表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/329

17.絵里香の過去

 プラタナス王国の神宮から、ネモフィラの自分の部屋へ瞬間移動で戻った。


「シュンッ!」

「うわっ!」

「ただいま。お母さま。ニナ、絵里香」

「おかえりなさいませ!」


「月夜見。お帰りなさい。二人はどうでしたか?」

 僕はお母さんに湖月姉さまと佳月姉さまの話をした。


「まぁ!では湖月はルドベキア王国の宮司で王女になりそうなのですね。そして佳月もプラタナス王国でそうなるかも知れないと」

「そうですね。でも佳月姉さまの方は、アニカ姉さま次第なところもあるのではないですかね」


「でもアニカの父にも妻は三人いるのですから、きっとそういうものだと思っていますよ。それにアニカが佳月をあなたの姉と知って邪険にするなどあり得ませんよ」

「そうですか、どちらにしてもまだ一年くらいは先のことでしょうからね。そっとしておきましょうか」


「それよりも月夜見。明日ですね。絵里香の家に挨拶に行くのは」

「そうですね。絵里香。支度はできているよね」

「はい。皆さんに手伝って頂けることになっていますので」

「では、今日は早く眠っておこうね。美容のために」




 翌日、午前中の約束の時間に僕とお母さんと絵里香で船に乗り、絵里香の家へと瞬間移動した。

「シュンッ!」


 絵里香の家の玄関には絵里香の家族がお爺さんやお婆さんまで勢揃いしていた。

「月夜見さま。ようこそお出でくださいました」

「まぁ!絵里香!あなたは絵里香なのですか!見違えてしまいますね!」

「絵里香って、こんなに美しかったのか・・・」

「お父さま。絵里香に失礼ではありませんか!」

「あ、あぁ、すまん。つい・・・」


「お姉さま。凄いですね!お姫さまになったのですか!」

「絵里香。今日のお前は輝いているよ。本当に綺麗だよ」

「お爺さま、お婆さま、お父さま、お母さま、アントン。ありがとうございます」


「さぁ、中へお入りください」

「月夜見さま、こんな平民の家にお迎えしてよろしかったのでしょうか?私の家にしておけと申したのですが・・・」


「クルト殿、私は貴族とか身分などには一切気に留めておりません。今回も絵里香との婚約のご報告ですから、絵里香のご両親にご挨拶へ伺うことは当然だと思っております」

「左様でございますか。ありがとうございます」


「さて、早速ですが。譲治殿、ハンナさま。私は絵里香を妻に迎えたいと思っています。つきましては本日、婚約をさせて頂き、結婚は私が成人を迎えてからとさせて頂きたいのです。少々、お待たせすることになってしまうのですが、よろしいでしょうか?」


「勿体ないお言葉でございます。私ども平民にその様に丁寧にご挨拶を頂けるとは」

「絵里香はまだ成人したばかりです。あと四年なんてすぐですので、お気になさらないでください」

「そう言って頂けますと助かります。ありがとうございます」


「あの、月夜見さま。絵里香の衣装や宝石は全て月夜見さまからの贈りものなのですか?」

「はい。先日、この日のために買い揃えたものです」

「なんて素敵なドレスなのかしら。それに宝石のあの輝き。素晴らしいものなのでしょうね」


「お母さま。値段を聞いてはいけません。気絶してしまいますからね」

「まぁ!絵里香。気絶する程、お高いのですね・・・」

「えぇ、知らない方が良いと思います」


「それにしても月夜見さま。何故、絵里香なのですか?私の孫ではありますが、平民なのですよ」

「クルト殿。絵里香は私にとって特別な存在なのです。結婚とは決して身分とか容姿だけで決まるものではないのです」

「おぉ!神さま!なんというお慈悲を・・・うううっ」

 お婆さんには何か違う感じに見えている様だな。


「月夜見さま。これから絵里香の侍女としての仕事はどうなるのでしょうか?」

「はい。あと一年と少しで私は学校を卒業します。それまでは今のまま、侍女を務めて頂く予定です」

「そうですか。分りました」


「あぁ、そうだ。絵里香が仕事をしなくなると絵里香の給金がなくなってしまいますね。では支度金をお持ちしましょう」

「え!そんな。あ!私は今、それをお願いする様なことを言ってしまったのですか?」

「ハンナさま。決してその様なことはありませんよ。私が気を回したに過ぎません」


「本当に支度金などは不要なのです。ご用意なさらない様にお願いいたします」

「月夜見さま。私からもお願いいたします。お金なんて必要ないのですから」

「ハンナさま、絵里香。二人がそこまでおっしゃるならば・・・そうですね。何か記念になるものを考えておきますよ」

「はい。それでしたら構いません。ありがとうございます」


「では、今日はこの辺で失礼させて頂きます」

「この度はありがとうございました」


 僕らは船に乗り瞬間移動で城へと帰った。とりあえず、お爺さんやお婆さん達、伯父さん、伯母さん達、お姉さま達にフォルランへ絵里香を連れて挨拶に回った。


「月夜見。彼女が平民から連れて来たという侍女なのか。全く平民には見えないな。どこかの国の王女かと思ったぞ」

「お爺さま。それは誉め言葉と受けとめておきますね。ありがとうございます」


「若い娘ももらうのね。良かったわ」

「シレーノスお婆さま。女性は年齢だけではないのです」

「まぁ!でもそうね」


「月夜見。君のせいなのだね。フォルランがそわそわしているのは」

「あぁ、ステュアート伯父さま、私が既に二人も婚約者を作ってしまいましたからね。彼を焦らせてしまいましたかね」

「でも、二人とも美しい人ね。あなたに相応しいわ」

「オードリー伯母さま。ありがとうございます」


「月夜見。自分だけ二人も婚約を決めるなんてずるいぞ!柚月ゆつきさまをいつになったら連れて来てくれるんだ?」

「あぁ、フォルラン、ごめん!忘れている訳ではないんだよ。でも冬で行事もないし、僕も忙しかったんだ。落ち着いたら一度連れて来るからさ」

「頼むよ。楽しみにしているから」

「うん。分かった」


 一応、王宮騎士団にも顔を出した。

「あのぉ・・・」

「きゃーーーっ!」

「バタバタっ!」

「あーまただ」

 また、五、六人の女性騎士が気絶した。


「月夜見さま、あの方たちはどうされたのですか?」

「あ。い、いや。ねぇ?どうしたのかねぇ・・・」


「月夜見さま、絵里香。もう挨拶は済んだのですね」

「ステラリア。ただいま。挨拶は無事に済んだよ」

「絵里香。とても綺麗ね。良かったわ」

「ステラリアさま。ありがとうございます」


「月夜見さま。彼女が二人目の婚約者ですか?」

「騎士団長。そうです。今、婚約の挨拶をして来たところです。一応、皆さんにも顔を知っておいてもらおうと思いまして」

「おーい。皆、集合!」


「まぁ!月夜見さま。今日は黒いタキシードなのですね!」

「まぁ!彼女の髪の色に合わせたのですね!素敵!」

「彼女は?どちらの国のお姫さまなのですか?」


「あ。あー、その・・・彼女は絵里香。と言いまして・・・この国の平民で僕の侍女です」

「えーーーーっ!」

「バタバタっ!」

 あ!また何人か気絶した。


「ほ、本当でございますか?」

「へ、平民なのですか?とてもその様には見えないのですが・・・」

「平民が何故、神さまと結婚できるのですか?」

「と、いうことは。月夜見さまは身分には関係なく妻にされるのですね?」


「え?ま、まぁ、私は身分など気にはしませんが。でも絵里香は特別なのですよ」

「特別?まぁ、確かに特別美しい人だとは思いますが?」

「でも、平民なのですよね・・・」

 女性騎士たちの言葉が突き刺さって来る。全てに悪気があるわけではないだろうが・・・


 僕は念話で絵里香にその場で、ひとりで空中浮遊して見せてくれと頼んだ。

「仕方がないですね。では皆さんにはお見せしましょう。彼女はこの様に特別なのです」


 そう言って両手で絵里香を指し示す。すると絵里香はゆっくりと浮かび始め、一メートル位の高さで止まって浮かんだ。


「ね。特別でしょう?」

「えーーーーっ!」


「か、神さまと同じ能力が?め、女神さまだったのですか!」

「まぁ、そういうことですね。絵里香、もう降りて来て良いよ」

「はい」


「では、そういうことで。以後、よろしくお願いします」

 僕は絵里香にスッと近付くと、サッと抱きしめて瞬間移動した。

「シュンッ!」


「うわっ!ここは!」

「絵里香、ここが好きでしょう?」

「はい!」

 そこは月宮殿のお爺さんの屋敷の裏山の山頂だ。


「絵里香。さっきは君を見世物にする様なことになってしまって・・・ごめんね」

「いいえ。月夜見さまは、平民の私と婚約したことで私が皆さんの好奇の目にさらされることを避けようとしてくださったのですよね」

「うん。それはそうなのだけど。それ以前にあんなことになるということが想像できていなかったんだ。僕の配慮が足りなかったんだよ。本当に申し訳ない」


「月夜見さま!」

 絵里香が僕の首に腕を回してきつく抱きしめてきた。


「本当に。もういいのです。あなたさまが私を愛してくださるそのお気持ちが、溢れる程に伝わって来て私は嬉しいのです・・・」

「絵里香・・・君という人は・・・」


 僕は深く、深く絵里香を抱きしめた。そして、絵里香の顎に右手を添え軽く持ち上げ、唇を重ねた。


 すると絵里香が突然、腰砕けの様に力が抜けてしまった。僕は彼女を抱きしめて支えた。

「絵里香。どうしたの?大丈夫かい?」

「あ・・・わたし・・・ここは?あ!あなたは?誰?」

「絵里香?」

 なんだ?絵里香が真顔で聞いて来る。僕が分からないのか?


「きゃーーーっ!ここ何?山?」

「絵里香!」

「絵里香?誰?それ?あ!な、な、な、なに。あれ!月?どうして二つ?ここはどこなの?」

「君は絵里香ではないの?」

「絵里香?・・・あ!あぁ・・・」


 そして絵里香は気を失った。僕は力を使って持ち上げると、お姫さま抱っこをして自分の部屋へ瞬間移動した。


「シュンッ!」

「まぁ!月夜見!それに絵里香!どうしたのですか?」

「絵里香が突然、意識を失ったのです」

「何があったのですか?」


 絵里香をベッドに寝かせると、お母さんに城に戻ってからあったこと、そして山頂で起こったことをお母さんに伝えた。


「では気を失う直前に絵里香は別人になったというのですね」

「はい。あの場所も僕のことも、この世界のことも何も分からない様でした」

「そうですか。では目が覚めたらまだ混乱しているのかも知れないのですね」

「はい。これは目が離せませんね」


 小一時間程、絵里香は眠っていたがゆっくりと目を覚ました。

「月夜見さま。私は何故、ここで眠っているのですか?」

「覚えていないのかい?」

「確か、月の都の山へ飛んで。そこで・・・あ!」

 絵里香は真っ赤な顔になって両手で顔を覆っている。


「絵里香はその後、まるで別人になった様だったよ」

「はい。私。思い出したのです」


「私、月夜見さまとキスをした時、頭に眩しい光が走って、その後何も分からなくなりました。そして夢を見ていました。それは恐らく前世の夢です」

「前世?前世の記憶を思い出したのかい?」


「はい。私は日本人でした」

「え!絵里香も僕と同じ日本人だったの?」

「えぇ、東京で両親と姉と四人で暮らしていました。そして二十歳はたちになってすぐ、急性白血病で死んだのです」


「今までは前世の記憶はなかったのかい?」

「はい。一度も思い出しませんでした」

「では、今は僕みたいに前世の記憶がありながら、この世界の人生も分かっているのだね?」

「はい。夢の中で整理ができたのかも知れません。どちらもはっきりと分かります」


「絵里香。君は前世では何年何月生まれなの?」

「はい。1977年7月4日生まれです」

「え!本当に?僕は1977年9月7日生まれなんだよ」

「では、前世では同い年だったのですね!」


「そうだね。そして君が五年早く死に、この世界に五年早く転生したんだ」

「では、精神年齢では同じなのですね」

「うん。二人とも三十五歳だ」


「あ!月夜見さま。この世界でパソコンを持っていませんでしたか?」

「そうなんだ。僕の念動力で友達から取り寄せたんだよ」

「友達?どういうことですか?日本の人と連絡が取れるのですか?」


「うん。詳しくは分からないのだけど、地球とこの星は次元の違う同じか凄く近い場所に存在しているみたいなんだよ。だから僕の力で物を送ったり、引き寄せたりすることができているんだ」

「凄いことです!」


「え!では、私のお母さんに連絡が取れるのですか?」

「あぁ、それは住所や連絡先が分かるなら、手紙やデジカメで撮った写真や動画をSDカードに記録して送り合うことはできるよ」

「本当ですか!」


「それと・・・あ。ちょっと。お母さま。少しだけ席を外して頂いてもよろしいですか?」

「分かったわ。向こうに居ますよ」

「ありがとうございます」


「絵里香。前世の記憶が戻った今、もう一度聞くのだけど。僕と結婚してくれますか?」

「はい。勿論です。だって同じ日本人で同い年なんですよ。それにこんなイケメンと結婚しない訳がないではありませんか!」

「あぁ。君は本当に日本人なのだね・・・」


 僕たちは再び深く抱き合い。そして少しだけ躊躇ちゅうちょしながらキスをした。始めはチュッと唇に触れ、大丈夫なのを確認すると、深く抱きしめ合って唇を重ねた。


「あ!僕の日本での名前はね。碧井正道あおいまさみちっていうんだ」

「私は、山科花音やましなかのんです」

「カノン!良い名前だね」

「正道!まぁくんですね」

「あ。あぁ、そうなんだ。舞依にもそう呼ばれていたよ」

 僕はすがる様に絵里香に抱きついた。


 絵里香は僕の首に腕を回し深く抱きしめた。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ