2.飛び級
初めての登校でいよいよ教室へ入る。
四年生の教室の前でロミー姉さまと別れ、僕とフォルランは廊下の一番奥にある一年生の教室へと歩いて行く。
その間、廊下の両側には高位貴族の生徒たちが全員並び、僕らが通る瞬間に頭を下げ貴族の挨拶をして行った。その流れる様な動きを見てこれって練習したのだろうか?とぼんやり考えていた。
それにしても女の子ばかりだ。五年生から一年生まで身長は僕と同じか小さい子ばかりだ。たまに大きな子もいるのだがそんなに多くはない。
男の子は女の子五人毎に一人か二人混じっている。五年生と四年生には僕より大きな子も居るがほとんどは小さい様だ。やはりこれでは目立ってしまうな。
高位貴族の付き添い人はその姿を見なかったので僕らへの挨拶が終わるまで教室の中で待機させられていた様だ。
そして僕らが一年生の教室に入ると、教室の後ろにはまるで地球の小学校の授業参観日の様に、付き添いの護衛または侍女がずらりと立ち並んでいた。
「月夜見さま、フォルランさま、ようこそ!当学校へ。私はこの高位貴族一年生の担任教師、ドロシー サリヴァンで御座います」
「月夜見です。サリヴァン先生、よろしくお願いいたします」
「フォルランです。よろしく」
「では、お二人のお席はこちらで御座います。お付の方は休憩時間以外教室の後ろに控えて頂ければと思います」
僕らの席は教壇のすぐ前だった。ステラリアたちは後ろの列に入り込んだ。サリヴァン先生は廊下に顔を出すと生徒を呼んだ。
「さあ、皆さん、教室にお入りください」
一年生の生徒たちが教室に入った。今日は学校の説明と生徒同士の挨拶だけだそうだ。
明日以降、授業が始まったら先生に申し出ることにより、それぞれの教科でいつでも進級試験が受けられるそうだ。試験に合格するとその授業は上の学年の教室で受けられる。
他にも昼時の食堂への移動の順番、救護室の利用など基本的な規則が説明された。
最後に生徒同士の挨拶なのだが、これも僕とフォルランが頂点で、その次となる公爵家の者から順に僕とフォルランへ挨拶せよとのことだった。
挨拶が済めば今日は終わりだとのことでサリヴァン先生は退室して行った。
すると、すぐに僕とフォルランの横にステラリアとゾーイが立ち、貴族の身分が上の者から順番に僕たちに挨拶していった。
挨拶の仕方は皆、様々だった。僕の顔をまじまじと見る者、恥ずかしそうに真っ赤な顔をする者、畏怖の念に駆られ震えながら挨拶する者、長々と話してステラリアに話を切られる者。それでもそうやって挨拶ができた者は良い方だった。
困ったのは僕の顔を見て気絶する女生徒がかなり居たのだ。恐らく五人にひとり位の割合だっただろうか、その度に挨拶は中断され、その女生徒のお付の者と周りの侍女が抱えて医務室へと運んで行った。
自分の顔を見るなり気絶されるのは初めてだし、それもこう次々に倒れられては、こちらとしてもどうして良いか分からない。
やっと挨拶が終わり帰ることとなった。ロミー姉さまが待っていてくれて一緒に小型船に乗って帰った。
「フォルラン。挨拶が多くて大変だったね」
「本当に!僕、誰も覚えていないよ。でも僕を見て気絶する娘は居なかったけどね」
「その方がいいでしょう!」
「お兄さまはそうなると思っていました。それにしてもフォルラン。あなたはゆくゆくはこの国の王になるのですからね。これくらいの挨拶で文句を言っていたら務まりませんよ!」
「はぁーい」
「フォルラン。国王って大変だね」
「月夜見がやってよ」
「丁重にお断りします」
そうして僕とフォルランの初登校は無事?に終了したのだった。
初登校の翌日、今日から授業が始まる。
ロミー姉さまとフォルランには先に船で学校へ行ってもらった。僕は小白やアルの面倒を見てからになるので、ステラリアと時間ギリギリに教室へと瞬間移動した。
「シュンッ!」
「きゃーっ!」
生徒だけでなく護衛やお付の侍女たちも一斉に悲鳴を上げた。
「あ!皆、おはよう!」
初めて見たら驚くだろうな。だって、もうそれ程背丈が変わらないステラリアと抱き合った状態でいきなり教室に現れるのだからね。
「お、おはようございます」
「皆さん今後、僕はこうして瞬間移動で通学します。突然現れたり消えたりしますが、見慣れて頂ければと思います。よろしくお願いします」
「月夜見さま。瞬間移動ではどこまで行けるのですか?」
すぐ隣に座る女の子が聞いて来た。
「一度行ったことがある場所であれば世界中どこへでも飛べますよ」
「世界中どこへでも!どちらの国へ行かれたことがあるのですか?」
「この世界の全ての国へ一度は行きましたよ」
「えぇっ!では、世界中のどの国へも一瞬で飛んで行けるのですか?」
「はい。そうです」
「凄いです。月夜見さま!」
その子は両手を胸の前に組んで目をキラキラさせている。うーん。こういう反応にも慣れて行かないとな。
そんな雑談をしているとサリヴァン先生が入って来た。
「皆さん。おはようございます」
「おはようございます!」
「では、一年生の初めの授業です。一時限目は言語、二時限目は数学、三時限目は歴史、昼食後は、四時限目が法律、五時限目が剣術です」
一日目位は黙って聞いてみようと言語、数学、歴史はそのまま授業を受けてみた。
結果としてレベルが低過ぎてお話にならない。
昼食の時間になった。食堂へ行くとロミー姉さまが手招きして待ち構えていた。
「ロミー姉さま、この席は?」
「ここは王家の者専用の席です。従者の席も用意されているのですよ」
「あぁ、良かった。僕たちだけでお話ししたかったのです」
「お兄さま、どうされたのですか?」
「いえ、授業の内容が簡単過ぎるのです。どうしようかと思って」
「僕にも簡単過ぎますね」
「フォルランもそう思いますよね?」
「それは仕方がありません。王家では早くから教育を受けていますから」
「でも姉さまは、早く進級していませんよね?」
「フォルラン。男と女は違うのです。男は早く進級して、さっさとやりたい道に進む人が多いのですが、女は旦那さまの候補を見つけることの方が重要なのですよ」
「では、女性は早く進級や卒業する方はあまり居ないのですか?」
「えぇ、ほとんど居ません。なるべく長く学校に居て、新しく入って来る下級生の男性も見定めるのです」
「学校って、そういう場所だったのですね・・・」
これも男性が少ないことの弊害か・・・かなり歪んでいるな。
「では、フォルラン。どんどん進級試験を受けてみましょうか?」
「うん。それがいいかな。この時間があるなら剣術の訓練をしたいな」
「どの教科の進級試験を受けますか?」
「そうだな、言語、数学、歴史、法律、習慣と文化は受けられるかな。でも農業畜産は勉強していないから厳しいかな。あとは剣術をどうするかだね」
「その通りだね。僕も農業畜産は未経験だから分からないな。あと剣術は初めから卒業にしてもらいたいと思っているよ」
「そうだね。月夜見には剣聖のステラリアも勝てないのだから授業を受けてもね」
「では、昼食が終わったらサリヴァン先生に聞いてみようか」
昼食は城で食べるものと遜色のないものだった。学校だというのに流石は貴族社会だ。昼食後の昼休みにフォルランとステラリアたち従者と一緒に職員室へ向かった。
「サリヴァン先生。授業を受けてみたのですが、進級試験を受けた方が良いと思うのです」
「まぁ、流石は王家の方々で御座いますね。では、どの科目をお受けになりますか?」
「農業畜産以外の科目を全て受けてみます。それと僕は剣術を免除頂きたいのですが」
「まぁ!男性で剣術を免除するので御座いますか?」
「ステラリア、助言をもらえるかな?」
「先生。月夜見さまは幼少の頃から王宮騎士団の訓練に参加し、近年では私の指導を受けておりました。既に私が月夜見さまに勝てなくなっているのです。ですから、ここで習うことはないかと」
「まぁ!剣聖のステラリアさまよりもお強いので御座いますか!それでは免除にしないと、教師が怪我をしてしまいますね。かしこまりました。月夜見さまは免除とさせて頂きます」
「それと、フォルランさまも既に五年生と同等かそれ以上の腕前ですので、五年生の訓練から始めてください」
「かしこまりました。フォルランさまは剣術の授業を五年生と一緒に始めましょう」
「ステラリア。ありがとう」
「いいえ、月夜見さま」
「では月夜見さまは剣術の時間に、フォルランさまは今日の授業終了後に進級試験を受けて頂いてもよろしいでしょうか?」
「はい。お願い致します」
「よろしく」
昼休み後の四時限目に法律の授業を受けてみたが、既に城で勉強した内容の初歩の初歩だった。僕は剣術の授業を免除されて五時限目に進級試験を受けた。
二年生の問題を見て、余りにも簡単だったので三年生の卒業問題を見せてもらった。とりあえず、これを合格してロミー姉さまと同じ四年生になった方が良いかなと考えた。
そして、それも簡単だったが、フォルランのレベルが分からなかったので、それでいいやと思って四年生への進級試験を受けた。
結果は満点で全部合格となり、明日からはロミー姉さまと同じ教室へ行くことになった。
僕の試験結果をフォルランに伝え、できれば同じ様に四年生スタートにしようと誘った。
「よし、分かった。僕も四年生への進級試験を受けるよ!」
結果、フォルランも全科目合格した。
こうなると農業畜産だけ一年生から受けないといけないのでちょっと考えた。授業内容を聞くと、かなり実技が多いらしいのだ。それでは進級試験だけ合格すれば良い訳ではないらしい。
そこで、フォルランと話して言語と数学だけは五年生への進級試験を受け、合格したら四年生の言語と数学の時間に僕とフォルランに農業畜産の授業を受けさせてもらうことになった。そしてあっさりと合格した。
ちょっと詰込み気味ではあるが、これにより二年で学校を卒業できる見込みが出来た。
お読みいただきまして、ありがとうございました!