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30.地球の夏服

 ミラたちが帰り応接室にはお母さん、ステラリアと侍女三人が残っていた。


 ふとステラリアへ目をやると彼女は何か思い詰めている様な表情をしていた。


「ステラリア。ベロニカのためになったかな?」

「勿論です。わ、わたし・・・」

 ステラリアのルビーの様な瞳から涙がこぼれ落ちた。


「何故、ステラリアが泣くんだい?」

 ハンカチを出し、その涙をぬぐった。

「嬉しいのです。あなたさまはどうしてそんなにも・・・愛に溢れていらっしゃるのですか」

 僕はステラリアの首に腕を回し、優しく抱きしめた。


 お母さんがそんな僕らの隣に寄り添って言った。

「月夜見。とても良かったわ。三人にとって良い思い出とお祝いになったと思うわ」

「それならば良かったのですが」


 新しい二人の侍女、レイラとシエナは胸の前に手を組んで涙を流し、壁の前に立ったまま動けなくなっていた。


 ニナが涙を流しながらひとりでお茶の器を片付け始めていた。




 数日後、早番で仕事が終わったリアがすぐに帰らずにもじもじしていた。


「リア。どうしたの?今日の仕事は終わりで良いのですよ」

「アルメリアさま。図々しいお願いなのですが・・・」

「どうしたの?何か相談事かしら?」

「あ、あの。月夜見さまにお聞きしたいことが・・・」


「え?僕に?何かな?」

「では、リア。そこにお座りなさいな」

「はい。ありがとうございます」


 リアをソファに座らせ、僕とお母さんが対面に座って話を聞くことになった。壁際には、ニナ、ミラ、レイラ、シエナが立っている。


「あれ?レイラももう終わりで良いのだけど?」

「あ、その。お話を一緒にお聞きしたいのです」

「実はレイラと話していて、それは月夜見さまにご相談された方が良いと言われまして」

「あぁ、レイラが助言したのだね。では皆が聞いていても良い話なのかな?」

「はい。構いません。皆にも当てはまるかも知れませんので」


「分かったよ。どんなことかな?」

「はい。先日、月夜見さまから両親にお話を頂いた時、十代では生理が定期的に来ない場合があるとお話しされたと思います。実は私の生理がそうなのです。このままでは子が授からないのではと思い不安なのです」


「リアは基礎体温表をつけているよね?今、持っているかい?」

「はい。こちらに御座います」

「どれどれ?ふむ。そうだね。安定はしていないね。では診察してみようか」

「診察?どこを見るのでしょうか?」

「卵巣や子宮だよ。透視して状態を見てみるよ。座っていていいよ。あ、少しだけ足を開いてくれるかな」

「は、はい」


 まずは子宮だな。十六歳で子宮筋腫しきゅうきんしゅはないだろう。子宮内膜症しきゅうないまくしょうも生理不順がずっと続けばの話だ。うん。子宮に問題はないな。卵巣はどうだろう。ふむ。チョコレート嚢胞のうほうもないな。


「リア。特に病気は見つからなかったよ。問題ない。そうだな十八歳位から安定する様になると思うんだ。しばらくは様子を見よう。オスカーとよく相談して、この基礎体温表で見て生理の周期が安定してから子を作るか、どうしても早く欲しいなら、また僕に相談しに来なさい」

「はい。ありがとうございます」

 リアは問題ないと聞いて明るい表情に変わった。


「あ、あのぉ・・・」

「うん?レイラも何か心配事があるのかな?では、リアの隣においで」

「あ、ありがとうございます。あの、私、生理の時の痛みが酷くて・・・病気なのではと」

「そうですか。では診察してみようね。少し足を開いてくれる?」


 どれ、同じ様に見てみよう。うん。どこにも異常はないな。

「レイラも問題はないよ。でもそうだな。それだけ言っても不安だよね」


「丁度、十代の女の子が五人も揃っているから生理の話をしようか。生理の痛みはね、程度の違いはあっても女性十名居たら、七、八名は毎回何かしらの痛みや異常を感じているものなんだ」


「腹痛以外では、頭痛、腰痛、吐き気、貧血やめまい、眠気、むくみが出たり、下痢になったり、あとはイライラする人もいる。それで沢山食べたくなる過食なんていう症状もあるのです」


「また、人によっては痛みがひどくて、始めの二、三日は動けない程の人が居れば、何も症状がない人もいるのですよ」


「あ!私。イライラするのってそのせいなのでしょうか?」

「あぁ、もしかしてここに初めて来た時ってそれだったかな?」

「え?もしかしてイライラしていたのがお分りになったのですか?」

「うん。ちょっと顔に出ていたかな」

「ま、まぁ!私ったら・・・」

 レイラが頬を両手で押さえて真っ赤になっている。


「レイラ。聞いていると思うけど、特に痛みが酷くなる初めの二日はお休みして良いからね。お腹を温めると少しは痛みが和らぐと思うよ。それでも痛みが酷ければ僕のところにおいで。痛みを治癒するからね」

「ありがとうございます」


「ニナ、シエナ。生理のことは言い出しにくいことかも知れないけど、折角僕のところで働いているのだから、辛い時はいつでも相談してね。そうだ。今後は生理が始まったら数日間は、一日三回治療をすることにしよう。良いね」

「はい。ありがとうございます!」




 その夜、ベッドの中で。

「お母さま、今日、リアたちに生理の話をしていましたが、お母さまは生理で何かお辛い症状はありますか?」

「実は、生理の度に腰が痛くなっていたのです」

「今まで我慢していたのですね。気がつかなくてごめんなさい」


「月夜見が謝ることはありませんよ。そういうものだと思っていただけなのですから」

「次回からは僕が治療しますから必ず言ってくださいね」

「ありがとう月夜見。あなたは本当に優しい人ね」

 お母さんはそう言って僕を抱きしめた。


 そして、リアとミラは結婚のため侍女の仕事を退職し、城から離れていった。




 夏がやって来た。だが北の大国ネモフィラ王国の夏は短い。


 僕は最近、自分の服に疑問を感じ始めていた。地球に居た頃から正直言って服には無頓着だった。いや、興味がなかった。

医大に入ってからは白衣があればそれで良かった。白衣の中に着るものはYシャツとスラックスで良かったし、そもそも服のことを考える余裕はなかったのかも知れない。


 今はどうだ?ネモフィラの衣装とか、フォルランと同じものを着ていたりする。でも何だか着心地も居心地も良くないのだ。


 そんなことをお母さんに話したら、新しいものができているかも知れないから見に行ってみない?と言われ、今日はお母さん、ステラリアと侍女三人で、プルナス服飾工房へやって来た。


「いらっしゃいませ。アルメリアさま、月夜見さま、ノイマンさま」

「こんにちは、ビアンカ。夏に着心地の良い服はできていないかと思って見に来ました」

「左様でしたか、さぁ、どうぞ、お入りください」


「夏に相応しい服はこちらに御座います。異世界の服を基にして作ったもので御座います」

 それはYシャツの様なシャツで、シルクで作られたものと麻で作られたものがあった。どちらもかっちりしたものではなく、茶色の木製のボタンがアクセントになっていてリゾート感があった。やはり地球で見慣れたものだからだろうか好感が持てた。


 ちょっと気に入ったので、どちらも三枚ずつ買った。パンツは綿と麻のものがあった。なんかずっとこれ着てればいいかな。なんて。


「月夜見はそういうのが好きだったのですね」

「いえ、服に興味がなかったのです。毎日、研究に明け暮れていましたから。生活のことは何ひとつ気に掛けていなかったのです」

 僕の話を聞いて少しだけお母さんの顔が曇った気がした。

「でも、これでもっと気軽に生活できる気がします」


「ビアンカ、同じ生地で女性用のワンピースとかブラウスはないのですか?」

「勿論、御座いますよ。ワンピースは三種類の形が、ブラウスも二種類。どれもシルクと麻で作って御座います。それとワンピースに合わせるケープも御座います」


「それは良いですね。お母さま、僕とお揃いで着ませんか?」

「それは嬉しいですね、是非着たいです」

「では、ビアンカ。お母さまとステラリアの寸法で三着ずつ用意してください」


「月夜見さま。私もお揃い・・・なのですか?」

「ステラリア。そんなに真っ赤になって。そろそろ慣れてくれても良いのでは?」

「は、はい。努力します・・・」


「お母さま、このワンピースに合うサンダルなどはお持ちですか?」

「このワンピースに合わせられるものはないですね」

「それでしたら、当工房でも制作したサンダルが御座います。今、お持ちしますね」


 それは最早、地球の靴店で見ることができるサマーサンダルだった。コルクの底に革製のストラップで足指と足首を支えるのだ。サンプルから上手くコピーしたものだな。


「まぁ!見たことがない形ですね」

「はい。異世界の見本を真似て、この世界にある素材で作ったものです」

「そうですね。見た目は地球のものと同じです」


「お母さま、ステラリア、履いてみてください」

「あら。とても良いですね。これであのワンピースだけを着るのですか?」

「えぇ、ケープも合わせると良いと思いますよ」


「まぁ!なんて軽いのでしょう!」

「はい。こんなに軽いなんて驚きました」

「良いですね。これを頂きましょう」


「あ!そうだ。こうしましょう。侍女三人とアニカ姉さま、ロミー姉さまとフォルランの分も買って、どこかへ出かけましょう」

「どこかって、どこでしょうか?」

「お母さま。海は近くにないのですか?」

「近くはないですが船で行けないことはありません」


「それなら行きましょう。ニナたちの寸法も今、測りましょう。アニカたちの寸法は分かりますか?」

「そうですね、それほどきっちりした服ではないので大丈夫でしょう」


「あ!そうだ。帽子はありませんか?」

「こんな感じでしょうか?」

「麦わら帽子にカンカン帽ではないですか!完璧ですね」

「では、サンダルと併せて購入しましょう」




 数日後、三人の侍女が出勤の日に合わせて海へ出かけることになった。飲み物と昼食、それに絨毯とタオルを持って。


 小型船に乗り込むと、乗っている十人が真っ白だ。女性は麻のワンピースとケープ姿。僕とフォルランは上下麻のYシャツとパンツだ。ついでに小白は元より全身が白い。


 ステラリアに海の方角へ飛んでもらい途中から僕が後押しした。あっという間にとんでもない速さに達し、どんどんと景色が流れて行く。


 あまりの速さに二人の新しい侍女はシートにつかまっておびえている。アニカ姉さまとロミー姉さまもビビり、フォルランはケラケラ笑って喜んでいた。


 結局、十分も掛からずに海沿いまで来た。夏の海は強い日差しを受け、青く輝いていた。しばらく海沿いを飛んで砂浜になっている海岸を見つけて降りた。


 僕が皆を二人ずつ降ろす。最後に小白を降ろすと大喜びで走り回った。


 皆、海の爽やかな風に誘われケープを脱いだ。麻のワンピースにサンダル。そして麦わら帽子。僕とフォルランはカンカン帽だ。夏のバカンスという感じで最高だね。


「うわぁ!私、海は初めてです!あ!すみません・・・」

「シエナ。今日は仕事ではないのだから、気にしないで楽しんで良いんだよ。海は初めて見たのかい?」

「はい!大きいのですね!青いのですね!」

 シエナが笑顔で海を見つめていた。あぁ・・・この娘って良いな。


「レイラは来たことがあるのかい?」

「私も初めてです」

「レイラは冷静だね」

「いいえ、とても楽しいです」


「ニナは月宮殿から見えるから海は初めてではないよね」

「はい。見るだけなら初めてではないです。でも海岸に降りたのは初めてです」

「そうか。では早速、海の水に触れてみようか?」


「皆、風で帽子を飛ばされないように気をつけてね!あと砂が熱くなっているから注意して歩くんだよ」

「きゃー、足がはまりますー」

「水が冷たーい!」

「あ!あそこに動いているのは何ですか?」

「うん?あぁ、あれはカニだよ。横に歩くんだよ」

 早速、フォルランがカニを追いかけ始めた。小白と変わらんな。


「これは何でしょうか?」

「それは貝殻だね。きれいな色や形のものもあるから探してごらん。気に入ったものがあれば持ち帰って部屋に飾ると良いよ」

「はい!」


「それにしても海がきれいだな。水が透き通っていてごみなんて浮いていないし、どこにも人の気配がない。勿論、船も浮かんでいない。本当に美しい世界だな・・・」

「月夜見の居た世界の海はきれいではなかったのですか?」


「人間が少ない地域の海ならばきれいですよ。でも僕は行ったことがないし、そもそも人間が少ないところなんてそう多くないのです」

「そうなのですか」

ここって月が出ていない夜に来たら凄い数の星が見えるのだろうな・・・


「さぁ、皆、あまり長く陽に当たっていてはいけませんよ。木陰で休みましょう」

「何故、長く陽に当たってはいけないのですか?」

「レイラ。日差しというのはね、紫外線と言って人間の肌にとって有害な光を含んでいるんだ。少し浴びる分には健康にも良いのだけど浴び過ぎると火傷やけどしたり、歳を取ってから肌にシミができたりするんだよ。いつまでも美しくいたいならほどほどにしておかないとね」

「はい!分かりました」


 皆でお弁当を食べてお茶を飲み、一日のんびりと過ごした。夕方まで居て小白とフォルランがカニを追い回すのに飽きた頃、帰ることとなった。


「もう、夕方ですよ。帰るのが遅くなってしまいますね・・・」

「シエナ。遅くはならないよ」

「え?どうしてですか?」

「船に乗った瞬間に城に着くからだよ」

「え???」

「そして一度来たここになら、今度は城からも一瞬で来られるよ」


「さぁ、帰ろうか」

 皆を小型船に乗せると王城へと瞬間移動した。


「シュンッ!」

「ほらね!」


「わっ!もうお城です!」

「月夜見さま、凄いです!」

「楽しかったね。また来ようね!」

「はい!」


 この世界の自然は素晴らしい。夏も良いものだな。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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