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29.送り出す愛

 月の都から帰り、神宮へ姉さまを送ってからステラリアと部屋へ戻った。


「ただいま、お母さま」

「お帰りなさい。遅かったので心配しました。クラウゼ公爵家へ行って来たのですよね?」

「すみません。一度、ここへ帰るべきでした」

 僕は今日一日のことをお母さんへ報告した。


「そう!月影は結婚できるのね。それも公爵家の長男だなんて!」

「えぇ、お姉さまは凄く幸せそうでしたよ」

「月夜見。ありがとう。私からもお礼を言うわ!」

「家族なのですから当然ですよ」


「それで、そのまま月宮殿へ報告に行ったのですね」

「はい。ちょっと失敗でした」

「あら、何かあったの?」


「えぇ、ステラリアがお母さま方から色々と言われてしまって。ステラリア。また僕の考えなしであんなことになってごめんね」

「いいえ。大丈夫です。助言を頂いただけですので嬉しく思いました。これからは髪を下ろします」


「まぁ、どうしたのですか?」

「お母さま達が、僕の横に立つのであればもっと美しく居ろと、そして近寄る虫を排除しろとも言っていましたね」

「あぁ、そういうことですか。お姉さま達ならばそう言いたくなるでしょうね」


「それに結婚のことも聞かれました。何人妻をめとるのか?と」

「そうですか。それにはどう答えたのですか?」

「まだ考えられない、と」

「そう。月夜見はそれで良いのですよ。まだ考える必要はありません」

「はい」


「ステラリア。ここへ座って」

「はい。アルメリアさま」

「ステラリア。髪をただ下ろすのではなく、一部を後ろで結ったらどうかしら。ちょっとやってみましょう」


 お母さんはステラリアのこめかみ辺りの髪を左右で編んでいき、後ろへまとめた。あっという間にでき上がった。


「月夜見。どうかしら?」

「はい。可愛いと思います」

「か、可愛い?ですか?」

「そうね。とっても可愛いわよ。それにただ下ろすより、ある程度まとまるから動き易いでしょう?鏡で見てごらんなさい」


「はい。あ!そ、そうですね。これなら簡単だし、騎士仲間でもやっている者が居ますね」

「そうでしょう?あなた、他の騎士と髪型の話なんてしたことないでしょう?」

「はい。ありません」


「お姉さま達は、そういうところから変えていきなさいと言ったのだと思うわ」

「は、はい!分かりました。ではこれを見てもらって結い方を教わります」

「そうね。そうして頂戴」

「アルメリアさま。ありがとうございました」


 ステラリアが退室していくのと入れ違いにリアとミラが入って来た。

「あ!月夜見さま。お帰りなさいませ」

「うん。ただいま」


「月夜見。そう言えば、リアとミラの後任が決まったのですよ」

「あぁ、もう二人の結婚が近いのですね。それでどんな人なのですか?」

「ひとりはウィンクラー伯爵家の次女でレイラ十五歳。もうひとりはクルス子爵家の次女でシエナ十六歳です」

「あれ?シエナ?何か聞いたことがある様な?」


「シエナを知っているのですか?神宮で巫女をしていたのです」

「あぁ、やっぱり。シエナなら知っています。でも何故、巫女を辞めて侍女に?」

「月影の話によると、月夜見と会ってからあなたの話しかしなくなったのですって。そんなに好きならば、侍女に空きができるから移るかと聞いたら二つ返事で飛付いて来たそうよ。嫁にしますか?」


「そ、そうですか・・・確かに可愛い娘ではありましたが・・・結婚はちょっと・・・」

「まぁ、これから毎日、顔を合わせることになるのですからね。ゆっくり考えれば良いわ」

「分りました。いつから来るのですか?」

「来週から来ますよ」

「では、リアとミラから引き継ぎを受けるのですね」


「そろそろリアとミラ、ベロニカとお相手の両親を城へ招きましょうか」

「そうですね。私から手紙を書きましょう」

「アルメリアさま。ありがとうございます」

「リア、ミラ。それで結婚したら子供はすぐに作りたいのかい?それとも時間を置くのかな?」


「私はできれば早い方が良いです」

「私もです」

「二人とも基礎体温表はつけていますか?」

「はい。つけております」

「私もつけております」


 それにしても婚約してからこの半年で何だかとても大人っぽくなったな。二人ともまだ十六歳なのに。地球では考えられないよな。


 まぁ、世界が違えば常識も違う。こちらの考え方に合わせていくしかないのだろう。


「二人はさ。第一夫人になるのだよね。二番目、三番目の妻が来ることはどう思うの?」

「問題ありません」

「はい。私も気にしません」


「それはどうして?」

「この世界では男性が少ないのです。私が旦那さまを独り占めする訳には参りません」

「はい。私も同じです」


「あぁ、それは世間のことを考えれば。の話だよね。そうではなく内心ではどう思うのか気になるんだ。どうかな?」

「そうですね。他の妻たちと仲良くできるかが気になりますけれど、一緒に旦那さまを支えて行けるのでひとりよりも良いと思います」

「領主さまはお忙しいので、ひとりで屋敷に居たら寂しいと思います。他の妻たちと一緒に楽しく過ごせればその方が良いと思っています。私の母もそうですから」


「あぁ、そうなのか。そう言われるとそうなのかな・・・やっぱり僕にはこの世界の貴族の暮らしが分かっていなかった様だ。教えてくれてありがとう」

「そんな。お役に立てたならば嬉しいです」


 その夜、ベッドでお母さんと話した。

「今日は結婚について色々と考えていたみたいですね」

「この世界の男性は多くの妻を迎えることが義務なのかと思っていてちょっと負担に思っていたのです。でもミラたちの話を聞いてそれで幸せなのであれば良いのかなと」


「ミラやこの世界の女性は自分の親を見て、それが当たり前だと思って生きて来たからそう思えるのでしょう」

「あ。そういうことか。地球に生まれて父と母がひとりずつならば、それが当たり前になりますね」

「えぇ、だからどちらが正しいということではなく、その環境がそうさせているのでしょう」


「では、僕はこの世界に生きる以上、多くの妻を迎えるべきなのでしょうか」

「それは決めつけなくても良いでしょう。地球では愛する人と結婚するのでしょう?それならばこちらでも愛する人を見つけて結婚すれば良いのです。ですがひとりだけと決めることはないのです」


「あぁ、そうか!そうですね。簡単なことだったんだ。愛する人が見つかればそれで良いのですね」

「あなたは知らない人を嫁に迎えなければいけないと考えたから憂鬱ゆううつになったのでしょう。成人したら探しに行けば良いではありませんか、愛せる人を」


 嫁探しの旅に出るのか。地球では考えられないことだな。




 今日は新しい侍女のレイラとシエナの初出勤の日だ。侍女長のマチルダが二人を連れて来た。


「アルメリアさま、月夜見さま。こちらが今日から入りました、レイラとシエナで御座います」

「初めてお目に掛かります。私は、マルス ウィンクラー伯爵の次女でレイラ ウィンクラーと申します」

 金髪に美しい緑の瞳をしている。髪が長い様で、この前のステラリアの様にまとめている。


 身長は百六十五センチメートル位かな?良いプロポーションをしているのが一目で分かる。顔は鼻筋の通った少しキツい印象のある美人だ。


「初めまして。私は、ジョバンニ クルス子爵の次女、シエナ クルスと申します」

 あぁ、やはり巫女だったあの娘だ。アッシュブロンドのロングヘアーはレイラと同じ様に編んでまとめている。


 瞳もレイラと同じ緑だ。身長は少し低めで百六十センチメートル位だろうか。目がくりっとして可愛い顔をしている。


「アルメリアです。よろしくね」

「月夜見です。よろしくお願いします」

 紹介が終わるとマチルダは退室していった。


「二人は月夜見のことを知っていて?」

「お目に掛かるのは初めてです。両親から殿下は神さまだと伺っております」

「私は神宮でお会いしており、存じております。神さまにお仕えできて光栄です」


「ははっ。そういう感じになるよね・・・」

「二人とも。月夜見は神であることに間違いはないわ。でも人間でもあるの。だから特別な扱いは要らないのよ。ただね、これから一緒に居ると驚くことが沢山あると思うから、その辺はリアとミラから聞いておいてくれるかしら」

「かしこまりました」




 二人が来てから一週間が経ち、大分慣れて来た様に見える。ただ、僕とお母さんが同じベッドに寝ている姿を見るのだけは慣れない様だが・・・


 今日は城へリアとミラ、ベロニカとその結婚相手の家族を呼んでいる日だ。応接室には長いテーブルを挟んで嫁側と夫側に分かれて座って頂いた。お茶を出すのはニナ、レイラとシエナにステラリアも手伝ってくれている。


 初めに貴族の儀式とも言える長い挨拶を済ませて説明から入った。

「皆さん、今日はお越し頂きありがとうございます。今日のお話は、ご令息、ご令嬢が結婚を控えた皆さまに世継ぎを授かる心得を知って頂くためにお集まり頂きました」

「おぉ!これで我が家も安泰ですなぁ」

「本当にありがたいことで御座います」


 僕は前もって光技師に応接室に電源ケーブルを増設しておいてもらいパソコンとプロジェクターをセットしておいた。

長いテーブルの一端に僕が浮いて立ち、その背後の白い壁にプロジェクターの映像を映し出した。


 映しているのは僕が書いた女性の知識の本をデジカメで撮った映像だ。要するに本を大きく壁に映し出して説明し易くした形、つまり地球のプレゼンテーションだ。


 まずは本に沿って子ができる仕組みと女性の身体の仕組みを説明した。その説明は皆、一度は僕の本を見たことがあるそうなので理解はできたようだ。


「皆さん、大体子ができる仕組みについてはご理解頂けたでしょうか。では、ここから一番大切なお話をします」

「まだ、あるのですか?」


「えぇ、大事なのはここからです。大切なのは結婚する二人をどれだけ親が支えられるかです。特に夫のご両親とご家族のことですよ」

「え?我々が関係あるのですか?」

「私たちは生みませんけれど・・・」

「それは勿論です。だから支える。と申し上げたのですよ」


「一番重要なことは、嫁に向かって世継ぎはまだか?男の子が生めるのか?この様な言葉を投げかけてはなりませんよ」

「それはどうしてでしょう?私たちは心配して申しているのですが・・・」


 ミラのお相手の母親が不満そうな顔で質問してきた。世界会議や各国個別の指導の時にも言っているのだが、やはり簡単には伝わらないものなのだな。


「では、お聞きします。あなたはご自分が結婚されお嫁に行かれた時、お相手の親御さんから同じ様なことを言われたことはありませんでしたか?」

「あ!そ、それは・・・御座います」

「その時、あなたはどうお感じになられましたか?もう忘れてしまわれましたか?」


「わ、私は・・・自分に子ができなかったら追い出される。実家のお父さまに何を言われるかと心配していました」

「それはおつらいことでしたね・・・それですぐに子はできましたか?」

「いいえ、三年掛かりました」


「えぇ、そうなのです。女性はその様な言葉を投げかけられると、心配になって心が疲れてしまうのです。すると生理が正しい周期で来なくなったり、受精しても着床と言って子宮の中で育たず子ができないという状態になる方もいらっしゃるのです」

「そ、そうだったのですか!」


「えぇ、ですから親だけでなく夫もです。絶対に先程の様な心無い発言をせぬ様、ご注意ください」

「かしこまりました。肝にめいじます」


「それと、最初の子の妊娠に三年を要したとのことでしたね。これは別の可能性なのですが、女性は十代の頃はまだ生理が安定していないことが多いのです。一、二週間で次の生理が来たり、二か月も来なかったりします。安定するまでは余計に妊娠しにくいのです」


「そう言えば結婚した頃は、二か月くらい生理が来ないこともありました」

「そうですか。ただその原因が発育途中のせいなのか、精神的な疲労からなのかは判断がつかないのですけれどね。いずれにしてもその可能性を減らすことはできるのです」


「身体がまだ未成熟な十代の若い妻は、特に気に掛けて大事にしてあげないといけませんよ」

「はい!かしこまりました」


「次に大事なことは夫の仕事量に気を付けるのです」

「夫にどんな関係があるのですか?」

「そう思ってしまいますよね。子を作るのは女性だけではできません。男性も重要なのです」

 名は出さずにローレル家の話を例に、夫が過労状態では子ができないことを説明した。


「良いですか男にも不妊症はあるのです。女性のせいばかりにしてはいけませんよ」

「ははーーっ!神さま!私が間違っておりました!」

 ちょっとオーバーなお父さんが居るな。あぁ、ベロニカのお父さんだ。ベロニカが恥ずかしそうにしている。それもまた可愛い。


「ですから夫の体調も万全でなければなりません。働き過ぎにならない様、ご両親やご兄弟とよく話し合って頂いて仕事を分担する様にお願いします」

「よく分かりました。ありがとうございます」


 僕は宙に浮いたまま、ゆっくりとベロニカに近付くと両手をベロニカの肩に置き、自分の顔をベロニカの肩に乗せ、

「最後にひとつ、私はベロニカが大好きなのです。マシュー家の皆さま。私の可愛いベロニカを頼みますよ」

「は、はい!肝に銘じます!」


 続いてリアの背後に移動し、同じ様に肩に手を置き顔を寄せると、

「私はリアの笑顔が大好きなのです。ホーソーン家の皆さま。私の大切なリアをお願いしますね」

「はい!必ず大切に致します!」


 最後にミラにも同じ様にして、

「そしてミラもです。私の大好きな娘なのですよ。シュルツ家の皆さま。私の大切なミラを泣かせる様なことがあれば・・・分かっていますね」

「はい!お約束致します。必ず大切に致します」

 ちょっと脅しみたいになってしまったかな?

「皆さま。ありがとうございます」


「ベロニカ。リア。ミラ。万が一、辛いことや悲しいことがあれば、すぐに私に伝えてください。瞬間移動でいつでもあなた達の元へ飛んで行きますからね」

「月夜見さま!ありがとうございます!」

「ありがとうございます!月夜見さま」

「本当にありがとうございます」


 ベロニカ、リア、ミラはぐしゅぐしゅになって泣いていた。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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