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11.予知夢

 絵里香は神と同じ能力を持っていた。僕としても動揺している。


 僕たちはお爺さんの屋敷を出ると船へと歩いた。僕はふと山を見上げると一度心を落ち着かせるために山頂へ行って景色を眺めようと思った。


「ステラリア、絵里香、あの山の山頂から見える景色が素晴らしいんだよ。行ってみないか?」

「はい。見てみたいです!」

「そうか、ではひとりずつ・・・ん?そうだ。二人同時には運べないものかな?」

 身体を半分くらいくっ付けていれば瞬間移動できるのだ。それなら両脇に抱えれば・・・


「あのさ、ちょっと試してみたいんだけど、今から僕が二人を両脇に抱えるから、二人は僕に抱きついてみてくれるかな?」

「はい。分りました。こうでしょうか?」

「絵里香、もっとしっかり抱きついてみてくれる?」

「あ、はい。では」


「うん。では、行くよ」

「シュンッ!」


「できた!できたね。三人で瞬間移動!やはり僕の身体が大きくなって来たからだね」

「はい。流石は月夜見さまです」

「この景色も凄いです!」

「そうでしょう。ここはさえぎるものがないから遠くまで見渡せるんだ」


「お爺さまからここのことを教えてもらってね。混乱している時や落ち着きたい時には、ここへ来て景色を眺めながら考えたら良いぞ。ってね」

「私が原因で月夜見さまを混乱させてしまったのですね・・・」

「絵里香は悪くないよ。混乱している訳でもないしね。これからどうしようか考えようと思って」


「私はどうしたら良いのでしょうか?」

「そうだな。今のところは僕と念話ができるだけだし、予知夢といっても絵里香が自分の未来を見るだけだから特に他人に影響を与えることはないよね」

「そうですか」


「絵里香と内緒話ができるくらいだよね」

「内緒話ですか?」

「まぁ!」

「あ!ステラリア。変な誤解はしないでね。今のところ絵里香と内緒で話すことなど何もないのですからね」

「あ、あの・・・ステラリアさまと月夜見さまって、どの様な?」

 僕の左側に居る絵里香が右側に居るステラリアと僕を交互に見る。


「わ、私は月夜見さまの侍従で、一生おそばに付き従う者です」

「それだけなのですか?」

「それだけ?他に何か?」

「あ!い、いえ、私が伺って良いことではありませんでした。失礼しました」

「もしかして絵里香。ステラリアの心が読めるのかい?」

「え?」

 ステラリアが真っ赤な顔になる。


「いえ、読める訳ではありませんが気持ちの様なものが分かったと言いましょうか」

「それはどんな?」

「え?私がそれを言って良いのでしょうか?」

「多分、大丈夫ですよ」


「月夜見さま!」

「だって僕とステラリアの仲でしょう?お互いに知らないことなどないではありませんか」

「そ、それはそうですが・・・」


「で?絵里香」

「はい。ステラリアさまは月夜見さまを愛していらっしゃる。と」

「ほらね。ステラリア。心が読めたのではないよ。女の勘だよ」

「女の勘。ですか?」


「そうだよ。絵里香。女性はそういう気持ちに敏感なんだよ。先程もお婆さまが、ステラリアは嫁ではないのか?って聞いたでしょう?」

「あ、はい。そうでしたね」


「お婆さまに僕やステラリアの気持ちを話したことはないんだ。でも分かってしまうのでしょう?それは女性ならではの勘だよ。でもそれも能力のひとつかも知れないけれどね」

「では、月夜見さまはステラリアさまのお気持ちはもう?」

「お互いの気持ちは確かめてあるよ」

「そ、そうなのですか。すみません。出過ぎたことをお聞きしてしまって」

「まぁ、そのうちに知れることだからね」


「では、絵里香。今後は勤務時間外にどんな能力が使えるのかを検証してみようか」

「分かりました。よろしくお願いいたします」


「それよりステラリア、絵里香。この景色を楽しもうよ」

「はい」

「あそこに見える大陸はカンパニュラ王国だよ。そこには黒髪の人が大勢居るんだよ」

「そうなのですね」


「そうそう、月宮殿に居るお母さまのひとりはそのカンパニュラ王国の第三王女なのだけど、黒い髪に茶色の瞳なんだよ」

「オリヴィアさまですね」

「あぁ、そうだ。お母さまたちにも絵里香を紹介しておこうか」


「では宮殿へ飛ぼう。また僕につかまってね」

「はい」

「では行くよ!」

「シュンッ!」


「あ!お兄さま!あ!また新しい女性を抱いて・・・」

湖月こげつ姉さま。また人聞きの悪いことを」

「えへ!ごめんなさい。妻の候補ですか?」

「違います。新しい侍女ですよ。皆さんに紹介したいのです。サロンに集まってもらえますか?」

「はーい」


 そう言えば、湖月姉さまと佳月かげつ姉さまはもう成人だな。またお送りしないとな。


「おぉ、月夜見か。よく来たな。それにステラリア殿も。おや、新しい女性だな」

「お父さま。新しく入った侍女で絵里香です」

「ん?いつも新しい侍女を紹介しに来ていたか?」

「いいえ、絵里香は特別なもので」


「何?とうとう侍女に手を出したのか」

「また、どうしてそう皆さん、人聞きの悪いことばかりおっしゃるのでしょうね」

「ふふ、冗談だよ。さぁ、サロンで聞こうか」


 お父さんとお母さま達、お姉さま達、弟達がサロンへ集まった。皆、興味津々で絵里香を見つめている。絵里香はその熱い視線に焼き殺されそうだ。


「お父さま、お母さま、お姉さま、それに弟達。お久しぶりです。今日は新しく僕のお付の侍女となった絵里香を紹介しに来ました」


 お父さまから順に絵里香へ紹介していき、最後に絵里香から自己紹介してもらう。

「皆さま、初めてお目に掛かります。絵里香 シュナイダーと申します。平民でございます」


「皆さん、実は絵里香には能力があることが分かったのです」

「えぇ!能力が?」

「神なのですか?」


「昨夜、絵里香とダンスを踊っていたら絵里香と自然に念話で会話していたのですよ」

「ダンス!侍女とですか?」

「何故、侍女とダンスを?」

 オリヴィア母さまが凄い勢いで突っ込んで来る。ステラリアがドン引きだ。


「あぁ、ダンスですか?今、僕は学校に通っていてダンスを習うのです。それで城でも練習でお母さまやステラリア、それに侍女とも踊っているのです」

「まぁ!ここではダンスなんてしたことがありませんのに!」


「今までは僕の背丈がダンスのできる高さではありませんでしたからね。オリヴィア母さま。今度、ここでもダンスをしましょう」

「まぁ!素晴らしいわ!月夜見さまと踊れるなんて!今から楽しみね!」


「それでダンスは分かったが、絵里香の能力とはどんなものなのかな?」

「はい、お父さま。先程、暁月ぎょうげつお爺さまとも念話で会話ができることを確認しました。それと未来予測ができる様です」

「未来予測!それはどんなものなのだ?」

「はい、今まででは五歳と十歳の時に、それぞれ五年後の自分の未来を夢で見て、それがそのまま現実となったそうです」

「それは凄いな。絵里香は今、何歳なのだ?」


「はい。十五歳になったばかりでございます」

「ではまた、五年後の未来が見られるのだな。それならそばに居る月夜見のことも見えるのではないか?」

「はい。五年前に自分が侍女になっている姿を見た時は、月夜見さまとアルメリアさまのお姿も見ましたので」


「それは面白いな。では、月夜見とアルメリアに関わることが分かったら教えてやってくれるかな」

「かしこまりました」

「ところで神の一家ではないあなたが何故、その様な能力をお持ちなのですか?」


「マリー母さま、それはまだ分からないのですが、絵里香の出身地の民族と神の一族は同じ民族だったのかも知れないのです。漢字の名前も持っているのですから」

「まぁ!そうなのですね。それでその国はどちらなのですか?」


「アスチルベ王国です。そしてアスチルベ王国の建国前からそこに住む先住民なのです。そしてその先住民は、大陸から来た人間に流行り病を持ち込まれて、ほとんどがその命を落としたそうです」

「では、絵里香はその一族の生き残りなのですね」

「えぇ、その様です」


「他には能力はあるのかな?」

「今、分かっているのはこの二つだけです。これから何ができるのかを確かめていきます」

「そうか。何か分かったらまた教えてくれるか」

「はい。連絡します」


「それより、月夜見。絵里香の顔は見たことがない顔立ちをしていますね」

「えぇ、絵里香はお父さま似の様なのですが、二人の顔は僕の前世の国の人たちと同じなのですよ。だから僕も前世では、この絵里香の様な瞳と髪の色をしていたのです」

「そうなのですか!でも髪に艶があって綺麗ですわね。黒い瞳も何か魅力的な感じね」


「ほら、絵里香。皆、君の瞳や髪が綺麗だって言ってくれるでしょう?」

「はい。ありがとうございます。嬉しいです」


「それで、月夜見さま。いつダンスをしに来て頂けるのですか?」

「そうですね。そろそろ湖月こげつ姉さまと佳月かげつ姉さまは成人なのではございませんか?その直前にダンスパーティーをしませんか?」

「まぁ!素敵!それが良いですわね」

「ところでそれはいつなのですか?」

「出発は一か月後ですね」


「湖月姉さまと佳月姉さま、ダンスは踊れるのですか?」

「いいえ、踊れません」

「え?それはいけませんね。今では各国の王城でお見合い舞踏会が開かれているのです。お姉さま達宮司は、結婚相手として注目されているのですよ?」


「そうね。では湖月と佳月はこれから一か月間、ダンスの特訓ですわね」

「はい。お母さま。頑張ります。ダンスのドレスも買ってくださいね」

「はいはい。分りましたよ」


「さて、では僕たちはこれで失礼しますね」

「あ、ちょっと、ステラリア。こちらへ」

「はい」

 む。ステラリアがオリヴィア母さまに連れて行かれたぞ。何だろう?


「ステラリア。私の部屋へ」

「はい」


「ステラリア、少し見ないうちに変わったわね。月夜見さまと何かあったのね?」

「え!あ、いえ、特には・・・その、ございませんが」

「隠しても分かりますよ。あなた達、寝たでしょう?」

「え!な、何故、それを・・・」

「ふっ・・・青いわね。そんなこと私が知っている訳ないでしょう・・・」

「あ!」


「そうなのね」

「あ、いえ、その一緒に寝はしましたが、その・・・」

「あぁ、手は出してもらえなかったのね。それならば私と同じね。それなら良いわ」

「え?えぇ?オリヴィアさま、月夜見さまと・・・その」


「えぇ、私はいつでも狙っているわ。でも月夜見さまって身が固くて」

「そ、そうなのですか・・・」

「では、どちらが先に手を付けてもらえるか勝負ですわね」

「え!勝負・・・なのですか?」


 ステラリアは何か元気がなくなって戻って来た。

「ステラリア。オリヴィア母さまに何か言われたのかい?」

「あ、いえ、大したことではございません」

「ステラリア。オリヴィア母さまはステラリアに嫉妬しているだけですよ。気にしてはいけません」

「はい、ありがとうございます」


「あ!お兄さま!遊んでください!」

「お兄さま、また飛ばせてください!」

「僕も飛びたーい!」

「よーし!分かったよ。ステラリア、絵里香、少しだけ待ってくれるかな?」

「はい。どうぞ、ごゆっくり」


 ステラリアと絵里香は庭園前のベンチに腰を下ろし、月夜見たちがたわむれるのを眺めた。


 僕はいつもの様に弟たちに超能力遊園地を提供する。七人の弟たちが喜びの悲鳴を上げる。

「うわ!凄い。あれも月夜見さまの能力なのですか!」

「えぇ、そうよ。これから先、絵里香は毎日の様に驚く光景を目にすることになるわ」

「月夜見さまのお力ってそんなに凄いのですか?」


「えぇ、瞬間移動や荷物を飛ばすことなんて当たり前。空を飛んだり、雨を降らしたり、嵐を遠ざけ、炎を出して氷を溶かすこともできるわ。そして人の命を救うの。私の母の命も救ってくださったわ」


「人の命を救えるのですか!」

「えぇ、月夜見さまのお姉さま達は各国の神宮で宮司になり、人々の命を救うのです」

「私にもできるでしょうか?」

「私には分かりませんが、できると良いですね」




 そしてネモフィラ王国へ戻った。

「お母さま、戻りました」

「お帰りなさい。絵里香はどうでしたか?」

「はい。暁月ぎょうげつお爺さまとも念話ができました。やはり能力はある様です。これから仕事が終わってから他にどんな能力があるかを調べてみます」


「そう。絵里香。急にこんなことになって驚いたでしょう。能力に関することは遠慮せずに月夜見に相談なさいね」

「はい。ありがとうございます」




 その夜、絵里香は夢を見た。


 そこは広い屋敷の一室だと思われた。お城と変わらぬ調度品や家具が見える。

広いサロンには月夜見さま、アルメリアさま、ステラリアさま、それに見たことがない女性が居る。でもステラリアさまと同じ瞳と髪の色をしている。


 三人は月夜見さまの妻だ。そして私も。何故、私を含めた四人ともが月夜見さまの妻だと思うのか根拠はないのだが、でもはっきりと分るのだ。


 え?アルメリアさまが月夜見さまの妻?どうして?だって母親よね?でも何故かそう思うのだから仕方がない。


 目が覚めると心臓の鼓動が早くなっていた。どうしよう?私が月夜見さまの妻になっているなんて本当なのだろうか?


 昨日、色々なことがあった。ステラリアさまが月夜見さまのことを愛していることも分かったし、月夜見さまも同じ気持ちなのだと感じた。


 そして私も月夜見さまに優しい言葉を掛けられ、瞬間移動やダンスで身体が触れ合う度にそんな気持ちが募っていってしまう。そしてそれが願望となり、そんな夢を見せたのではないか。だからこれは予知夢ではない。ただの夢かも知れない。


 だが五年の節目以外でこの様に鮮明な夢は見たことがないことも事実だ。昨日、月夜見さまのお父さまから月夜見さまに関係のある夢を見たら教えてやって欲しいと言われた。


 だけどこの夢のことは言えないだろう。だってそれは、こんな夢を見たから私と結婚してください。そう言っているのと同じになってしまうのだから。


 でも月夜見さまは心が読める。隠せないではないか。隠していたことが知られたら私は信じてもらえなくなってしまうかも知れない。どうしよう・・・


 そうだ!ステラリアさまに相談しよう。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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