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20.コーヒーブレイク

 それからしばらく夜の珈琲ブレイクが続いた。


 明日の夜はシャンプーとコンディショナーや化粧品、生理用品の説明をするので、また夕食後に集まってもらうことになった。


 その後、お母さんとベッドで話していた。

「月夜見。今夜は何故か目が冴えて眠れないのですけれど・・・」

「あ!そうか。お母さまは初めて珈琲を飲まれたのでアドレナリンが出て覚醒してしまったのですね」

「それは何のことですか?」

「すみません。初めに言うべきでした。珈琲を飲むと眠気が覚める効果があるのです」


「では、眠れないのですね・・・」

「そ、そうですね。いつもより眠れるまで時間が掛かるかも知れません」

「では責任を取って私とお話ししていてください」

「はい。お母さま。どんなお話でも・・・」


「月夜見は絵里香と出会ってから変わりましたね」

「やはり、そうなのでしょうか」

「えぇ、見違える様に元気になりましたし、あなたが泣いている姿をほとんど見ていません」

「あ。そう・・・かも知れませんね」


「私は、あなたをこれ程までに元気にしてくれた絵里香に感謝しています」

「そう言って頂けると僕も嬉しいです」

「それに絵里香はあなたを元気にしただけでなく、高い能力も持っていてこれからのあなたを支えてくれるのでしょうから」

「そうなのです。今日は瞬間移動までできてしまって本当に驚きました」


「きっと透視もできるのでしょうね」

「あ!そうか。絵里香なら日本人だから、学校で人体模型とか内臓の映像も観たことがあるはずだから、僕と同じ様な治療ができるかも知れないのだな」

「それは素晴らしいことね」

「はい。お母さま」


「それにしても眠くならないわ。どうしましょう」

 そう言ってお母さんが抱きついてきた。何か目が血走っているかも知れない。ちょっと身の危険を感じるのだけど・・・これはオリヴィア母さまと同じだ。どうしよう!


「お、お母さま。落ち着いてください」

「な、何かジッとしていられないのです!」

「だからと言って僕を襲わないでくださいよ」


「元はと言えばあなたが珈琲を飲ませたからでしょう!責任を取りなさい!」

「あぁ、親子でキスは駄目ですって!」

「どうして?小さい時は散々していたではありませんか!親子なのだから良いでしょう?」

「だ、駄目ですったら!」

 もう珈琲を夜に飲ませるのはやめよう。




 翌日、ニナも眠そうな顔をしていた。

「ニナ、昨日は中々寝付けなかったのではないかな?」

「はい。夜中まで眠れませんでした」

「うん。初めて飲むと余計に効いてしまうのだろうね。珈琲は夜に飲まない方が良いね」

「はい。そうします」


「ところで絵里香は?」

「絵里香は今日お休みで、まだ眠っています」

「あぁ、二人で遅くまで話していたのかな?」


「はい。眠れなかったので絵里香の能力の話を聞いていました」

「そう。それは申し訳なかったね」

「大丈夫です」


 朝食後にステラリアと瞬間移動で学校へ行った。

「シュンッ!」

「きゃーっ!月夜見さまよ!」


 最近、ようやく僕の顔を見て気絶する女生徒がいなくなってきて安心している。学校もほとんど農業畜産の授業のために行っている様なものだ。今は冬で農業の方はほとんどやることがないので畜産の授業ばかりだ。


 今日はフロックス先生が乳牛の飼育。酪農について説明してくれる。


 畜産については獣医になりたかったこともあり、中高校生の時に図書館で多くの本を読んでいたし日本から届いたパソコンの動画のジャンルにも農業畜産はあったのだ。


 特に酪農については悲しい側面もあり強く記憶に残っている。

「皆さん、今日は酪農について学びましょう。乳牛は雌牛めうしに子供を生ませて乳をしぼり、牛乳、生クリーム、バターやチーズの基になる生乳せいにゅうを作る仕事です」


「牛から乳を搾るには、まず雄牛おうしと交配させて子を産ませます。八か月程で子が生まれたらその後、乳が搾れるのです。その後は二か月身体を休ませ、また子を産ませます」


「先生!牛は何回子を産ませられるのですか?」

「はい。良い質問です。乳牛は大体、三回か四回出産ができます」

「その後はどうなるのですか?」

「殺して食肉となるのですよ」

「えーーーーっ!そんなの酷いです!」

「子を産ませ続けて乳を取り、産めなくなったら食べるのですか!酷過ぎます!」


「えぇ、酷いですね。それが人間です。では皆さんはもう、牛乳を飲まず、牛肉は食べなくて良いですか?」

「そ、それは・・・食べたいですけれど・・・」


「えぇ、酪農とはその様な仕事なのですよ。ですがここで飼育しているうちは、少しでも幸せに生きられる様にしてあげれば良いのではありませんか?」

「は、はい・・・では、私たちに何ができるのでしょうか?」


 中々、真に迫っている良い授業をするものだな。このフロックス先生は良い先生だと思う。

「先生、この学校の乳牛にはどの様な餌を与えているのですか?」

「月夜見さま。大変、良い質問をされました」


「当校の乳牛には牧草と青草を、冬場にはこれらを乾燥させたものを与えています」

「え?牧草と青草だけですか?」

「はい。そうですが、何か?」

「それでは栄養が偏っていますね。乳が沢山搾れていないのではありませんか?」


「多く搾れているかどうかは比べたことがないので分かりませんが、出産から七、八か月は乳が搾れていますよ?」

「ん?それしか搾れないのであれば、それは栄養不足ですよ」

「え?そうなのですか?」


「えぇ、そうです。牛にはとうもろこしや大麦などの穀物も与えるべきです。他にも米ぬかとか、油粕なんかも良いですよ」

「何故、その様なことをご存知なのですか?」


「それは私の前世の異世界の知識ですよ。今言ったものを与えてみてください。もっと乳の出が良くなるでしょう」

「かしこまりました。すぐにやってみます」


「それと、春になったらもっと外へ出した方が良いですね。ずっと牛舎に入れたままにしていては良くないです。この種類の牛は寒さに強いですから、冬でも天気の良い日は一時的に外へ出して牛舎の掃除をするのです。牛舎の中はできる限り清潔に保つことが大切ですよ」


「はい。かしこまりました」

「あとは皆が言っていた牛が可哀そうだという話ですが。牛に限らず、豚、羊、山羊、にわとり。畜産のために生まれて来た動物の運命は決まっているのですから皆、同じでしょう」


「その可哀そうな運命の彼らにむくいるためには、できる限り放牧をして歩きたい時に歩き、寝たい時に寝る、食べたい草をませる。そして栄養価の高い餌も食べさせ、畜舎を清潔に保つのです」


「そして生徒が皆で可愛がり、牛や豚たちの身体をブラシできれいにしてやるのですよ。そうすればせめてものことにはなるのではないでしょうか」


「神さま。分りました。私たちでこの動物たちが少しでも安らかに暮らせる様に致します」

「そうですね。私もお手伝いしますよ」

「え!月夜見さまが牛のお世話をするのですか?」


「皆さん、これは授業なのですよ。見ているだけでなく、自分で実際にやって大変さを知らなければ勉強したことになりませんよ?」

「私もやります!」

「ぼ、僕もやります!」


 ふと視線を感じて振り向くと、ステラリアが涙を流して立っていた。

「ステラリア。どうしたのですか?」

「だ、だって・・・月夜見さまのお慈悲が・・・あまりにも尊くて・・・」

「え?そ、そうなのかな?」


 それから牛をブラッシングして畜舎の掃除をした。今回は高位貴族の生徒も数人が手伝う様になっていた。良い傾向ではないかな。




 学校から戻り夕食の時間となった。

「月夜見。柚月さまをいつ連れて来てくれるんだ?」

「その件がありましたね。お母さま、ネモフィラでは冬に何か行事はないのでしたっけ?」

「そうですね。冬は雪に閉ざされますからね。特に行事はないのですよ」

「そうですよね。雪がね・・・あ!そうか。雪があるではないですか」


「雪ですか?何の行事でしょうか?」

「いえ、行事ではありません。柚月姉さまは生まれてから一度も月の都から出ていないのです。つまり雪を見たことがないのですよ。だから雪景色を見に来れば良いのです」

「あぁ、なるほど。それもそうですね」

「え?ではいつ連れて来てくれるのだ?」


「いや、いつ連れて来れば良いのでしょう?受け入れの準備などがあるのではありませんか?それとも日帰りで直ぐに帰して良いのですか?」

「ぬぬ!す、直ぐに帰しては駄目です。しばらくここで楽しんで頂かないと!」

「そうでしょう?では日程を決めて頂いて、受け入れの準備ができましたらお知らせ下さい」


「お母さま!私の衣装はどうしましょうか?」

「衣装など今あるもので良いでしょうに・・・」

「客間はどうするのですか?最高の部屋を用意しないと!」

「元より城の客間は最高級ですよ・・・」


「で、ではいつにしましょう!明日ですか?明日が良いでしょうか?」

「それでは柚月さまの支度する時間がないではありませんか!せめて一週間後くらいにしておきなさい」

「一週間!まだあと一週間も待つのですか・・・」

 フォルランがうなだれてしまった。そんなになのか。もう重症だな。


 食後に僕は月宮殿へと瞬間移動した。

「シュンッ!」


 まだ、食堂に皆が揃っていた。

「おぉ、月夜見か。どうしたのだ?」

「皆さん、こんばんは。柚月姉さまは居ますか?」

「はい。お兄さま」

「ちょっとご連絡に来ました。フォルランが一週間後に柚月姉さまをネモフィラ王城へ招待したいとのことです。受けられますか?」


「お、お母さま!わ、私・・・行っても良いのですか?」

「えぇ、招待されているのですからね。行って来なさい」

「で、でもお母さま!私、衣装が・・・月宮殿のものとダンスのドレスしか持っていません」

「では、お姉さま。明日僕とカンパニュラのグロリオサ服飾店へ参りましょう」

「え!お兄さま。本当ですか!」


「えぇ、一週間後なので、ドレスの新調は間に合わないかも知れませんが、できているものから選ぶことはできるでしょう。足りなければネモフィラの服飾店まで飛びますよ」

「ありがとうございます!お兄さま」

「月夜見さま。よろしいのですか?」


「メリナ母さま。お姉さまの一大事ですからね。お任せください」

「ありがとうございます」

「では、お姉さま、明日の午後にお迎えに参ります。今夜はこれで」

「シュンッ!」


「月夜見。お帰りなさい。柚月はどうでしたか?喜んだでしょう」

「それはもう。それで持って行く衣装がない。ということになりまして明日僕とグロリオサ服飾店へ行くことになりました」

「まぁ!あなたは本当に優しいのですね・・・」


「前世の僕には兄弟も居なかったので・・・放っておけないというか、何だか関わりたくなってしまうのです」

「そうなのですね。でもとても良いことだと思いますよ」


「ではこれから皆を集めて日本のものを紹介しましょうか」

「えぇ、ではニナは絵里香を、シエナはステラリアを呼んで来て頂戴」

「はい。かしこまりました」


 僕の部屋に皆が集まった。今夜は珈琲を出さないことにする。

「昨日、日本から色々なものを取り寄せたんだ。これから説明するけれど、これらのものはこの世界では流通させないつもりなんだ。衣装の様に同じものがこの世界で作れるならば良いのだけれど、これから見せるものはこの世界で作れそうにないんだ」


「だからここに居る六人だけで使うことにするよ。いいかい。このことはこの六人以外の誰にも話してはいけないよ」

「分かりました」


「では、まずはこれかな。これはシャンプーとコンディショナーというものだよ」

「こっちのシャンプーは髪の毛だけを洗う石鹸の様なものだ。液状だけどね。そして、シャンプーで汚れを落として一度お湯ですすいだ後に、このコンディショナーを塗って、またお湯ですすぐんだよ」


「そうすると髪がきれいになるのですか?」

「はい。髪の潤いが増して艶も出ます。そしてくしの通りが良くなるのです」

「絵里香。あなたも前世で使っていたのね?」

「はい。特にアルメリアさま、ステラリアさまには効果が大きいかと思われます」

「そうなの?それでは是非使ってみたいわね」


「では後程、絵里香にお母さまの髪を洗ってもらって、使い方を皆に覚えてもらうと良いのではないかな?」

「はい。私がお教えします」


「次に簡単なものから説明しよう。この生理用品だね。これが異世界の生理用品なんだよ。使い方は・・・絵里香お願い」

「はい。こちらの世界で新しく作られたものと使い方は同じです。ですが、もっと吸収が良くて、長い時間使えます。触れた感触も良いと思います」


「まぁ!こんなに薄いのですか!これでそんなに吸収できるのですか?凄いのですね」

「えぇ、次回の生理の時からお試しください。それと包み紙は必ずこのゴミ袋へ入れて保管してください。次回に日本とやり取りする時に日本へ送って処分してもらいますので」


「このツルツルした袋の様なものは初めて見ました。きれいな絵や字が沢山書いてあるのですね。何だか読めない字も書いてありますが・・・」

「使用済みのものに関しては今まで通りに捨てて頂いて構いませんので包み紙だけは忘れずにお願いしますね。特にシエナ。君は共同トイレで使うから持って行く時と帰る時にも他人に見られない様に工夫してくださいね」

「かしこまりました。注意いたします」


「では、あとは化粧品だね。これの説明は僕には難しいので絵里香にお願いするよ」

「はい。かしこまりました。こちらの化粧品について説明させて頂きます。これらの化粧品は主にふたつの使い道がございます。ひとつは肌をきれいに保つためのもので、もうひとつは女性を美しく見せるためのものです」


 あぁ、なるほど、化粧水や保湿剤やファンデーションは主に守るためか、アイシャドーやチーク、口紅なんかは美しく見せるためのものなんだな。こればかりは絵里香に頼むしかないな。


 その他にも日焼け止めやハンドクリーム。クレンジングソープなんかもあった。完璧な品揃えだよ。


 そこからは絵里香がひとりずつ時間を掛けて説明しながら化粧をしていった。皆、興味津々で夢中になって絵里香の説明を聞いていた。


 化粧が終わるとメイクの落とし方から始まり、シャンプーとコンディショナーの使い方へと移って行った。


 僕はやることもなく退屈だったのでひとり珈琲を淹れてのんびりした。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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