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3.日本人の面影

 翌朝、僕とフォルラン、ロミー姉さまは揃って四年生の教室に居た。


「高位貴族四年生の担任教師、エリザベス ロジャーズで御座います。月夜見さま、フォルランさま。どうぞ、よろしくお願いいたします」

「ロジャーズ先生、よろしくお願いいたします」

「よろしく」


 フォルランって王子だから良いのだけど、結構挨拶がおざなりというか横柄なんだよな。オジサン、そういうとこちょっと気になっちゃうんだよな・・・


「皆さまは既に、月夜見さまと王子殿下へのご挨拶は済んでおりますね?」

「はい!」

「では、お二人から一言、お願いできますか?」


「フォルランです。言語と数学は、四年の分は卒業しています。その時間に農業畜産の授業を受けます。それと剣術は五年生の方で受けます。よろしく」

「月夜見です。言語と数学はフォルランと同じです。剣術は免除されています。それと皆さんが驚くので、先にお見せしておきます。ステラリア。ここに来てくれますか」

「はい」


「皆さん、僕は瞬間移動ができるので、通学はステラリアと共に瞬間移動でこの教室に現れますので明日から驚かない様にお願いします。一度、見せますから」

「では、飛びますね」


 僕は皆の前でステラリアを抱きしめる。その瞬間に黄色い叫び声が、

「きゃーーーっ!」

「シュンッ!」

 僕らは玄関へ飛び、すぐに戻った。


「わ!消えたわ!」

「今、抱き合っていたわよ!」

「え?あの二人って婚約しているの?」


「シュンッ!」

「きゃーーーっ!」

「はい。この様に突然、消えたり現れたりしますので今後は見慣れて行ってください」

 そして何人かの女生徒が気絶し、運び出されていた。


「月夜見さま!ステラリアさまと婚約されているのですか?」

「え?いいえ。ステラリアは侍従です」

「えーーーっ!」

 皆が一斉に叫ぶ。


「だって今、皆の前で抱き合っていたでは御座いませんか!」

「え?あ!あぁ、瞬間移動は僕だけの能力です。ああやって誰かを連れて瞬間移動するには、身体を密着させないと一緒に飛べないのですよ」


「私も一緒に飛んでください!」

「私も!」

「私も飛びたいです!」

「あー私も抱かれたーい!」

「私はステラリアさまがいいですぅー!」

「これこれ、皆さん!はしたないですよ!」

 ステラリアが耳まで真っ赤にしている。でも仕方がない。これは最早、通過儀礼だ。


「では、今日の一時限目は数学ですが月夜見さまとフォルランさまは農業畜産の授業ですので別の教室へ移動してください」

「はい」

 僕らは別の教室へ行く。その教室は二人だけだった。


「はじめまして、私は農業畜産を専門に教えています、ノエル フロックスと申します。どうぞよろしくお願いいたします」

「月夜見です。よろしくお願いいたします」

「フォルランです。よろしく」


「今日はまず、我がネモフィラ王国における農業と畜産のあらましからです」

 初めはやはり概要の説明からだった。でも、授業の最後に聞いたところ、半分位は併設している学校の農地と畜産施設での実習だそうだ。


 地球では高校生まで獣医になりたいと思っていたので畜産には興味があるのだ。この授業は楽しめそうだ。


 二時限目以降はロミー姉さまと四年生の授業を受けた。でも僕にとっては簡単過ぎるものだった。既に月宮殿の地下室の本やネモフィラ王城の図書室でこの国の歴史や法律、文化について十分に読んで知識を得ていたからだ。


 とは言え、この世界に生まれ変わり、折角やり直しているのだ。学校での生活も経験しておいた方が良いだろう。


 授業の合間には休憩時間がある。僕とフォルランの席は並んでいるが、休憩時間には毎回他の学年の女子までこの教室にやって来て僕らは囲まれる。


「月夜見さま、フォルランさまは伝統的な王族の衣装をお召しですが、月夜見さまのそのお召し物は初めて拝見しました。どちらのものなのでしょうか?」

 今日はシルクのYシャツに紺のスラックス、黒のブーツを履いている。


「あぁ、これはプルナス服飾工房で異世界の衣服を基にして作られたものですよ」

「とっても素敵ですわね!」

「ありがとうございます」


「フォルランさま、わたくし、来週、ロミーさまにお城でのお茶会に招待頂いておりますの。フォルランさまも同席して頂けませんか?」

「まぁ!お茶会ですって?私も呼んで頂きたいわ!」

「いや、残念ですが私には剣術の訓練がありますので、お茶会に出ている時間はないのです」

「あら、それは残念ですわ」


「月夜見さまは、お城でお茶会などはされないのでしょうか?」

「私は王族として城に居る訳ではありませんので・・・」

「そうですわよね。月夜見さまは神の一族ですものね」


「神の一族である月夜見さまが何故、ネモフィラ王国で暮らしていらっしゃるのですか?」

「それは月宮殿に居るだけでは世界のことが何も分からないからです」

「もしかして妻にする女性を探しにいらしているのではございませんか?」

「い、いや、それは・・・」


「ちょっと!皆さん、月夜見さまの個人的なことはあまり詮索されません様に願います」

「あ!ステラリアさま!」

「ステラリアさま!」

「ステラリアさま。素敵!」


 ステラリアがぴしゃりと言ってくれたお陰で、女の子たちが離れてくれた。

ふぅー、これが毎日続くのかな・・・結構、しんどいな。


 五時限目はまた農業畜産だ。今回は僕とフォルランだけではなく、皆一緒に農業実習だ。学校の農地へ移動すると今日は水田にて一年に一度の田植えイベントの授業だった。これは楽しそうだな。


 しかし始まってみたら一年生から五年生までの合同授業だったのだが、実際に水田に入って田植えを行うのは平民の生徒だけだった。


 高位貴族と下位貴族の生徒は水田の周りに散らばって平民の生徒が先生から指示されながら田植えをするのを見ているだけだった。僕はその光景にちょっとムッとした。


「フロックス先生!僕も田植えを体験したいです。入っても構いませんよね?」

「え?月夜見さまが水田に入られるのですか?おみ足が泥で汚れてしまいますが?」

「それが田植えではありませんか。こういうことは実際に体験してこそだと思うのですが?」

「さ、左様で御座いますか・・・」

 先生は明らかに戸惑い、きょろきょろと辺りを見回していた。


 僕は構わずスラックスを膝上までまくし上げ、靴を脱ぐと裸足でズブズブと水田へ入った。


 足に触れる水の冷たさと泥のぬるっとした感触が新鮮だった。稲の苗を左手に持ち平民の生徒たちと横並びになって習った通りに真っ直ぐに後ろに下がりながら、一定間隔で苗を植えていった。


 前世ではいつも病院の周辺で水田を見ていた。実際に田植えはしたことがなかったからとても楽しかった。


 最後の苗を植え付け、自分が植えた苗の列を見ながら腰を伸ばした時、僕と隣の女生徒の間を小さな緑色のカエルが、すいーっと泳いでいった。


 女生徒はそのカエルに驚き「きゃーっ!」と叫んで逃げようとしたが、泥に足を取られて倒れそうになった。僕は咄嗟に腕を伸ばして彼女を抱きとめた。


 すると水田の周囲でそれを見ていた貴族の女生徒たちが一斉に叫んだ。


「いやーーっ!」

「だめーーっ!」

「月夜見さまーーっ!」


 貴族の女生徒たちは僕が平民の娘を抱きとめたことに一斉にブーイングした。そして僕は抱きとめた女の子を間近に見て驚いた。


「え?君は・・・」

「あ!あなたさまは!・・・あ!すみません。ありがとうございます」

 彼女は自分が抱きとめられたことよりも僕の顔を見て驚いた様だ。


「あ!あぁ。良いのです。それよりも君は日本人なのかい?」


 その娘はどこからどう見ても日本人の顔だった。今の僕と背丈は同じくらい。少しウェーブの掛かったくせっけのある黒い髪に黒い瞳。あまり高くない鼻。でも肌は色白で瞳は二重で大きく可愛い娘だった。


「にほんじん?とはなんでしょう?」

「あ!そうか。日本人のはずはないよね。あなたの出身はどちらなのですか?」

「五年前まではアスチルベ王国に住んでいました」


 アスチルベ?あぁ、あの東の果ての島国か・・・そこに日本人の顔をした人たちが住んでいるのだろうか?


「アスチルベ王国?あなたにはご両親は居ますか?」

「はい。居ります」

「そうですか・・・あの、今度あなたのお家に行っても良いですか?」

「は?私の家に月夜見さまがいらっしゃるのですか?」


「えーーーーっ!」

「何故、その様な平民の娘にーっ!」

「そんな黒い髪の娘なんかにー!」

 貴族の女生徒たちのブーイングには一切、耳を貸さず話を続けた。


「あなたのお父さまも黒い髪と瞳なのですか?」

「はい。そうです。何故それをご存じなのですか?」

「お父さまのことは知りませんよ。でも、是非お父さまにお聞きしたいことがあるのです」

「そうですか。それは構いませんが・・・」


「あなたのお名前をお聞きしても?」

「はい。私は、エリカ シュナイダーと申します」

「シュナイダー?エリカは貴族なのですか?」

「いえ、お母さまはシュナイダー男爵家の三女ですが、お父さまはアスチルベ王国出身の平民ですので私は貴族では御座いません」


「あぁ、そうですか。お父さまはシュナイダー家の婿に入られたのですね」

「いえ、婿ではないのです。この国の国民になるため、姓を使わせて頂いているのです」

「なるほど。では、お父さまはアスチルベ王国の人だったのですね」

「はい。左様で御座います」


 ふむ。アスチルベ王国か。そう言えば結月姉さまの行った国だったな。これはエリカのお父さまに話を聞かねばならないな。


「是非、エリカのお父さまにお話をお聞かせ頂きたいのです。近々伺いますね」

「は、はい。どうぞ。お待ちしております」


 これは思わぬところで日本の文化と繋がりのありそうな人が見つかったぞ。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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