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19.花音の家族

 一週間後に山本からの手紙を引き寄せた。


 手紙には、まずは山本が電話で絵里香の両親に連絡を取ってみたと書かれていた。


 初めは信用されない様だったが、本人からの手紙があること、その筆跡や書いてある内容を見てもらえれば娘さんかどうか判るだろうと説得したところ、話を聞いてくれることになったそうだ。


 丁度、十日後に学会で東京へ行くので、その時に会って写真や動画も見てもらうとのことだ。


 また、お願いした品物も品数が多いので二週間くれと書かれていた。お金は余るくらいだそうだ。二週間後にもう一度手紙を引き寄せることになった。


 二週間後。手紙にはこう書いてあった。


 山本が絵里香の両親に会って絵里香からの手紙を読んでもらった。お母さんがすぐにこの筆跡は娘のものだと気付き、書いてある内容でお父さんも信じない訳にはいかなくなったそうだ。


 ご両親は泣いて喜んでくれ、手紙と写真を用意してくれることになった。写真や動画を見せると目を丸くして驚いていたそうだ。それらはコピーしたものを差し上げたと書かれていた。


 そして、ステラリアと絵里香と婚約したことと、その時の写真も撮ってあったので一緒に山本へ送ってあった。その返事としては羨まし過ぎる!と少々、キレ気味に書かれていた。


 山本は三十五歳で未だ結婚していないそうだ。品物は三日後の十九時に箱をこちらから送り、二十時に引き寄せることとなった。


 三日後。王城の中庭に、以前洋服を引き寄せた時の大きな木箱を引っ張り出していた。約束の時間十九時に大学病院の屋上へと転送した。


「シュンッ!」


「うわっ!消えましたよ!月夜見さま。これで日本へ空箱が飛んで行ったのですか?」

「そうだよ。絵里香も訓練を積めばできる様になるかも知れないよ」

「え!私にはそんな大それたことは無理でしょう・・・」


「でも月影姉さまは、絵里香のことを凄く褒めていたよ。絵里香は私よりも力が強いと思うって」

「え?本当ですか?月影さまに言われた通りにやっているだけだったのですが」

「うん。訓練を続ければ力は強くなって来るものだよ」

「なんだったら今ここで、空中浮遊でどこまで高く上がれるかやってごらんよ」

「え?ここは外ですよ。怖いです」


「それなら僕が一緒に飛ぶよ。落ちそうになったら受けとめるからさ」

「はい。それならばやってみます」


 絵里香はそう言うと、すぅっと浮き上がり、ふわふわと高度を上げて行った。僕はすぐ横を同じ速さで浮かんで行き、そのまま城よりも高い所まで登って来た。


「うん。上手だよ。そのまま城の塔の天辺てっぺんまで行こうか」

「はい」


 そして難なく塔の天辺てっぺんに到着した。僕はそこで絵里香を抱きしめた。


「よく怖がらずにできたね。本当に力が強くなっているね」

「月夜見さまがついていてくださったからです」

「あれ?これならかなり重い物も持ち上げられる様になっているのでは?」


「はい。水の桶とか重い洗濯物の入った箱とかも持ち上げて運んでいます」

「では、侍女の仕事では大助かりだね」

「はい。皆さんから重宝されています」


「なんだ。もうそんなに使いこなしていたんだね。それだったら瞬間移動もできるのではないかな」

「できるでしょうか?」


「ではさ。できなくても当たり前だからやるだけやってみようよ。さっき居たあの場所。見えるでしょう?」

「はい。見えます」

「あそこを見ながら自分はそこに立っている。って強く思ってごらん」

「はい」


「シュンッ!」

「あ!できちゃった!もう、地上に居るじゃないか!僕もすぐに追わないと!」

「シュンッ!」


「絵里香!できたね!」

「はい!私、できました!できてしまいました!」


「ではさ。僕の部屋へ瞬間移動してみてよ。部屋の景色を思い出して強く念じるんだ」

「はい。やってみます」

「シュンッ!」


「うわっ!消えた。行けたのかな?よし、追ってみよう」

「シュンッ!」


「まぁ!月夜見!驚くではないですか!絵里香が突然現れたのですよ!」

「絵里香!成功したね!」

「はい!月夜見さま」


「お母さま、絵里香は瞬間移動ができる様になりました。空中浮遊も城の塔の天辺まで登れたのですよ」

「まぁ!そんなに能力が高まっていたのですか。驚きましたね」

「えぇ、僕もですよ。本当に驚きました」


「あ!絵里香。そろそろ荷物を引き寄せる時間だ。さっきの中庭へ戻るよ」

「はい」

「シュンッ!」

「シュンッ!」

「まぁ!飛んで行ってしまったわ。とんでもない娘ね。絵里香は」


「さぁ!では荷物を引き寄せるよ」

 僕は全神経を集中させ重い箱をここへ引き寄せるイメージを高める。次の瞬間。

「シュンッ!」

「ゴトッ!」

 重量物がそこへ置かれる重い音が響いた。


「成功だ!絵里香。この中にシャンプーや化粧品など様々なものが入っているよ」

「月夜見さま。凄いです」

 早速、箱を開けると、ダンボール箱が沢山入っていた。そこから一種類ずつだけ僕の部屋へと送ってそれ以外のストック分は、月宮殿の僕とお母さんの部屋の衣装室へと送った。


 最後に空になった木箱を城の倉庫へと送る。

「シュンッ!」

「よし、仕分けは完了だ。絵里香。部屋へ戻ろうか。飛ぶよ」

「はい」

「シュンッ!」

「シュンッ!」


「月夜見。箱がいっぱい現れましたよ」

「えぇ、日本から取り寄せたのです」

「ええと、これはシャンプー、こっちはコンディショナー。それに化粧品に生理用品でしょ、あとは・・・あった、これだ。その他の箱」


 僕は大きめな「その他」とマジックペンで書かれたダンボール箱を開封する。するとそこには僕が頼んだ珈琲メーカーとコーヒーミル、それに珈琲豆。あと僕と絵里香の白衣が五枚ずつ。そして絵里香のご両親からの手紙だ。


「さぁ、これが絵里香の日本のご両親からの手紙だよ」

「まぁ!ありがとうございます」

「早速、読んで良いのですよ。ソファに座って」

「はい。ありがとうございます」

 絵里香はソファに座ると封筒を開いた。中には写真とSDカードも入っていた。


 写真を見た絵里香は静かに大粒の涙をこぼした。僕は隣に座って絵里香の肩を抱いた。


「お父さん、お母さん。こんなに老けてしまって・・・あれから十五年ですものね」


 一緒にその写真を見ると、お父さんは白髪が多かったが六十代前半なのか、まだ現役の感があった。お母さんは髪を茶色く染めていることもありまだ若々しい印象だ。


「お父さまはまだ現役なのかな?お母さまもまだ若々しいね」

「えぇ、でも私が生きていた時と比べたら、かなり年老いてしまいました・・・でも元気そうで良かったです」

「そうだね。手紙も読んでごらん」

「はい」


 僕は絵里香が手紙を読んでいる間にパソコンを起動した。SDカードの写真を観るためだ。


「う、うううっ・・・」

 絵里香が手紙を読んで泣いている。僕はパソコンをテーブルに置いて、再び絵里香を抱きしめた。


「何か悲しいことが書いてあったのかな?」

「いいえ、お父さんとお母さんは、いつも私のことばかり心配してくれて・・・今も、私のことが心配だって。でも私から今は幸せだって手紙で伝えたので、少しは安心してくれているみたいです」

「そう。親はいつまでも子の心配をするものなのでしょうね・・・」

 自分には分からないけれど・・・


「あと、私が既に転生して元気にしているなら、お墓参りどうしようって!困っている様です」

「あ!あぁ、そ、そうだよね。そんな話は聞いたことがないからなぁ・・・」

「そうですよね・・・」


「でもさ。これで人間の身体はただの身体であって記憶とか魂の器でしかないことが分かったよね。だからその抜け殻の遺骨やお墓にはもうその人は居ないんだ」


「僕が思うにお墓参りってさ、死んだ人のためではなくて、残された人の気持ちの整理のためなのではないかな?まぁ、それは転生できていたら、の話かも知れないけれどね」


「それであれば、私の両親は私のお墓参りはしなくて良いですね」

「そうだよ。だってこうやって手紙のやり取りができているのだからね。死んだのではなくて、外国に嫁に行ったみたいな感じでしょう?」


「あ!そうですね。なかなか行けない遠い外国に嫁に行ったと思ってもらえば良いのですね」

「そういうことだね。では、SDカードに入っているものを見てみようか」

「はい」


 僕はSDカードをパソコンに差し込みフォルダを開く。すると何枚かの写真とひとつの動画ファイルが収まっていた。


 写真から見ると一枚目は、プリントされていた両親の写真だ。二枚目は若い女の子の写真だった。スカートの短い可愛い服を着ている。髪は茶色く染めている様だ。


「あ!これ、私です。原宿のカフェでバイト中に撮った写真なんです」

「これが花音ちゃんか。可愛いね」

「え?本当ですか!」

「うん。絵里香も可愛いけど、花音ちゃんも可愛いよ」

「嬉しいです」


「ちょっと!母の前であまりイチャイチャしないで頂けますか?」

「あ!申し訳ございません!」

「ふふっ冗談よ」


 三枚目の写真は三十代後半くらいの女性と四十代くらいの男性、それに十歳くらいの女の子と六、七歳くらいの男の子だった。


「あ!これはお姉ちゃんです。三歳年上だったのです。結婚したみたいですね。子供も二人か。幸せそうです。良かった!」


 最後に動画ファイルだ。

「花音!元気ですか!お父さんですよ。お母さんですよ!はーい。お姉ちゃんだよー!花音、この人は私の旦那さま、竹村康夫たけむらやすおさん、娘のはな十歳とこっちが息子のりく七歳です。ふたりとも可愛いでしょう!」

 二人の子供が無理やり笑顔を作らされて手を振っている。今時だな。


「花音!ビックリしたよ!異世界に転生していたなんて!それも超超超イケメンの旦那さまをゲットして、しかも神さまですって?凄いね!花音も凄く綺麗ね。そちらの世界でとても幸せそう。家族みんな安心しました!」

「お姉ちゃん。相変わらず元気だな・・・」


「花音!こちらは皆、元気でやっているから、あなたはあなたの幸せだけを考えてね。あと、子供が生まれたら顔を見せて頂戴ね!お母さん、花音に料理を教えていなかったから心配だわ!」

「お母さん・・・」


「花音。もう生まれ変わっていたなんて驚いたよ。でもこっちでは早くってしまったから神さまが救ってくださったのだろうね。そちらで幸せにな。私たちのことは心配要らないよ」

「お父さん。何だか、小さく見えるな・・・」


 お父さんのコメントが動画の最後だった。絵里香は涙をこぼしながらも笑顔になっていた。僕は送られた三枚の写真をプリントして絵里香に渡した。


「絵里香。写真をプリントしたからね。部屋に飾ると良いよ」

「まぁ!プリントもできるのですね!ありがとうございます」


 それからシャンプーやコンディショナー、化粧品、生理用品を箱から出してテーブルの上に並べていった。


「絵里香。日本ではお化粧はよくしていたの?」

「家に閉じこもっていた時は興味なかったのですが、バイトをする様になってバイト先でできた友達から教わったのです。結構しっかりメイクしていました」

「それでその写真は可愛く写真映えしているのだね」

「そうですね。コギャルでしたから。アイドルとかのメイクも参考にしていたのです」


「あ!月夜見さまは化粧の濃い女性はお嫌いですか?」

「いや、時と場合によるのではないかな?舞踏会とか結婚式とかおおやけの場所では、しっかりメイクでも気にならないし、それで綺麗になるならば歓迎するよ」

「良かったです!ありがとうございます」

「ではさ、お母さまやステラリア。ニナ、シエナにもメイクを教えてあげてくれる?」

「はい。喜んで!」


 絵里香は化粧品を種類ごとに確認しながら五人分に仕分けしていった。

「この化粧品ってどれも天然由来成分にこだわった高級品ばかりです。私がリストに書いたものの数段上のものです」


「あぁ、それは僕のもうひとりの友人で病院の同僚の高島女史のチョイスだね。恐らくだけど、こちらの女性は化学物質を使った化粧品には慣れていないでしょう?きっと肌のことを考えてくれたのでしょうね。それにお金は十分に渡してあったからね」


「そう言えばそうでした。私、アルメリアさまやステラリアさまのお肌の敏感さなんて考えていませんでした!おふたりとも透き通る様に肌が白いのですものね・・・」

「うん。お母さまやステラリアの写真は前から日本へ送っていたからね。高島女史がそれを見て、この肌ならば。と思う化粧品を選んでくれたのだと思うよ。次の手紙でお礼を言っておくよ」

「はい。私からの感謝もお伝えくださいませ」


「それと絵里香、これ白衣。神宮で仕事をする時にこれを上に着ると良いよ」

「まぁ!お医者さまみたいではありませんか!」

「やっていることは医師そのものでしょう?」

「あ。そうですね。白衣なら下に何を着ていても大丈夫ですね」

「そうでしょう?」

「はい。ありがとうございます」


「ところで絵里香は日本では珈琲は好きだったかな?」

「はい。好きでした。夜中にゲームをする時とかよく飲んでいましたね。バイトの休憩中とか、カフェに行っても私は紅茶より珈琲派でした」

「うん。僕もそうなんだ。大学病院で研究に没頭する時なんか珈琲ばかり飲んでいてね。ちゃんと食べろ!とよく山本に叱られていたよ」


「もしかして珈琲を取り寄せたのですか?」

「うん。珈琲メーカーとミル、そして珈琲豆をね!」

「では珈琲が飲めるのですね!」

「そうだよ。では早速準備をするね。絵里香は水と牛乳、あと砂糖を持って来てくれるかな?」

「はい!すぐにご用意します!」


 まずはミルで豆を挽く。部屋中に珈琲の芳香ほうこうな香りが漂う。

「月夜見。その黒い豆は何ですか。焦げた様な匂いがしますが」

「お母さま。これは僕や絵里香が日本で飲んでいた珈琲というお茶の様なものです。お茶は茶の葉を煎じて飲みますよね?これは珈琲という植物の種を焙煎ばいせんして作るのです」

「良く分かりませんが美味しいのですか?」


「僕らには美味しいのですがこちらの世界の人には初めは美味しいとは思えないかも知れませんね。これは苦いのですよ。その苦味を美味しいと感じるものなのです」

「苦いのですか・・・あまり美味しそうではありませんね」


「まぁ、一口だけ飲んでみてください。初めから美味しいと感じるかも知れませんし、もし美味しく感じなくても慣れてくれば美味しく思えるかも知れませんよ」

「慣れる飲み物なのですか・・・」


「絵里香、ステラリアとニナたちを呼んでもらえますか?」

「はい。すぐに」


「とりあえず、四杯分を作ることにした。僕と絵里香は普通に一杯分で、他は一杯を半分だけにして飲んでみてもらうのだ」

 そこへ呼ばれた皆が入って来た。


「わぁ!何でしょう?この香りは・・・良い匂い!」

「良い香りですね!」

「本当!何か懐かしい感じが・・・」


 あれ?皆、意外にも好印象なんだな?ステラリアは懐かしいとまで言ったな・・・


「今日、日本から色々なものを取り寄せたんだ。これは僕の希望で取り寄せた珈琲という飲み物だよ。お茶の代わりとして飲むものなのだけど、お茶とはかなり違うから好みが別れるものなんだ。皆にも一度、試してもらおうと思ってね」


「初めはこのまま飲んでみて、苦くて飲めないと思ったら牛乳を入れると良いよ。あと甘いのが好きな人は砂糖を入れても良いんだ」


 皆、おっかなびっくりの表情で一口飲んだ。

「香りが良いですね。少し苦いですけど、私は美味しいと思います」

「そう、ステラリアは美味しいと感じるのだね」


「ちょっと苦いけれど、確かに慣れたら美味しいかも知れませんね」

「おや、お母さまもいけそうですね」


「うわっ!苦いです・・・」

「ニナ。牛乳と砂糖を入れてごらん」

「はい」


「私も牛乳と砂糖を入れてみます」

「シエナもか。まぁ、そうだよね」

 二人は牛乳と砂糖を入れた珈琲を再び飲んでみる。


「あ!これならば美味しいです!」

「牛乳を入れると苦味が減って甘くて美味しいです」

「そう、ニナとシエナは牛乳と砂糖入りが良い様だね」


「絵里香。どうだい?」

「はい。美味しいです。もう何年振りか覚えていないですけど。この世界で珈琲が飲めるなんて不思議です」

「そうだね。あぁ、美味しいな・・・とても落ち着くよ」


「月夜見。あなたがそうして幸せそうな顔をしているのを見られることはとても嬉しいわ」

「そうですね。今は・・・幸せです・・・」


 僕と絵里香は久しぶりの珈琲を楽しみ二杯目のドリップを始めた。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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