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16.二人の姉の恋

 湖月こげつ姉さまを送って一週間後。佳月かげつ姉さまを送る日となった。


 まずは、ネモフィラから湖月姉さまの居る、ルドベキア王国の神宮へと瞬間移動した。

「お父さま、お姉さま」

「あ!お兄さま!」

「まだ、一週間ですので、慣れなくて大変でしょう」

「いいえ、まだ私が来たことが知られていないので、治療を受けたい人がそれ程来ていないのです」

「ここのお休みはどうされたのですか?」


「昨日、お休みしました。初めから週に一日はお休みと決めてしまいますから問題はありません」

「既にビデや公衆トイレもあるのですよね?」

「はい、事前に準備されていましたし、この国では平民に生理用品を無料配布しているのです」

「ほう。それは良い国ですね」


「月夜見さま。湖月は既に、ドミニク ルドベキア国王陛下から息子の嫁にどうかと打診されているのですよ」

「えぇ?もう?早いですね」

「どうやら、待ちわびていた様なのです。コリウス王子は十六歳なのだそうです」

「お姉さま。もうお会いしたのですか?」

「えぇ、一度ご挨拶しました」


「それで?第一印象は如何でしたか?」

「え?えぇ、素敵な方でした・・・」

「まぁまぁ!そんなことってあるのですね・・・」

「まだ、分かりませんわ!」


「それで、シルヴィア母さま。お相手からはその後何か?」

「昨日の休みに初めてお会いしたのです。そして先程、是非、お付き合いさせて欲しい。と連絡が入ったところなのです」


「お付き合いされるので?」

「お兄さま。どうしたら良いでしょうか?」

「それでは僕が一度、コリウス殿と面会して参りましょうか?」

「え?お兄さまが?でもお約束が・・・」


「相手にやましいことが無いならば、突然、訪問しても受け入れてくれるでしょう。少し探りを入れてみますよ」

「よろしいのですか?」

「湖月姉さまのためですからね」

「ありがとうございます」


 僕は神宮から繋がる通路を渡って王城へと向かう。王城の入り口には女性の騎士二人が警備として立っていた。


「こんにちは、月夜見です。湖月姉さまの件でドミニク国王とコリウス王子に面会したいのですが取り次いで頂けますか?」

「は、はい!すぐにお取次ぎいたします。応接室へご案内いたします」


 騎士のひとりは走って消えていった。もうひとりが応接室へ案内してくれる。王城内を歩いているとあちらでもこちらでも人が突然倒れる音がする。


 僕の姿を見て気絶するのはもう何かお約束の様だ。僕もいちいち気にしなくなってきた。


 応接室に案内されると使用人がお茶やお菓子、その他諸々を何故か一人ひとつずつ運んで来る。いつの間にか応接室には六名もの女性の使用人が壁沿いに並んでいる。


 あまりにも視線が突き刺さって落ち着かないので、彼女らに向かって軽く手を振り、必殺スマイルをお見舞いしてみた。

「バタバタっ!」


 うん。六名中四名を仕留めた。ふふっ。って、一体何をさせるのだ!この城の王って緩い人なのかも知れないな。


 遊んでいたらようやく、王の一家がやって来た。

「これはこれは!月夜見さまではございませんか。月光照國げっこうしょうこくの神宮での世界会議の後に、直接ご指導を賜ったあの日から六年も経っているのですね?」


「これ程までにお美しい神さまとなられているとは、いやはや驚きました。ん?そこに寝ている者たちは何だ?」

「も、申し訳ございません。神さまのあまりの美しさに卒倒してしまったのです。すぐに運び出しますので!」

「はぁ、まぁ、それは仕方がないというものだろう。あぁ、いかん。挨拶がまだだったではないか!」


「ルドベキア殿。私は貴族ではありませんので堅苦しい挨拶が苦手なのです。お名前とご家族の関係だけ教えて頂ければ結構ですので」

「さ、左様で御座いますか?では、私が国王のドミニク ルドベキアです。こちらから、第一王妃ナタリー、第二王妃ジュリー、第三王妃アリアとその息子で長男のコリウスでございます」

「皆さまお久しぶりです。月夜見です」


 そう言えば、この国へ直接指導に来た時に会っていたのだったな。あの時、既に第一王女と第二王女は嫁いでいて居なかった。


「第三王女と第四王女は嫁がれたのですか?」

「おぉ、覚えていらっしゃったのですね。はい、娘四人は皆、嫁いで行きましたわ」

「では、あとはコリウス殿の結婚だけなのですね」

「はい。今日はコリウスと湖月さまのことですかな?」


 僕は読心術モードを全開にして聞き耳を立てながら話す。

「はい。湖月お姉さまがこちらへ派遣されてすぐのことですので少し驚いたのですよ」

「それは無理もないことで御座います。我々も急ぎ過ぎだとは思ったのですが、天照さまがいらっしゃる時にお伝えした方が早いと思いまして・・・」


「そこまで急ぐ理由でもあるのでしょうか?」

「いえ、コリウスは六年前の月夜見さまからの直接指導の際、まだ十歳ではありましたが、王子として出席させ話を聞かせておったのです。それに二人の姉も熱心に勉強し、コリウスへ女性の扱いを教え込んでいました」


「それからコリウスは月夜見さまを尊敬する様になったのでございます。そして成人した後、結婚相手を決める段になりまして、月影さまが結婚されたとの話が聞かれたのでございます。それでこの国の神宮にも月夜見さまの姉上がいらっしゃるとのことで、待ち続けていたのでございます」


「あぁ、なるほど。そういうことですか。では、コリウス殿、あの直接指導や私が作った本でどんなことを学ばれましたか?」

「はい。一番大切なことは心から愛する女性と結婚することです。そしてその女性を大切にし、お互いの気持ちや体調に気を配り、正しい知識を持ってすれば子供を授かることも可能となるのだと思います」

 あぁ、コリウスは本心でそう思っているのだな。どこにも隠しごとが見当たらない。


「そうですか。コリウス殿はよく勉強されたのですね。そう言えば、ルドベキア王国では平民に生理用品を無料で配布しているとか。それはどうしてですか?」

「はい。それもコリウスの発案でございます。この国はまだ人口が少ないのです。これから人口を増やしていくためにも、こういった援助や知識は必要だと言うのです」


「それは素晴らしいことですね。それではコリウス殿。子供を増やす以外のことで何か考えていることはございますか?」

「はい。子供が増えるならば、その子供への教育が必要になると思います。これから数年を掛けまして、国の全土へ学校を作って参ります。また農作物や畜産業も発展させねばならないと考えています。他にも・・・」


 うん?真っ赤になったな・・・あ!何か考えているな?

『こ、これは言わない方が良いよな。湖月さまと子を沢山作って神宮を増やしたいなんて・・・』

 あぁ、そういうことか。まぁ言い難いよね。でも百点満点じゃないか。


「分かりました。そこまで考えていらっしゃるのですね。コリウス殿は立派な王になられますね」

「そ、そうでしょうか?」

「それで、昨日既にお会いになった様ですが湖月姉さまはお気に召しましたか?」

「それはもう!あんなにお美しく気品があり、知性に溢れたお方なのですから」

「コリウス殿。よく分かりました」


「ルドベキア殿。此度の縁では何か政治的な繋がりはあるのですか?」

「そうですね。これは本当に偶然なのですが、湖月さまの母上はこのルドベキア王国の南に接したグラジオラス王国の王女、シルヴィアさまでございます。元々、北と南の両国で交易は行われて参りましたが、これを機に特に農作物の輸出入をお互いに盛んにできればというところはございます」

「それはお互いに良いお話ですね」


「コリウス殿。皆さん。私としては今のお話を聞いていてコリウス殿と湖月姉さまが結婚されることについて異論はございません。あとは当人同士の気持ちだと思います」


「ただ、もしお二人が結婚されるならば、ひとつだけ確認しておきたいことがございます。湖月姉さまには神宮の仕事がございます。これを続けながらいずれは王妃となるのでしょうが、このふたつの仕事を両立させることは至難の業です」


「余程、周りの方が支援をくださらないと、いずれどこかに歪みが生じて来てしまいます。そのあたりは大丈夫でしょうか?」


「月夜見さまとしては、二人目の妻を迎えることに問題をお感じになりますか?」

「それは役割を分担させるという意味でしょうか?」

「はい。その通りです」


「それは問題ございませんよ。ただし、王妃の仕事をする妻が宮司であるお姉さまを卑下ひげして見る様な女性でなければのお話ですが」

「勿論、その様な女性を妻に迎えるなど私としてもあり得ません」


「それならば、良いのではないでしょうか」

「月夜見さま、コリウスは、もし湖月さまと結婚できるならば夫婦の部屋は城の神宮に一番近い場所に作ると申しておるのです。既に湖月さまを一番大切に考えていると思います」

「アリアさま。よく分かりました」


「それでは今日はこれで失礼させて頂きます」

「月夜見さま。ありがとうございました」

 王家の家族に神宮への通路まで見送りを受けた。月宮殿の大型船は既に神宮の庭に昇降機を下ろしていた。


 僕は皆が居る、神宮の応接室へ入った。

「お兄さま。随分と長くお話しされていたのですね」

「えぇ、彼らの心を読みながらどんな人間なのかを見極めて参りました」

「ほう。恐ろしいことをさらっと言うな」

「それで月夜見さま、彼らは如何だったのですか?」


「えぇ、裏表のない良い人間だと思いました。特にコリウス殿は大変よく勉強されていて、良い王になるのだろうと感じました」

「まぁ!本当ですか!」

「それに、既にお姉さまにメロメロでしたよ」

「まぁ!そんな!」

 お姉さまは両手を自分の頬に当てて真っ赤になっている。


「でも、大事なことはお姉さま自身がコリウス殿を本当に好きになれるかどうかですよ」

「そ、そうですね」

「それに、お姉さまはこの神宮の仕事もあるのです。コリウスはいずれ王妃の仕事は、別の妻を娶って任せるつもりでいる様でした。勿論、それはお姉さまの負担を考えてのことですけれどね。それにお姉さまと結婚できたら城の神宮に一番近いところに夫婦の部屋を作るそうですよ」


「まぁ!もうそこまで考えていらっしゃるのですか!」

「それくらい、お姉さまのことを想っていらっしゃるし、考えも回る人なのですよ」

「それならば、素晴らしいお相手ではありませんか」

「はい。ですから後は、お姉さまがお付き合いしながら見極められたら良いのだと思いますよ」


「うん。そうだな、湖月。まずは宮司の仕事もあるのだ。急いで決めなければならないことでもないのだから。相手をしっかりと見極めるのだ。その上でコリウスが良いと思ったならば結婚すれば良いだろう」

「はい。お父さま。お母さま」


「さて、では我々は帰ろうか」

「お兄さま。ありがとうございました」

「えぇ、お姉さま。幸せになってくださいね」

「はい!」


 お父さんとシルヴィア母さまと船に乗り瞬間移動で月宮殿に帰った。そして今度はジュリア母さまと佳月かげつ姉さまを船に乗せてプラタナス王国へ飛んだ。


 プラタナス王国の王子は、既にアニカ姉さまと婚約している。だから佳月姉さまとどうこうなることはないだろう。うん?でもさっきのパターンだと二人嫁にしても良いのか。


 ふん。では一応、そのティアレラという王子にも会っておこうかな。


「これは天照さま、月夜見さま、ジュリア エーデルワイスさま、佳月さま。ようこそプラタナス王国へお越しくださいました。佳月さまには神宮へ入って頂けるとのこと、誠にありがとうございます」

「さぁ、こちらへどうぞ」

 まずは城の応接室へと案内される。


「私はヘンリー プラタナス、こちらから第一王妃のヘレン。第二王妃のスカーレットとその息子、ティアレラでございます」

「天照 玄兎です。こちらはジュリア エーデルワイスとその娘の佳月、息子の月夜見です」


「佳月でございます。この度、この国の神宮へ宮司として派遣されることとなりました。以後、よろしくお願いいたします」

「はじめまして。月夜見です。ティアレラ殿、私の姉さまと婚約されたそうですね」

「月夜見さまのお姉さまでございますか?」

「アニカ姉さまですよ。私の従姉いとこなのです。アニカ姉さまの伯母は、佳月姉さまの母上の姉でもありますよ」

「えぇ、そうですわね」


 その時、佳月姉さまの心の声が聞こえて来た。

『あぁ、ティアレラさまって素敵な王子さまね。でももう婚約されてしまったのですね』

 おや、第一印象が良かったのだな・・・


「あれ?では私と佳月さまは、血の繋がりがあるのでしょうか?」

「ややこしいですよね。でもありませんね。縁はあるけれど他人です。嫁にしますか?」

「え?佳月さまを僕の嫁に?・・・でございますか?」

「お、お兄さま!突然、何を言い出すのですか!」

 また、佳月姉さまの心の声が聞こえて来た。


『まぁ!お兄さまったら!もっと言ってくれないかしら・・・』


「え?佳月さまをですか?でも私は先日婚約したばかりでして・・・」

 よし、ティアレラの心の声も聞いてみよう。


『うーん。佳月さまは美しいし、可愛いな。でも、じゃぁください。何て神さまに言えるわけがないよ・・・』

 ふむ。悪くはないのだな。


「ティアレラ殿。どの道、妻がひとりだけということでは済まされないでしょう。佳月姉さまもこの神宮へ派遣されたばかりで慣れないのです。歳も近いことですし、しばらくお姉さまを気にして差し上げては如何ですか?」

「はい。それでしたら私は隣に居るのですから、今後神宮へ足を運ばせて頂きます。月夜見さまの本を読んで神宮の仕事にも興味があったのです。佳月さまから学びたいと思います」


「えぇ、それで良いのです。神宮の仕事をよく学んで理解頂ければ、必ずや将来の王政に役立つことでしょう。そして子宝にも沢山恵まれることとなるのです。佳月姉さまのことは、そうしてお互いに知り合ううちに、気が合う様でしたらその先のことを考えれば良いのではないでしょうか?」


『まぁ!お兄さま!素晴らしいわ!本当に素敵なお兄さま!』

 やばい、お姉さまが今にも声に出して叫びそうな程、心の声が駄々洩れだ。


「ではお姉さま。今後ティアレラ殿に神宮の仕事やこの国の人々の病気の現状など、お教えして、これからに役立てて頂いてくださいね」

「お兄さま。分りました。ティアレラさま。よろしくお願いいたします」


 その後、今後の神宮の業務開始の流れや雑談などをしてから神宮へ移動した。


「月夜見。湖月に続いて佳月も王子と結婚させようと言うのか?」

「僕がさせようとしているのではありません。お互いの気持ちを知った上で、ちょっとだけお手伝いしただけですよ」

「まぁ!お兄さま、私とティアレラさまの心を読んだのですか?」


「読んだと言うよりも勝手に聞こえて来る程、お互いに気に入った。という気持ちが溢れ出ていたのですよ」

「え!ティアレラさまも私のことを?」

「えぇ、大変美しくて可愛いって!」

「まぁ!どうしましょう・・・お母さま!私!」


「これこれ、佳月。焦っては駄目です。ティアレラさまはアニカさまと婚約されたばかりなのです。結婚は来年でしょう。それが落ち着くまではその気になってはいけませんよ。まずは、宮司の仕事をしっかりとやってからのお話です。そうですね?月夜見さま?」

「えぇ、勿論です。でも最初が肝心ですから。今日の出会いはとても良かったのではないでしょうか。それにそういうことがあれば仕事にもやる気が出るというものでしょう」


「そうだな。来て早々に悪いことがあればつらいだけだが、そういう先への望みがあれば元気でいられるものだからな。良かったな。佳月」

「はい。お父さま。お兄さま、ありがとうございます!」


「それでは僕は一旦、ネモフィラへ戻ります。一週間後にお父さま達を迎えに参りますね」

「うん。頼むよ」

「月夜見さま。お願いいたします。それに佳月のこと、ありがとうございました」

「家族のことなのですから。当然ですよ」


 帰ったらアニカ姉さまに探りを入れておこうかな。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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