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15.ステラリアとの婚約

 僕は十一歳になった。身長も既にステラリアやお母さんを超えている。


 十一歳になるのを待って、求婚の書簡をステラリアと絵里香の実家へ送った。

その前にお母さん、ステラリアと絵里香を連れプルナス服飾工房へと行った。婚約の挨拶へ伺う時の衣装を用意するためだ。


「今日はご予約、ありがとうございます。また、月夜見さまがご婚約されるとのこと。おめでとうございます」

「ビアンカ、ありがとう。今日はこの三人のドレスと外出時のコートをお願いします」

「え?あ、あの・・・婚約されるのは・・・?」


「それは、ステラリアと絵里香です。でも付き添いで同行するお母さまも同じ様にドレスを新調するのです」

「は?!絵里香さまは侍女ではなかったのですか?」

「えぇ、今も侍女ですが。なにか?」

「あ、い、いえ、余計なことを・・・か、かしこまりました!」


 ビアンカは泡を食った顔で狼狽うろたえた。これまでのこの世界では神が平民の娘と結婚するなどあり得ないことだったのだろう。


「新作のドレスはありますか?」

「はい。異世界の本にあったデザインを取り入れたものが幾つかございます」

「それは是非、見せて頂きたいですね」

「はい。すぐにご用意いたします」


 そう言えば、日本のファッション雑誌を渡してあったのだ。相当に研究したのだろうな。どの様に仕上がっているのだろうか?


「さぁ、こちらで御座います。どうぞご覧ください」

 ビアンカは使用人に三つのドレスを持たせて現れた。

「まぁ!素敵ね。こんなに美しいドレスは初めて見ました」


「一着目は、プリンセスラインのドレスでございます。光沢のあるピンクのサテン生地でスカートの深いドレープが特徴です」

「二着目は、レースのフィッシュテールカットのドレスです。スカートの前は膝上まで上げております。この世界では見られないものです。色はネモフィラのブルーにしてございます」

「三着目は、マーメイドスタイルのドレスでございます。光沢を押さえた水色のサテン生地をレースで覆ってございます」


「どれも素晴らしいですね。でもこれ、もうどれを誰が着るか決まってしまいましたね」

「月夜見、どれを誰が着るのですか?」

「それはピンクがステラリア、ブルーが絵里香、マーメイドがお母さまです」

「はい。流石、月夜見さま。お目が高い!私もその通りだと思います」


「そうですよね。では、三人とも試着して来てください」

「は、はい。分りました」


 初めに出て来たのは絵里香だった。

「月夜見さま!これ、あ、足が見えてしまうのです!どうしましょう!」

「あぁ、こちらの世界ではまだ珍しいのかな?そういうものなんだよ。絵里香は若いし、そんなに足が綺麗なのだから見せる方が良いんだよ」


「そ、そうなのですか?月夜見さまはこれが良いと思われるのですね?」

「うん。とても素敵だよ」

「それならば構いません」


 次はステラリアだ。

「月夜見さま。これ肩が全部出ているのですが大丈夫なのでしょうか?」

「あれ?肩が出るデザインもまだ無かったのでしたっけ?」

「はい。見たことがございません」

「でも、ステラリアの美しさが際立っていると思う。とても素敵だよ」

「そ、そうですか?月夜見さまがそうおっしゃるのなら・・・」


 最後にお母さんだ。

「おぉ!お母さま!素晴らしい!」

「月夜見。そうね。これは気に入ったわ」

「お母さま、花嫁みたいです!」

「まぁ!月夜見がもらってくれるのね?」

「い、いや、それは・・・でも本当に素敵ですよ」


 そしてコートを三人分だ。ネモフィラの冬は寒い。まだ本番の寒さでないのが良かった。それでも日本から送られたものを参考にして作られた、しっかりとした厚手のコートを選んだ。


「では、これで決まりだね。ビアンカ。他にドレスではない異世界のデザインのものはできていますか?」

「はい。続々と作っております」

「今度、僕の侍女を連れて来ますよ」

「はい。お待ちしております」


 そうだ。ビアンカ。僕のタキシードはできているかな?

「はい。純白のタキシードでございますね。はい。小物も併せて用意できております」

「そう、間に合って良かった。ビアンカ。ありがとう」

 ビアンカに代金を支払って店を出た。


「次はコンティ靴店だね」

「デニス。お久しぶり。今日は三人に靴をお願いします」

「ようこそお出でくださいました。すぐにご用意いたします」


「絵里香。君はハイヒールの靴を数足買った方が良いね」

「はいひーる?でございますか?どんな靴なのでしょう?」

「デニス。ハイヒールをお願いします」

「はい。こちらでございます」


「まぁ!こんなにかかとが高いのですか?これで歩けるのですか?」

「絵里香。歩ける様に練習するのですよ」

「アルメリアさま。そうなのですね。分りました」


「お母さまは、どれにされるのですか?」

「そうね、月夜見が私より大きくなったから好きなデザインが選べるわ」

「え?僕との身長差なんて気にされていたのですか?」

「だって、つり合いが取れないでしょう?」

「いや、別に夫婦ではないので・・・」


「ステラリア。君も僕との身長差を気にしていたのかい?」

「いいえ、私はいざという時のために動き易さを考えて・・・」

「ステラリア。そういうところ。直さないとね」

「はい・・・」


「罰としてステラリアは最低三足選んでね」

「え?三足もですか?」

「身長差や動き易さではなく、美しさで決めたものをね」

「は、はい」


「絵里香も普段履くものも含めて三足は選んでください」

「そ、そんなに買って頂けるのですか!」

「三足と言わずに、欲しいだけ選んで良いですよ」

「ありがとうございます」


 結局、ひとり四足は購入した。次はデュモン宝石店だ。

「クレメント。お久しぶりです」

「月夜見さま!いらっしゃいませ。ようこそお越しくださいました」


「本日は婚約記念の品ですね」

「流石、クレメントですね。もう知っていましたか」

「勿論でございます。今回は少々、騒ぎにもなっております故」

「騒ぎに?あぁ、身分の問題でしょうね。私は一切気にしませんので」

「素晴らしいことだと思います」

 流石はクレメントだ。常に冷静。そして余計な詮索はしない。


「では、ステラリアのものから決めましょうか」

「あの、月夜見さま。前に頂いたもので十分なのですが・・・」

「ステラリア。またそんなこと言って!買ってもらえば良いのよ」

「アルメリアさま・・・」


「ステラリア。こういうものはね、何年か経ってからこのネックレスを見た時に、これは婚約の時にもらったものだったなって、想い出に残るところに意味があるんだよ」

「では前回の宝石はどんな記念になるのでしょう?」

「あれは、ステラリアがそれまで僕に尽くしてくれたことへのお礼だよ」

「あ。あんなに高価なものが。でございますか?」

「それが僕の気持ちだよ」

「あ、ありがとうございます・・・」


 ステラリアはまだ、人から大切にされることに慣れない様だ。


「では、ステラリアさま。婚約の品に相応しいものは、こちらのものでしょうか」

「まぁ!これ!何て美しいのでしょう!」

「そうだね。ルビーとダイヤが散りばめられていて美しいね。これならばステラリアの美しさに負けないのではないかな?」

「まぁ!月夜見さまったら・・・」


「では、絵里香はどれが良いかな?」

「月夜見さま。私、こんな高価なもの見たこともありません。どうしましょう?」

「絵里香がきれいだと思うものにすれば良いのさ」

「それでしたら、このきらきらしている石がきれいだと思うのですが」


「うん。ダイヤモンドか。そうだね。絵里香に似合っているのではないかな?」

 それは、中心に大きめのダイヤ、それに並んで左右に二つずつダイヤが並んでいるものだ。シンプルだけど、控えめな雰囲気が絵里香には合っていると思う。


「では、最後にお母さま。どれにしますか?」

「そうですね。この前はダイヤにしましたからサファイアにしましょうか」

「えぇ、お母さまの瞳の色に合っていて素敵ですね」


 その後、ネックレスに合わせるイヤリングや指輪も選んで買い物は終了した。

絵里香が値段を聞いて魂を抜かれていたけれど。




 ステラリアの実家へ挨拶に行く日となった。


 ステラリアの部屋には女性を磨き上げることに長けた侍女たちが集められた。髪も化粧もピンクのドレスも完璧に仕上がっている。僕も白いタキシードで決めた。お母さんも既に完璧に仕上がっている。


「では行って来るので。ニナ、シエナ、絵里香。留守番を頼むね」

「はい。行ってらっしゃいませ」


「ステラリアさま。素敵です!」

「アルメリアさまも花嫁の様です」

 部屋から城の玄関に出るまでに数人の使用人が僕の姿を見て気絶した。気絶しない人も全て動きを止めて目を見開いて固まっていた。


 ステラリアの実家、ノイマン侯爵家の王都の屋敷まで小型船で向かう。

操縦は誰かに任せようと言ったのだが、ステラリアは恥ずかしいのか自分で操縦すると譲らなかった。まぁ、すぐに着く距離だし帰りは瞬間移動できるから良しとした。


 玄関には屋敷の全ての人間が出迎えに出ていた。僕が先に船から降り立つと、侍女や使用人の女性が二、三人気絶して倒れた。


 そのあと、お母さんが降りるとざわつきが大きくなり、ステラリアが降りると、

「おぉーっ!ステラリアさま!」

「ステラリアさまーっ!素敵!」

 黄色い歓声が沸き立った。


「月夜見さま、アルメリアさま。本日は誠にありがとうございます。この様な家にお越し頂くなど・・・」

「ノイマン殿!私は貴族ではありません。その様な堅苦しい挨拶は不要です」

「い、いや、そ、そうですか・・・では、どうぞお入りください」


 応接室に通されお茶を出された。何か野次馬的な使用人が多く居る様な気がする。

「では、早速なのですが、ノイマン殿。この度、私はステラリアを妻に迎えたいと思っています。本日のところは婚約とさせて頂き、結婚は私が成人する四年後とさせて頂きたいのです。よろしいでしょうか?」


「ステラリアは侍従として、月夜見さまに差し上げたもので御座います。まさか嫁にして頂けるなど思いもよりませんでした。本当によろしいのでしょうか?」

「私はステラリアを愛しているのです。心から結婚したいと思っています」

「そ、その様な・・・わ、分かりました。何卒、娘をお願いいたします」


「おめでとう。ステラリア。良かったわね。今日のあなたは輝いているわ」

「お母さま。ありがとうございます」

「うわぁー!ステラリアさまー!おめでとうございます!」

「おめでとうございます!」


 ステラリアのお母さまは心から喜んでいるし使用人たちが皆、笑顔で祝福している。彼女は皆に好かれていたのだな。


「マーセルさま。その後お身体は如何ですか?」

「お陰さまで元気にしております」

「そうですか。そのまま座っていてください。少し、診てみましょう」

「ありがとうございます」

 僕は上から下まで一通り透視して検診をしたが問題はなかった。


「はい。問題はありません。大丈夫です」

「そうですか。ありがとうございました」

 その後、家族と雑談をして、ノイマン家を後にした。


 瞬間移動で城に戻るとお母さんに言われた。

「月夜見。今夜はステラリアの部屋で過ごしなさいな」

「え?ステラリアの部屋で?」

「今日、あなた達は婚約したのですよ。婚約者を放っておくのですか?」

「あ!そ、そうですね。ではそうさせて頂きます」


 僕とステラリアは帰ってから、そのままの衣装で挨拶に回った。まずは王であるお爺さんのところだ。

「お爺さま。先程、ノイマン家へ行ってステラリアとの婚約を伝えて参りました」

「うん。そうか。それはおめでとう。ステラリア、良かったな」

「陛下、わたくしには勿体もったいないお言葉です。ありがとうございます」


「月夜見。おめでとう。結婚はまだ先なのね」

「はい。シレーノスお婆さま。僕が成人してからです」

「そう言えば、ステラリアはアルメリアと同級だったわよね。早めに子が欲しいわね」

「ウィステリアお婆さま。四年後の成人の時、ステラリアはまだ三十一歳ですから大丈夫ですよ」

「まぁ!そうなの?」

 ステラリアが耳まで真っ赤にしている。


「さて、騎士団にも挨拶に行こうか」

「え!騎士団へ行くのですか?」

「そりゃぁ、ステラリアの職場なのですからね」

「え、えぇ、はい・・・」


 今の時間はまだ、訓練の時間なはずだ。騎士団の訓練場に二人で入った。

「皆さん!」

 皆が僕の声に反応して、一斉にこちらへ振り返った。


「きゃーーーっ!」

「バタバタっ!」

 四、五人の女性騎士が気絶した。


 気絶を耐えた者は、僕たちに向けて一斉に走り寄って来る。

「月夜見さま。ステラリア。今日は婚約を伝えに行ったのでしたね」

「はい。騎士団長。無事に婚約の報告を済ませて来ました」

「それは、おめでとうございます。ステラリアもおめでとう!」

「ステラリアさま!おめでとうございます!」

「おめでとうございます!」


「ステラリアさま。何て素敵な衣装なのでしょう!それにその宝石!まるで王女さまだわ!」

「あぁ!何て素敵なんでしょう!」

「月夜見さまも、ステラリアさまも!まるで夢の世界を見ている様だわ!」


「あ、あの・・・あそこに倒れている人たちは、あのままで良いのでしょうか?」

「あぁ、放っておいてください。起こしたところでお二人のお姿を見たら、また気絶しますから」

「そ、それで良いのでしょうか・・・」


「それで、ステラリア。婚約して騎士団の仕事はどうするのだ?」

「はい。あと一年はこのまま、月夜見さまの侍従をしながら、騎士団の仕事も続けます」

「その後はどうするのか決まっているということかな?」

「はい。月夜見さまとともに旅に出ます」

「旅に?どこへ?」

「世界中です」


「世界中???」

「えぇ、僕には探している人が居るのです」

「そうなのですか。誰をお探しなので?」

「僕の妻になる女性です」

「えーーーーっ!」

 騎士の女性たちが一斉に叫んだ。


「い、今、婚約して来たのに。ですか?」

「えぇ、近々もうひとりと婚約します。でもあとひとり居るのですよ」

「でも、どこに居るのか分からないのですね?」

「はい。だから探しに行くのです」

「そ、そうですか・・・」

 どうにも理解できないといった顔になった。まぁ、仕方がないな。




 その夜。僕はステラリアの部屋へ行った。

「ステラリア。いいかな?」

「まぁ!月夜見さま。どうされたのですか?」

「今日は婚約した日だし、一緒に寝ようかなと思って」

「え!そうなのですか?」


「ステラリアはもう、お風呂には入ったの?」

「いいえ。まだですが」

「では、一緒に入ろうか」

「え!お風呂にですか?恥ずかしいです・・・」

「駄目ですか・・・」

「い、いえ、駄目ではありません」


 ステラリアは僕に言われたことは全て受け入れてしまう。


「では、入ろうよ」

「はい」

 僕はステラリアの服を脱がせ、自分も脱ぐと一緒に湯船にかり、ステラリアを後ろから抱きしめた。


「ステラリア。随分と待たせてしまったね」

「いいえ。もう大丈夫です」

 僕はステラリアの背中を見て、背中や肩、肩から腕と触れていった。その筋肉はしなやかで柔らかかった。ステラリアは目を閉じて僕にされるがままとなっている。


「ステラリア」

「はい」

 ステラリアは目を開けて僕に振り返った。


「愛しているよ」

「あ、あぁ・・・」

 僕はステラリアの唇を奪った。少しずつ体勢を捻ってステラリアをこちらに向けると、もう一度深く抱きしめて、キスをした。


 どれだけ長く、キスをしていただろうか。それからステラリアを念動力で持ち上げタオルで包むと、お姫さま抱っこしてベッドへ運んだ。


 ベッドに入るとすぐにまた抱き合ってキスをした。

「あぁ、やっぱり僕はステラリアを本当に愛しているんだな・・・」

「どうしたのですか?」

「そうだね。ずっとこうして抱きしめてキスしたかったんだって気付いたんだよ」

「私もです・・・」


「でも、今夜はここまででも良いかな?」

「最後まではしないのですね」

「だって、ステラリアは基礎体温表をつけていないでしょう?」

「はい。自分に必要とは思っていませんでしたから・・・つけていません」

「では、妊娠させてしまうかも知れないからね。妊娠してしまったら一緒に旅に行けなくなってしまうからね」


「それなら明日から基礎体温表をつけます」

「え?そんなに僕としたいの?」

「そんな・・・いじわるです・・・」

「冗談だよ。ごめんね・・・」

「今夜はキスだけで我慢してね」


 そしてふたりは、最後まではしないまでも夜更けまでお互いの愛を確かめ合った。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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