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12.秘密の共有

 五年後の予知夢を見た絵里香はステラリアに相談することにした。


 廊下で偶然出会った様に装うため、いつもステラリアが来る時間に合わせ、トイレへ行くと言って廊下に出た。そこへ丁度、ステラリアが歩いて来たのだ。


「あ!ステラリアさま。丁度良かった。実はご相談したいことがあるのですが」

「今ですか?」

「いえ、今日のお仕事が終わってからで良いのです」

「では、私の部屋へ来てください」

「かしこまりました。ありがとうございます」




 その夜、絵里香はステラリアの部屋を訪ねた。

「ステラリアさま。よろしいでしょうか?」

「はい。どうぞ」

「夜に申し訳ございません」

「いいのよ。相談したいことって何かしら?」


「はい。実は五年後の夢を見たのです」

「え?未来予測の夢ですね。それは月夜見さまへご報告するべきでは?もうお話ししたのですか?」

「いいえ。月夜見さまにお話しするべきか迷っているのです」


「それはどうしてですか?」

「はい。その夢では五年後、ステラリアさまと私は月夜見さまの妻になっていました」

「えぇ!そ、それは・・・」

 ステラリアの顔は真っ赤になって絶句した。


「そして、私たちの他にも、もう一名の妻が居りました」

「それは誰なのですか?」

「私が見たことのないお方です。ただ、ステラリアさまと同じ瞳と髪の色をされていました」

「ミラ?いえ、彼女は結婚しましたね・・・」


 私はアルメリアさまも妻になっていることは伏せてしまいました。何か言ってはいけない様な気がしたのです。


「それで、私が月夜見さまの妻になっているという夢の話を月夜見さまにお話しするのは良くないと思うのです」

「それは、私のこともそうですね。それを伝えれば月夜見さまは私たちと結婚しない訳にいかなくなってしまいますものね」


「はい。そうなのです。でも月夜見さまは心を読むことができます。もし私が夢のことを隠していると知られたら、私は信じて頂けなくなってしまうのではと思うと怖いのです」

「夢は見たけれど、その内容は自分のことだからお話しできない。とだけ伝えるのはどうでしょう?月夜見さまはお優しいから聞いてはいけないことなのだと思えば心を読むことはないのでは?」


「あぁ、そうかも知れないですね。あ!でも、余計に心配されるのではないでしょうか?」

「そうですね。月夜見さまは本当にお優しいから何とかしてあげようとお考えになるのですよね」

「あぁ!どうすれば良いのでしょうか・・・」


「仕方がない。このまま黙っていましょう。そしてもし、夢はまだ見ないのか?と聞かれたら、まだ見ていない。とだけ言うのですよ」

「嘘をつくのですね・・・」

「・・・やはり嫌ですよね。それは私だって月夜見さまに嘘をつくのは嫌です。困りましたね」


「アルメリアさまにご相談することは難しいでしょうか?」

「あ!その手がありましたね。私はいつもアルメリアさまに助けて頂いているのです」




 その翌日、アルメリアさまに女性の悩みがあると言って、ステラリアさまの部屋にお越し頂きました。


「アルメリアさま。私の部屋にまでお越しくださってありがとうございます」

「あら、ステラリアだけではなかったの?絵里香もなの?」

「はい。申し訳ございません。実は私が見た予知夢のことでご相談差し上げたいのです」

「まぁ!夢を見たのですね?」


「はい。五年後、月夜見さまには三人の妻がいらっしゃいました。その内の二人がステラリアさまと私なのです。そして、アルメリアさまもご一緒に、この城でも月宮殿でもないお屋敷で暮らしていました」


「五年後って、月夜見は十五歳でもう妻が三人!それもここでも月宮殿でもない屋敷で、私も一緒だったのですね!なんて素敵なことでしょう!ステラリア、おめでとう!」

 アルメリアは乙女の様に喜んでいた。


「あ、ありがとうございます。と言って良いのでしょうか?」

 ステラリアは真っ赤な顔をして戸惑っている。


「あ。絵里香もおめでとう。そしてこんなに嬉しいことを教えてくれてありがとう」

「あ、い、いえ、とんでもございません。それよりアルメリアさま。私の様な平民が月夜見さまの妻になると聞いて、お気を悪くされないのでしょうか?」


「私は既に、月夜見には平民を妻にしても構わないと言ってあるのですよ。それにね、絵里香には強い能力があるのですから月夜見の妻に相応しいわ。これは運命ね」

「そ、そんな。よろしいのですか・・・」

 絵里香は全身の力が抜けてしまっていた。


「それで、もうひとりは?」

「それは私がお会いしたことのないお方です。ステラリアさまと同じ瞳と髪の色をされていましたが」

「ミラではないですよね。それにしても月夜見は本当にその瞳と髪の色の女性が好きなのね」


「それで、相談とはどういうことかしら?」

「アルメリアさま、私たちから五年後には自分たちが月夜見さまの妻になっていると言ったら月夜見さまはどう思われるでしょうか?」

「あぁ、そうね。あの人のことだから、それならば仕方がないと言って結婚するでしょうね」


「はい。その様な形で決めて欲しくはないのです。でも夢を見ていないと絵里香に嘘をつかせることもしたくないですし・・・」


「その通りですね。ではこうしませんか?私は今日、絵里香とステラリアから相談を受けたと、それは絵里香が見た五年後の夢の話なのだけど、女性の問題に関わることがあるから月夜見には話せない」


「だけど私が相談に乗っていて悪い様にはしないから心配しない様に、また、月夜見から二人に対して詮索しない様にと話すのよ。どうかしら。嘘ではないでしょう?」


「そうですね。嘘もついていないですし、詮索されなければ心を読まれることも避けられるでしょう」

「アルメリアさま。本当にありがとうございます!」

「いいえ、お礼を言うのはこちらの方よ。二人とも月夜見をよろしくお願いします」


「それと、これで私たち三人は秘密の共有者ですからね」

「はい。分りました」




 ベッドに入ってからお母さんと話していた。

「お母さま。今日のステラリアからの相談ってどんなことだったのですか?」

「気になるのですか?」

「それは気になりますよ・・・」


「嫁にしないのに?」

「あれ?何か突っかかりますね?」

「ふふっ、冗談よ」

「相談はね、絵里香も一緒だったの」


「絵里香も?何かあったのですか?」

「えぇ、絵里香が五年後の未来予測の夢を見たのですよ」

「え!僕は聞いていませんよ」

「そうです。月夜見には話しにくいことだったので私が相談を受けたのです」


「僕に話し難いことですか?」

「えぇ、女性の悩みに関わることなのです。男性には話せないのですよ」

「あぁ、ルイーザ姉さまの時みたいな。それで僕には言えずにお母さまへ」

「そうなのです。ですから絵里香やステラリアに詮索してはいけませんよ」

「はい。そういうことでしたら聞きません」


「二人のことは私に任せておいてください」

「そうですか。ではお母さま、よろしくお願いいたします」

「月夜見は良い男ね・・・」

 お母さんがやけにねちっこく抱きついて来る。


「お、お母さま・・・やけに密着していませんか?」

「だって、月夜見が可愛いんですもの」

「な、なんだか、オリヴィア母さまみたいですね」

「まぁ!彼女ったら、いつもこんなことを?」

「ま、まぁ・・・もっとかも知れませんが」


「あなた、まさか手を出していないでしょうね?」

「逆ですよ!」

「え?もう、奪われてしまったの?」

「いえいえ、そこまではされていませんよ」

「もう!あなた、オリヴィア姉さまが好きなの?」


「それは、好きですけど・・・」

「では私とどちらが好き?」

「それは勿論、お母さまですよ」

「まぁ!本当に可愛い子!」


 お母さんが僕の顔を自分の胸に押し付ける。やっていることはオリヴィア母さまと一緒なんだよな・・・でもどうして今日はこんなにベタベタして来るんだろう?




 絵里香の能力について検証を始める。


 僕の部屋で絵里香とソファに並んで座り、お母さんとステラリアの前で、まずは簡単な念動力を試す。それは僕が赤ん坊の時にやってみた切り花を浮かせて運ぶやつだ。


「お母さま、僕が初めて花瓶から薔薇の花を一輪浮かばせて、お母さまの手元まで念動力で運んだことを覚えていますか?」

「えぇ、勿論です。あの時は本当に驚きましたよ。だってまだ生まれて半年だったのですから」


「え?生まれて半年でもう能力を発揮されたのですか!」

「絵里香。能力の発動はね、頭の中でどれだけそのことを鮮明に思い浮かべられるかで決まるのだと思うんだ」


「いいかい。これからお手本を見せるよ。あそこに見える花瓶の中で、自分が決めた薔薇の花一輪を見つめて、それが宙に浮かび上がるのを頭の中に思い描くんだ」

 そう言うと一輪の薔薇の花が花瓶からすぅっと抜けて浮かび上がった。


「それができたらその花がそのまま宙を飛んでお母さまの手元に届く絵を思い浮かべてみて」

 すすすっと薔薇の花は宙を平行に飛んで行き、お母さまの胸の前で止まった。お母さまが両手で薔薇を受け取った。


「こんな感じだよ。今、見ていた光景を強く頭に思い浮かべて同じ様にやってごらん」

「はい。やってみます」

 絵里香はしばらく花瓶の薔薇を見つめていた。すると、すすっと一輪の薔薇が浮かび上がった。絵里香は両手を口に当て目を丸くして驚いている。


「で、できました!」

「うん。できたね。ではそのまま僕のところまで運んでくれるかな?」

「はい」


 すると結構な速さで、ささっと薔薇の花は飛んで来て僕の前を少し行き過ぎて止まった。絵里香は眉間みけんにしわを寄せ、難しい顔をして行き過ぎた薔薇を僕の前まで戻して止めた。


「素晴らしいよ!できたね!」

「はい!できました!」

「絵里香。凄いわね!」

「頑張ったわね!」

 絵里香は皆に褒められると笑顔になった。


 その後、ペン、ハンカチや本などで試した。重い物でなければ念動力が使える様だった。

「きっと、何度も繰り返しやっていくうちに重い物でも動かせる様になるよ」

「はい。毎日、訓練します」


 数日後、治癒能力の訓練を始めると絵里香は面白いことを言った。

「絵里香、治癒能力の訓練をするよ。能力で病気を治すのってどんな感じか分かるかな?」

「合っているのかは分かりませんが、お腹を壊したり生理になった時に自分でお腹に手を当てて、早く治らないかなと思っていたら直ぐに治ったりします。あとは頭痛とか」

「それ面白いね!自分で気付かぬうちに既に能力を使っていたということかな?それは誰かにやったことはあるの?」


「はい。お母さまの生理痛が酷い時にお腹に手を当ててくれと言われて、当てていると楽になったと言ってくれていました」

「あれ?ではお母さまは絵里香の能力に気付いていたのかな?」

「何となく楽になる気がするんだ。と言っていただけで治療するという程の感覚ではなかったと思います」


「ふむ。なるほどね」

「あ!ステラリア。今、生理中でしょう?治療してもらったらどうかな?」

「つ、月夜見さま!な、何故、私が今、生理中だと分かったのですか?」

 ステラリアは顔が真っ赤だ。いかん!デリカシーのない発言だった!


「あーごめんごめん!だって、トイレに行く間隔とか態度を見ていれば分かるでしょ」

「月夜見。普通は分かりませんよ!そんなことにまで気付く程、あなたがステラリアをいつも見ているからです」

 ステラリアは両手で顔を覆ってしまった。もう耳まで真っ赤だ。

「あー、そ、そういうこと・・・も、あるかも知れませんね・・・」


「う、うん。あー、では、その。ね。まぁ、練習だから。絵里香。ちょっとステラリアのお腹に手を当てて治癒能力を使ってみてくれるかな?」

「はい。分りました。いつも通りにやってみます」

 絵里香は右手をステラリアの下腹部に当てて目を閉じている。


 五分間くらいそうしていて目を開けると、

「如何でしょうか?」

「えぇ、痛みが楽になりました。絵里香、ありがとう」


「それより、ステラリア。生理の痛みが強いなんて聞いていませんでしたよ。言ってくれたら僕が治療したのに」

「そ、そんなことご相談できません!」

 ステラリアって本当に純な乙女だよな・・・


「月夜見さま。これが治癒能力だったのですか?」

「うん。そうだよ。では、今後は週に一日は神宮へ行って月影姉さまに教わるといいよ」

「そうね。週に一日は侍女が三人居るから、その日は絵里香には神宮へ行って訓練をしてもらいましょう」

「はい。かしこまりました」

 きっと絵里香は宮司と同じかそれ以上になると思う。


 またある日は空中浮遊を試した。

「絵里香、空中浮遊をしてみようか?」

「空中浮遊?空に浮かぶのですか?私にできるのでしょうか?」

「まぁ、試してみようよ。部屋の中なら安全だからね」

「はい。分りました。やってみます」


「では、僕の横に並んで僕の左手をとってくれるかな」

「はい。こうでしょうか」

「では、これから浮かんで行くからね。この浮かぶ時の感覚を身体で感じて覚えるんだよ」

「はい」


 そして手を繋いだ二人は少しずつ部屋の中で浮かんで行く。まずは五十センチメートル。そして天井の近くまで上がりゆっくりと降りる。


「どうかな?怖くはなかったかな?」

「はい。怖くはないです。何か身体が熱くなる様な感じはしましたが」

「そう。では今度はひとりでやってみて。僕がすぐ後ろに居るからね、何かあったら支えるから心配は要らないよ」

「はい。やってみます」


 絵里香は両腕を開いて肩の高さまで上げると軽く目を閉じた。すると少しずつ浮かびだし、本当にゆっくり、少しずつ浮かんでいって五十センチメートルくらいの高さで止まった。


 絵里香は目を開いて自分の足元を見て、自分が浮かんでいることを確認すると大きな笑顔になった。

「私、できました!」


「うん。できているよ。どうだろう、それより高くまであがれるかな?」

「ううん・・・と。これ以上は上がらないみたいです」

「分かった。では、ゆっくり降りて来て」

「はい」

 そしてゆっくりと静かに床に着地した。この能力も訓練を続ければもっとできる様になるかも知れないな。




 またある日、念話ができるならもしかして?と思い、小白たちの居るうまやへやって来た。

「絵里香。僕は動物と会話ができるのだけど、もしかしたら絵里香もできるのではないかと思うんだ」

「動物とお話しができたら嬉しいですね」

 うーん。既に絵里香が可愛い小動物みたいなのだが・・・


「では、これから小白と話すからね。絵里香も小白に集中してみて。もし小白の声が聞こえたら会話に入って来て良いからね」

「分かりました」


『小白。おはよう。この人は絵里香だよ』

『えりか?』

『まぁ、絵里香って言ったわ!』

『わ!絵里香。小白の声が聞こえるんだね?』

『はい!聞こえました。絵里香って小白が私の名前を言いました!』


『えりか にんげん?』

『えぇ、私は人間ですよ』

『おいしいもの くれる?』

『えぇ、今は持って来ていないけれど、今度持って来るわね』


『わかった はなす にんげん ふえた』

『小白。これから絵里香と仲良くしてやってね』

『えりか なかま』

『はい。私も仲間に入れてくださいね』

『わかった』


「絵里香、良かったね。小白が絵里香を仲間と認めてくれた様だ」

「はい。嬉しいです」

「では、これから朝の餌やりは一緒に来ようか」

「はい!楽しみです」

「では続いて馬たちと話してみようか」

「はい」


『ソニア。おはよう。元気かい?』

『げんき ごはん おいしい それだれ?』

『ソニア。こちらは絵里香だよ。話ができるんだ』

『ソニア。私、絵里香です。仲良くしてくださいね』

『えりか あるめりあ におい』

『あぁ、お母さまとよく一緒に居るからね』


『絵里香と仲良くしてくれるかな?』

『いいよ えりか はしる?』

『そうだね。今度ソニアに乗せてくれるかな?』

『いいよ』


「絵里香、良かったね、乗せてくれるって」

「でも、私、乗馬はしたことがございませんが」

「僕が教えるよ。それにね。馬と話しながら乗れるから操作はしなくても話して指示するだけだから簡単なんだよ」


「そうなのですね。でも侍女の私が主と一緒に乗馬するなんておかしいのではございませんか?」

「僕のお付なのですから、僕が乗馬する時も付いて来る。ということで良いのですよ」

「そうなのですね。分りました。楽しみです」


 それにしても驚いた。絵里香はかなり優秀な能力者だったのだな。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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