えておいてね。今後、妊娠したい人には、この排卵が確認されたらなるべく早く性交する様に、と指導をするからね」

「はい。分りました」


「あ。と言うことは、今、絵里香は妊娠できるのだね」

「え?作りますか?」

「あ!いやいや、今ではないよ。今したらできてしまうな。と思っただけ。ごめん。口が滑った」

 絵里香は真っ赤な顔になって黙ってしまった。


「絵里香。ではその卵管の先に卵巣があるよ。うん。絵里香は何も問題がないね」

「はい。良かったです」

「絵里香、これからは自分で自分の排卵を確認して、基礎体温表に排卵日を記録しておいてくれるかな?そうすれば子を授かりたい時に排卵日がすぐに分かる様になるからね」

「はい。分りました」


「それで、ステラリアも毎月、診てもらっても良いかな?」

「はい。分りました」

「うん。頼むね絵里香。今日はもう疲れたでしょう?このくらいにしておいてまた今度、他の部分を見てみようか」

「はい。ありがとうございました」


 絵里香は本当に大丈夫なのだろうか?彼女の態度に何か違和感を覚えるな・・・

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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